コマース+実店舗の「コーナーストアー」とは?ーーコンビニ業界へ進出するEコマース企業「Foxtrot」から紐解く4つの強み

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Things to do on a snowy day in Manhattan./Image by  Jazz Guy

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アメリカのコンビニへ足を運んだ方は、日本との違いに驚いたことでしょう。

私の住んでいたサンフランシスコ地域には「セブンイレブン」が出店していましたが、ホームレスがコーヒーマシーンの横にある砂糖を目当てに、四六時中入り浸る不衛生な印象がありました。衛生状況の悪そうな店内の雰囲気に影響されて、陳列されている商品に対してもあまり良い印象を持ちません。

また、買い物代行サービス「Instacart」の台頭に代表されるように、15ドル程度のお金を払って1週間分の買い物をまとめて済ませる消費者志向が広まったことで、コンビニへ足を運ぶ機会がさらに遠のきました。

しかし、本来コンビニが対応すべき、お菓子や趣向品を思い立った時に買う「ちょい買い需要」は未だにカバーできていないのが現状です。

既存の配達プラットフォームを使うと、ちょっとした買い物にも関わらず10ドル以上の費用を支払う必要があり損した気分になります。一方、日本型コンビニのように品揃えやしっかりと店内が整備された店舗はありません。

このような市場ギャップに対して、より手軽な配達価格で商品を届けてくれる需要が注目され始めています。そこで登場したのが「コーナーストアー」です。

「Foxtrot」が指し示す新しいコンビニ業態「コーナーストアー」とは?

Foxtrot 」は2013年にシカゴで創業され、これまでに780万ドルの資金調達に成功している小売企業で、同社が標ぼうしているのが「コーナーストアー」です。

「コーナーストアー」とは、Eコマースと実店舗の両方の側面を持つ食品・日用品販売事業者を指します。オンデマンド配達と実店舗販売の両方のチャネルを持っている点が特徴です。

同社のターゲット顧客は、家にいながらにしてすぐに日用品を手にしたい「アージェント・ニーズ(緊急性の高い需要)」を持っている層。そのため、Eコマース事業に戦略主軸を置いています。

「Foxtrot」はシカゴ市内に4店舗の実店舗を保有し、顧客は同店舗で商品を購入することができますが、市内であればアプリを通じて1時間以内に配達してくれるオンデマンド配達サービスも提供。配達価格は一律5ドルと、前述の「Instacart」の半額ほどの料金設定です。

ちょうど私たちが雨の日にピザを注文したくなる消費者意識と同じく、寒い日が続く東海岸だからこそ、わざわざ外出してたった数点の食品を買いに行きたくない「面倒くさがり層」にリーチできています。実際、30分以内に食品・日用品を1.95ドルで配達する「 GoPuff 」も、フィラデルフィアを拠点に東海外でサービスを急拡大させています。

「コーナーストアー」が打ち崩す日本型コンビニ4つの常識

Image by  Japanexperterna.se

「コーナーストアー」の強みは、日本型コンビニ経営とは違う4つの戦略にあります。

1つは商品の品揃えです。「Foxtrot」はアルコールとおつまみの提供に特化。お酒関連の趣向品だけを揃えることで、商品をキュレートすることができ、ニッチ分野で認知度を高めることで顧客の囲い込みを狙います。

また、頻繁に在庫補充する物流コストの削減や販売時期の過ぎた売れ残り品を抱えるリスク削減を行うため、消費期限の長い商品に目をつけている点が、秀逸なオペレーションを組み立てているといえるでしょう。前述した「GoPuff」も、生鮮食料品など短期間に在庫入れ替えを必要とする商品は扱っていません。

2つ目は、自社配達網の開発によって「ドミナント戦略」を打ち崩している点です。日本のコンビニは、1つの地域に集中的に自社ブランド店舗を出店させ、地域全体の顧客需要を丸ごとカバーする「ドミナント戦略」を採用しています。

同戦略のメリットは、1つの地域に店舗が集まっているため、在庫供給をするための配達コストが安くなる点です。店舗が分散していては、商品配達に対してかかる時間コストが大きくなりますが、「ドミナント戦略」を採用していれば、配達トラックの回る店舗数が減り、効率的に在庫補充を行えます。

しかし競合コンビニブランドが一斉に「ドミナント戦略」を採ったことで、日本では1つの地域に複数ブランドの店舗が立ち並ぶ結果になりました。消費者としては嬉しい結果ですが、企業側からしたら差別化が難しくなり、同じ顧客を食い合うレッドオーシャンビジネスの様相を呈しています

一方、「コーナーストアー」はEコマースに軸を置いていることから、サービス成長の要は店舗数拡大ではなく、配達網の拡大にあります。こうして「Foxtrot」の場合、日本型コンビニ経営では1つの街に20-30以上の店舗を構えるところを、たった4店舗の運用のみで都市1つを丸ごとカバーできる配達網の構築へと資金を投じているのです。

クラウドソーシングを基にした配達網の開発は、実店舗を構えるコストと比べたら低コストに抑えられ、サービスの急拡大を望めます。

3つ目は、少数店舗運営です。前述の通り、「Foxtrot」は4店舗の運営だけでシカゴ市全域をカバーできています。店舗数を少数に抑えることで、人件費の削減と自社社員による店舗運営が可能となります。この点、オーナー制度を敷く日本型コンビニ経営において、本社のマネージメントコストがかかるデメリットをカバーしているといえるでしょう。

加えて、消費期限の長い商品が陳列してある店舗は同時に在庫センターにもなりえるので、別口で在庫保管コストが不要になる点も、少数店舗運営の大きなメリットです。

最後は顧客データの収集。店舗拡大を主軸にした日本型コンビニでは、ポイントカードを使わない限り顧客データの収集はできません。しかし、「コーナーストアー」はオンラインを通じて顧客データを効率的に集めることに成功しています。

顧客データが膨大に集まれば、各時間帯に合わせた商品配達の需要と供給の事前予測が可能となります。データが集まれば集まるほど、配達事業の精度を高めることができる仕組みです。

すでにサービスを閉鎖していますが、お弁当配達サービス「 SpoonRocket 」と「 Sprig 」がデータを活用した配達網の開発で1,000万ドル以上の資金調達を行っていることから、配達需要の事前予測分野には投資家も大きな関心を寄せているといえます。

Image by  ╬ಠ益ಠ)

「Foxtrot」が満たす「ちょい買い需要」への対応は、まさに日本型コンビニが行ってきたことです。しかし、ビジネスモデルの根幹の全く違うものが「コーナーストアー」の概念です。

Eコマース事業者だからこそ獲得できる顧客データをもとに、商品キュレーションや自社配達網の開発にさらに磨きをかけるモデルは、今後の小売業界において見逃せないトレンドでしょう。

顧客データ主義を貫く「コーナーストアー」は、近い将来日本のコンビニの脅威になると感じています。「Amazon」が実店舗へ進出したように、Eコマース事業者がコンビニ業界へと進出し始めた大きな変革がアメリカ東海岸から起きていると考え、注視する必要があるでしょう。

 

via built in chicago

 

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