日本の非効率な医療現場を変えるエンタッチ、あるアメリカ人起業家の挑戦【ゲスト寄稿】

by ゲストライター ゲストライター on 2018.4.28

本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。

Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


日本について最も普遍的な神話の2つは、会社を作ることが難しいということと、外国人としてビジネスをするのは難しいということだ。両方共難しいことは事実だが、他の国に比べて難しいというわけでもない。

日本の製薬業界は急速に変化しており、いくつかの要因により、製薬会社はビジネスのやり方を変えざるを得なくなったり、撤退を余儀なくさせられたりしている。Marty Roberts 氏はこの変化にビジネス機会を見出し、彼の会社エンタッチはこの分野で早くもリーダー的存在となった。

Tim:

エンタッチが解決しようとしているのは、どんな問題ですか?

Marty:

我々は、製薬会社が医師とコミュニケーションするのを支援します。製薬会社は、日本で医師に薬を宣伝するのに年間200億米ドル以上を費やしています。伝統的には、製薬会社はセールス担当者を病院に出向かわせ、1日のほとんどの時間を廊下で待ち、医師と1〜2分間だけ話をして新薬や新製品について伝えるという形をとっていました。しかし、医師はたいてい忙しく、そういうときは集中して話を聞いてもらうことはできません。誰にとっても非効率で、コストのかかるシステムです。

Tim:

それをどう変えようとしているのですか?

Marty:

エンタッチは、医師がセールス担当者と話す時間をスケジュールし、情報が得られるオンラインシステムです。医師は新薬について知りたいと思っていますが、都合のよい時間に話をする方法が必要です。製薬会社には、今すぐにでもコストを下げるよう多くの圧力がかかっています。現在、ジェネリック医薬品(後発医薬品)が定期購入の60%を占めており、日本政府はこれを2020年までに80%にまで引き上げることを目標においています。

Tim:

Marty さんはエンタッチを始める前、フランスの製薬業界マーケットリサーチ会社セジデムで、日本のカントリーマネージャーをしていましたね。

Marty:

仕事内容としては、マーケットリサーチ以上のものでしたね。患者データビジネス、マーケットリサーチビジネス、出版ビジネス、医療セールス担当者向けの Salesforce 連携に特化したソフトウェア会社も経営していました。セールス担当者がどう時間を使い、医師がミーティングに感じている重要度や、ミーティングの後に何を覚えているかを示したを持っていました。この市場には、多くの非効率があるとわかりました。

Tim:

それで、ビジネスをスタートしようと決めたのですか?

Marty:

当初は、ソフトウェア販売で問題を解決しようとしました。アメリカには、医療セールス担当者と医師を遠隔でコンサルテーションするシステムを持った企業が複数存在します。実のところ、ここ15年をかけて、大半の医師は医療セールス担当者との会話をオンライン化してきたのです。この技術トレンドは明確です。我々の当初の計画は、この(可能性が)証明されたシステムをライセンスし、ローカライズして日本で販売するというものでした。

Tim:

うまくいきましたか?

Marty:

期待したようにはいきませんでした。見込み客にソフトウェアを見せはじめたところ、誰もがそのアイデアを気に入ってくれましたが、日本ではすべてのセールススタッフが完全に行動を変え、新しいオンラインシステムを使い始めるということだけを発表することはできません。必要な再訓練には、非常に大きなハードルがあることが明らかになりました。ただソフトウェアを売るだけでは機能しなかったわけです。

Tim:

なるほど。オンライン販売には、対面販売とはまた違ったスキルセットが必要になるわけですね。それで、会社の中で反対意見に取り組もうとしたわけですか?

Marty:

この分野に可能性があることはわかっていましたが、日本市場独特の需要に合わせるには、自前でセールス担当者を雇いトレーニングする必要があったんです。しかし、その頃、セジデムはちょうど買収される真っ只中で、新たなビジネスをスタートさせることには関心がありませんでした。このときが自分の会社を始めようと決心したときだったと思います。しかし、その旅立ちを計画するには長い時間が必要でした。

Tim:

どのくらいの時間ですか?

Marty:

エンタッチを始めるために セジデムを離れたのは1年半後です。セジデムが合併されるのを見届け、新会社を立ち上げることで NDA や非競合契約に違反しないような方法でセジデムを退社するようにしました。スタートアップの時間軸で言えば1年半は非常に長いですが、計画に時間を費やしたことが後に報われました。十分に計画したことで、最終的に会社を設立したときに物事進めやすくなり、おそらく、成功の可能性も高まったのだと思います。

Tim:

Marty さんにとって、スタートアップには全く初めての挑戦だったわけですが、早期の従業員や投資家はどうやってみつけたのですか?

Marty:

それが本当に大変でした。スタートアップイベントに通い、アドバイスをくれる全員に連絡を取りはじめました。Tim さんと最初に会ったのも、エンジェル調達のやり方についてアドバイスが欲しいと、私が冷たい感じのメールを送ったときでしたね。

Tim:

(笑)確かに、そうでした。その出会いが役に立ったようですね。

Marty:

多くの時間を費やして、自身のアイデアを説明しました。たいていの人々はそのビジネスを理解しませんでしたが、数人は正しく理解し投資の意志を示してくれました。我々のセールス担当者の多くは遠隔で働いているので、過疎地域の就職支援企業に向けた政府の貸付金の恩恵に預かることができました。

スタッフを見つける上では、我々がやっていることの価値を理解してくれる業界関係者が多くいて、彼らは我々の一部になりたいと考えてくれました。製薬業界以外の出身者は、このビジネスの可能性を確信するのに少し時間がかりましたが、一旦、その価値を理解すると、多くの人が参加したいと言ってくれました。スタートアップ業界に新参者であっても、自分のビジョンを信じてくれる人を見つけられれば、会社は作れるのです。


興味深いことに、ヨーロッパやアメリカの業界動向を見て、日本も5年後、または保守的な製薬業界の場合で15年後に、同じ動向を採用するだろうと考える日本人創業者が多い。

日本の産業界は、ある技術が海外で証明されるまで待っている傾向にある。しかし、Marty 氏が発見したように、その技術を日本に持ってきて、それを売ろうとするだけではダメだ。それは往々にして、違った形でのパッケージ化やポジショニングが必要になり、エンタッチのケースで言えば、アメリカでは必要ないが日本の顧客が求める、一連のサービスとバンドルすることとなったわけだ。

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