私の考えは間違っていた。日本のイノベーションの未来を築くのはスタートアップではない。(1/3)【ゲスト寄稿】

by ゲストライター ゲストライター on 2018.3.22

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


Image credit: fberti / 123RF

今日も特別番組をお送りします。ゲストはいません。ビールもありません。第2外国語として英語を話すゲストとふざけた冗談を言い合うこともありません。今日は私とリスナーのあなただけです。私は非常に大事だと思っているものの、十分に多くの人が話していない事柄があります。私は今から20分間、それを皆さまの耳に入れたい思います。

この番組でソロトークをやるのは久しぶりです。ソロトークは私の放送回の中でもとても人気なようで、多くのリクエストを頂きますし、とても好きでやっています。私ももっとソロトークをお送りできればいいのですが、ソロトークというものに費やされるリサーチと校閲作業の量の多さを知ったら、リスナーの皆さんもびっくりされるかもしれません。準備が3分の2まで行って残りをまとめているところで、自分の主張の大枠が間違っており、すべて書き直さないといけないことが判明した時などはなおさらです。

残念なことに、私はマイクのスイッチを入れてさらっと20分間話せるほどスマートな人間ではありません。すごい行動や発言をする驚異的にクリエイティブな日本のスタートアップ設立者やイノベーターと座ってお話ししている方がずっと楽です。

ただ、今日は、1年ほど前に初めて私の頭に浮かんだ考えをお話しようと思います。リサーチをすればするほど、人々と話をすればするほど、その考えは正しいと確信するようになりました。私はこれまでその考えについてあまり話したことはありませんでした。というのも、正直、これはここにいるスタートアップ界の多くの人が反対するような内容ですし、中にはものすごく強く反対する人もいるだろうからです。しかし重要なことなので、気を引き締めて、話を始めましょう。

今後20年、スタートアップが日本経済を回復させることもなければ、日本のイノベーションの第1の原動力になることもないでしょう。誤解しないで下さい、スタートアップには果たす役割があります。それもとても重要な役割です。しかしスタートアップは変革の第1の原動力にはならないだろうと言いたいのです。

スタートアップではありません。向こう10年大規模なイノベーションと経済成長の第1の原動力になるのは、日本の中企業でしょう。

このことを理解するために、私たちは、日本の中企業が今日の日本経済で果たす役割について検討し、その後事態がどうしてこうであるのか、そして今日本が重要な転機にあるのはなぜか理解するために、少し前の時代を振り返り、そして最後に、今後15年ほどで事態がどう変化するか、検討していきたいと思います。

さて、このポッドキャストを聞く普通のリスナーの皆さんは、このような話題はつまらないとお感じになるかもしれませんが、今 Disrupting Japan をお聞きの皆さんは特別に恵まれた方々です。私と一緒に問題の複雑さに浸って下されば、きっと報われます。話についてきて下されば、20分後には日本の中企業について、またおそらく日本のスタートアップについても新たな見方を得られると約束します。

日本の企業界を家族に喩えれば、日本の中企業は兄弟の真ん中っ子です。トヨタ、三菱、パナソニック、三井といったご存知のブランド大企業は、大方かつて非常に有力だった系列企業のなごりです。これら大企業は言わば長男です。これらの大企業の名前は誰でも知っており、ニュースでも取り上げられます。彼らには影響力があります。また、日本政府(国会議員と官僚の両方)と緊密に連携して、日本の大企業のニーズが国の政策と国際貿易協定に確実に反映されるように図っています。そして当然ながら、政府の助成金、一次契約、経済刺激政策の圧倒的多数は、こうした大企業を対象としたものです。

日本のスタートアップは言わば末っ子です。スタートアップ企業は、経済的に影響をもたらすからではなく、新しいという理由で、日本の心と想像力を虜にしました。彼らはすごいことを言い、行い、築き上げます。彼らが日本で愛される理由はそこにあります。スタートアップはほんの少しの業績でもあれば、メディアで褒めそやされ、注目を浴びます。

すごい! 製品を配送できたんだね! 素晴らしい! 君は僕の誇りだ。ほら、100万ドル投資してやるよ。

……というようにです。

しかし、日本の中企業は中途半端なままでした。過去50年間、中企業は地道に、そして信頼されつつ、大企業のサプライチェーンの主力をなしてきました。日本の労働者の大半を雇い、報われないことが多くても、イノベーションを安定して生み出してきました。そして大量の仕事をこなしながらも、ほとんど何も注目されてきませんでした。

そしてご存知の通り、日本が経済問題に直面するたびに、犠牲の矢面に立たされるのは中企業です。政府に救済援助を取ってもらうだけのコネクションが中企業にはなく、また、大企業は困った状態に陥ると、情け容赦なく中企業を圧迫します。

なぜ大企業はこれまでこんなことをやり通してこられたのか、そしてこの力関係が今後どのように変わろうとしているのか、後でお話しします。しかしまずは、なぜ日本経済の未来が大企業やスタートアップよりもずっと中企業にかかっているのか、その単純な理由を見ることにしましょう。

大企業、中企業、小企業というのが正確にはどういう意味なのか、定義したいと思います。今日の議論では、経済産業省による定義を用いたいと思います。なぜなら、こうした事柄の定義を決定している機関は、まさに経済産業省だからです。

製造企業については、経済産業省は中企業を、20人以上300人以下の従業員を抱える企業のことと定義しています。従業員20人未満の企業は小企業、従業員が300人を超える企業は大企業とされます。非製造企業については、中企業は5人以上100人以下の従業員をもつ企業とされています。従って、中企業というのはヨーロッパの多くの国やアメリカの場合と比べて、やや小さめに定義されていることになります。

さて、定義を終えたところで、日本経済に中企業が与える影響について理解すべき最も重要なことは、中企業は日本経済そのものだということです。中企業は日本の労働人口の54%を雇っており、これは大企業と小企業の雇う労働人口の合計より多いのです。そして、中企業は日本の企業収益全体の48%を占めます。

では、中企業が経済に対して多大な影響力を占めるにも関わらず、経済政策に対する中企業の影響力の無さ、取引先に対するバーゲニングパワーの無さはどう説明したらよいのでしょうか。

こうした困った事態から日本の中企業(とその他日本全体)が今後いかにして脱却していくか検討する前に、数十年前を振り返り、中企業がどうしてそのような事態に陥ったのか理解したいと思います。

戻る先は系列企業、いや本当に立ち戻って考えるなら、財閥を振り返ることになるでしょう。一般的に、戦後、日本の産業は系列と呼ばれる競合する企業グループへと編成されました。各企業系列には自身の主要銀行、取引企業、不動産会社、重工業会社などがありました。系列に属する大手企業同士は、株式の持ち合い、重役の兼任によって結びついていました。そしてこれらの大企業は、サプライチェーンを構成する、より知名度の低い無数の大企業と中企業によって支えられていました。こうしたサプライチェーンは厳しく統制され、よく知られたほんの一握りの例外を別にすれば、何らかの系列のサプライチェーンに属する中企業は、自社の系列グループ外では売ろうとしませんでした。これら中企業の成功は系列自体の成功と切り離すことのできないものでした。

さて、こうした企業の配列は供給業者にとってはひどいことのように思われますが、実はそれほどひどくはありませんでした。特に初期の時代にはそうでした。大きな系列企業は、自社のサプライチェーンをなす中企業に対して、ほとんど父親のように手厚く世話をしたのです。

大企業は技術移転や技術教育をよく行いました。中企業の研究や開発に対し部分的に出資もしました。そして何よりも中企業に一定程度の売り上げと収益を保証していました。中企業の経営者も従業員も裕福にはならなかったとはいえ、彼らのビジネスはシンプルでした。彼らは大半の市場勢力から守られ、販売・マーケティング機能を発達させる必要は一切ありませんでした。だからこそ彼らは製品開発と製造に集中することができたのです。

このような企業関係の編成は、あらゆる方面にとって、中でも大企業にとって上手く機能しました。経済が急速に拡大している限り、十分なお金が回っていました。

しかし90年代に事態が変化し始めました。円高になり、それが日本製品の海外価格を高騰させ、日本の大企業はもはや60年代、70年代のようにはイノベーションを行っていませんでした。お金に余裕はなくなり、大きな系列企業は自社のサプライチェーンを圧迫し始めたのです。

大企業は他のコスト削減も行いましたが、系列グループ内の被害の矢面に立ったのは中企業でした。これら中企業は情け容赦なくコスト削減を迫られただけでなく、大企業は自らの新たな人員問題を解決する手段として中企業を当てにするようになりました。

ご存知の通り、日本の大企業は、かつては基本的に全雇用者に対して生涯雇用を約束していました。これは労働に需要がある時代には理のかなったことでした。中途転職を認める大企業は無かったため、賃金は低く抑えられ、従業員は企業に忠実でした。もちろん、仕事を十分にこなせない役立たずの従業員もいましたが、人員が足りていると思われることは決してなかったため、そのような従業員にもやらせることは何かしら常にありました。

売り上げが急に減り始めた時、こうした状況すべてが変わり始めました。そのような非生産的な従業員たちが労働意欲、生産性の両面で大問題になったのです。そこで系列のリーダーらは完璧な解決法を考えました。こうした役立たずの従業員を捨て、子会社や、サプライチェーンを構成する中企業に回せばいいというのです。そして、もしその中企業がそんな従業員を雇いたくないと言うならば、もちろんそれまでですが、これら中企業は営業を継続するために、怠けた従業員であっても従業員リストに載せたものでした。

第2編に続く。〉

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