私の考えは間違っていた。日本のイノベーションの未来を築くのはスタートアップではない。(3/3)【ゲスト寄稿】

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


Image credit: fberti / 123RF

第2編からの続き〉

日本企業の海外進出を援助するための政府の優れたプログラムもあることはありますが、政府の大半の取り組みは財政的援助に関するものです。実際、2016年には、日本中の全中小企業への融資のうち20%は日本政府から直接行われたものか、日本政府により保障されたものでした。

明らかにこれでは持続不可能です。

また、私たちはグローバル市場に売り込むことのできる企業を探しているのですから、66万ある中企業のうちローカルな企業やサービス企業75%を除く必要があります。そうするとグローバルに展開する能力のある16万5,000の日本の中企業が残ります。

日本経済の未来、日本が世界的な技術革新国として再び認識されるかどうかは、実にこれらの中企業16万5,000社、言わば来たるグローバル競争時代を生き延びる比較的小さな中企業群にかかっているのです。

ではなぜ私は大企業やスタートアップよりも中企業に信頼を置くのでしょうか。今土壇場に追い込まれているのが中企業だからというのが理由の一部です。中企業は大企業と違って、多大な資金の積み立てや、お金になる政府との契約に頼って楽することはできませんし、大半のスタートアップと違って、投資金を求めて比較的大きい国内市場に頼って成長を目指すこともできません。

成長というのはスタートアップにとっては違った様相を見せます。もちろん、日本のスタートアップも中企業も同一の日本国内市場で動いているかもしれませんが、10万米ドルの年収益があるスタートアップは、海外に見向きしなくとも年100%の割合で簡単に成長できます。それに対して、既成の中企業に1億米ドルの収益があろうと同じような成長の仕方は全く不可能です。

今後生き残るためには、日本の中企業は実際の世界の顧客のために、リアルな問題を解決しなければいけませんが、嬉しいことに中企業の多くは既にそれを始めています。現在日本のスタートアップに比べて、日本の中企業はずっと多くの世界レベルの技術を有しているのです。

真に素晴らしい日本のスタートアップを批判するつもりではありません。単に事実を述べているだけです。たとえ中企業のうちグローバルに展開する可能性のあるほんの一部分、すなわち16万5,000の会社だけに注目するとしても、それらは日本のスタートアップよりも大規模で、既にグローバル市場で認められた革新的技術をもった企業なのです。

日本の中企業が、利益の少ないニッチ製造企業から非常に儲かる世界的ブランドに変身したいと思う時、今日直面する2つの課題は、第1に自社の技術を活用し製品化すること、第2に世界の消費者にその技術を知らしめることです。

この際、日本の中企業はスタートアップから学ぶことができるし、実際に学んでいくだろうと私は思います。スタートアップが安価で素早く新製品を開発し普及させるために使った同じ技術を中企業も使うことができます。サンフランシスコのスタートアップが素早くグローバルな消費者基盤を築いた技術と手段を、日本の中企業も用いることができます。

分かりますよ、ここスタジオからでさえ、日本の中企業がこんな風に動けるという考えを聞いてリスナーの皆さんが呆れていらっしゃるのを感じます。疑うのはよく分かります。特に、日本の中企業で働いた経験のある方ならです。確かに、嫌になるほど保守的で、偏狭でさえある中企業も多いです。しかし彼らも今地盤が動いているのを見ています。CEOたちは、変わらねば、そうでないと生き残れないと分かっていますし、実際にすぐにでも変わる必要があります。ビジネスを閉鎖した CEO として記憶されたい人などいません。

CEO らに変革を行う能力はあるでしょうか? 私はあると思います。少なくとも一部の CEO には変革の能力があるでしょうし、それで十分です。まだ疑っているという方がいらっしゃれば、別に悪いとは言いませんが、典型的な、あるいはステレオタイプとなった日本の中企業よりも、非典型的な中企業のことを考えて頂きたいと思います。何しろ、有望な中企業が全部で16万5,000もあることを思い出して下さい。このうちたったの1、2%だけでも現代的な商品の構想、普及、成長技術を上手く採り入れ始めれば、日本経済を大きく変える影響力となるでしょう。

個人的には、1、2%をはるかに上回る数の中企業が成功すると思っています。そしてこれら中企業には大企業よりも、こうした変貌を遂げる見込みがずっとあると思います。

200人企業の文化と方向性を変えるのは、2万人企業の文化と方向性を変えるのよりずっと簡単です。NEC のような10万人企業と比べればなおさらです。300人企業は、(経済産業省が中企業を従業員300人以下の企業と定義しているのを思い出して下さい)未来への真なるビジョンをもったカリスマ的で意欲ある CEO がいれば、方向転換を遂げることができます。そして2,000人企業、さらには2万人企業へと成長する軌道に乗ることができます。

事実、日本の中企業は、成長初期、成長途中の段階にあるアメリカのスタートアップとそれほど規模が変わりませんし、後者と同程度に機敏な企業になることが可能です。

私はよく旅行をします。多くの地域が第2のシリコンバレーになりたがっています。日本の、ドイツの、アメリカ中西部のシリコンバレーなどという言い方を誰もが耳にしますが、こういう状態を克服できればいいと私は思っています。簡単にシリコンバレーを作る魔法や秘訣などありません。

第2のシリコンバレーなど決して現れないでしょう。国や立地それぞれにふさわしいやり方を見つけ、その地の強みと弱みは何か知り、世界中から最高のビジネス手法を採り入れ、独創的で真似できないものを生み出す必要があります。

そしてよろしいですか、この過程を日本以上に上手くこなす国はありません。日本の第2次大戦敗戦後、アメリカ占領政府側で働く多くの経済学者は、日本は決して完全な経済復興を遂げられないだろうと結論付けました。日本のインフラは完全に崩壊しましたし、日本には競争力ある資本主義的な民主主義の土台となる歴史的な枠組みがありませんでした。そうした多くの経済学者は、日本はずっとアメリカのある種の保護国であり続けるだろうと考えていました。

実際にその後結果がどうなったかは、私たちの知るところです。日本の産業界は、世界から最高のビジネス手法を学び、これを適用して、日本の強さを活用した日本独特のシステムを生み出したのです。そして30年後には日本は絶望的な経済的無力から、地球上で2番目に大きい経済国へと変貌を遂げ、自動車、時計、家電、カメラ、その他の産業の在り方を完全に変えました。

日本は変わると決めたら、いかに速く、完全に変わることのできる国であるか、見くびってはいけません。

そして今回、変化は大企業やスタートアップからではなく、中企業から起こるであろうことは非常に明らかだと思います。大企業というのは、巨額の蓄えがあり、変革を強いるような存在の危機などには直面していないのです。また、日本のスタートアップでは驚嘆すべきことが行われていますが、経済の針を本当に動かすのに十分な数ではありません。少なくともこれまでのところはです。公平に言って、最も技術面で成功したスタートアップは中企業なのです。

繰り返しますが、これから重い課題をこなすかどうかは、もちろん日本の中企業次第です。しかし、既に、これら中企業の一部は世界最高に数え入れられる技術を生産しており、世界の最も革新的なスタートアップと同じ手段や技術を使える状態にあります。

多くの点で現代日本の中企業は系列企業を1960年代に取り巻いていた状況と似た状況にあります。つまり世界の消費者にはほとんど知られていないということです。これら中企業が対象とするのは、経済の拡大を刺激できるほどの売り上げを支えられないような国内市場です。しかし彼らは世界市場でも競争できる技術を手にしているのです。そしておそらく最も重要なことは、彼らが、広く利用可能で検証済みの世界最高のビジネス手法を取り入れて、問題を解決することです。

日本の中企業の CEO たちは、ひょっとするとソニーの共同創業者である盛田昭夫氏からインスピレーションを得られるかもしれません。盛田氏は技術を斬新な製品へと変えてしまう天才でした。盛田氏の方が一世代前ですが、スティーブ・ジョブズ氏以上かもしれません。

50年代、60年代、ソニーの状況は今の中企業の状況とたいそう似たものでした。ソニーには優れた技術があり、世界中の多くの企業がソニーを製造子会社として、あるいは自社のブランド名で製品を作らせる OEM として、自社のサプライチェーンに組み入れたいと考えていました。

盛田氏がそのような取引を拒否し、ソニーは自社の製品を作り自らのブランドを立ち上げると譲らなかったことは有名です。その後数十年で、小さな企業だったソニーは巨大企業に成長し、産業界を変革し続け、トランジスタラジオ、トリニトロン、オーディオ CD、初の家庭用ビデオレコーダー、ウォークマンなどを広めました。若いリスナーの皆さんにとっては信じ難いと思いますが、盛田氏が1999年に亡くなった時、アメリカでずば抜けて愛されていたブランドは、コカコーラ、GM、Apple などの巨大企業をはるかに超えて、ソニーだったのです。

革新的技術を製品化する日本の能力を疑う人は、日本の過去を忘れた、記憶力に乏しい人です。

もちろん時代が変われば事態がどう転ぶかも変わります。いつでもそうです。

しかし、主要メディアの関心が規模、知名度共にトップの日本ブランドに集中し、スタートアップに関するメディアの関心が、至るところでローンチされる紛れもなくクールで奇抜な小さなスタートアップに集中する一方で、変革の本当の実行者が見逃されています。

今度は変革は中企業から起こるのです。

今回お話ししたこと、また私のソロトーク編全般について何かお考えがあれば、ぜひお聞きしたいと思っていますので、disruptingjapan.com/show091 のページまでお越し下さい。またお好みなら、私たちの FacebookTwitter をフォローするか、Disrupting Japan の LinkedIn ページをご覧下さい。

メッセージをお待ちしております。

しかし何より、お聞き頂きありがとうございました。そして日本のイノベーションに関心のある方々にこの番組を紹介して下さいますようお願いします。

お話は Tim Romero でした。Disrupting Japan を聞いて頂きありがとうございました。

〈完〉

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