家事代行とコマースを融合した「生活開発市場」の可能性ーー「Hello Alfred」と「Cubigo」から考える日本のシニア市場戦略

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多数の分野でオンデマンドサービスが登場していますが、毎回同じアプリを立ち上げて、サービスを予約するプロセスに煩わしさを感じている人は少なくありません。特に家事代行サービスは、部屋の掃除から洋服の洗濯までサービスは多岐に渡ります。

ユーザー自身で各サービス時間の設定をしたり、サービス提供者と連絡することに時間を取られてたくない消費者心理が働くのも無理がありません。こうした、各オンデマンドサービス企業が提供するアプリを、別々に管理しなければならない問題を解決するのが「Hello Alfred」です。

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Hello Alfredは、複数のオンデマンドサービスをアプリ上で一括管理して、各種サービスのスケジューリング作業を自動化してくれます。たとえば、毎週火曜の10AMに洗濯代行サービスRinseが自宅へ来るように1度設定してしまえば、毎回時間予約をする手間が省けるようになります。

2014年にニューヨークで創業され、2,300万ドルの資金調達を行っています。加えて、まだ創業から5年も経たない間にオンデマンド配達サービス向けにソフトウェアを開発する「Wunwun」を買収したと発表しました。

他社サービスとの事業連携及びAPIを使ったサービス一元化だけで成長できるビジネスモデルは秀逸といえるでしょう。自社で家事代行に関わるサービスを立ち上げる必要もありませんし、大半の従業員はエンジニアのみで済みます。

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また各サービスを一元管理する需要は高齢者からも寄せられています。老人介護版Hello Alfredとして登場したので「Cubigo」です。

Cubigoは、高齢者向け家事代行サービスや配達サービスをアプリ上で手軽に頼めるだけでなく、地域老人とのオンラインコミュニティも提供しています。

ユーザはアプリ上に表示される「移動」や「アクティビティ」、「食事」のボタンを押すと、該当項目の情報収集ができたり、サービスを注文することができます。たとえば、アクティビティのボタンを押すと、近所の集会情報を参照できます。移動や食事ボタンを押せば、配車サービスのLyftを呼べたり、近くのレストランから特定の食事を配達してもらえたりします。

TechCrunchの記事によるとユーザー数は10万人を突破。2011年にベルギーで創業され、2018年3月末には450万ドルの資金調達を行っています。

現在の事業連携先は、配車サービスLyftのみですが、Hello Alfredと同様に様々な分野でオンデマンドサービスとの連携が考えられ、いずれは外部オンデマンドサービスとの連携のみでも、ビジネス展開することができるでしょう。

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Hello AlfredとCubigoの大きな競合優位性は大きく2つあります。1つは、外部オンデマンドサービスを活用することで自社リソースを最低限に抑えながらも、サービスレベルを落とすことなく顧客獲得を目指せる点。

もう1つは、顧客の生活へ直接介入している点です。言い換えれば、各顧客がどのような生活をおくっているのか、パーソナル情報が取得できる仕組みを持っています。この優位性を活かしてHello Alfredはコマース市場へと進出しました。

同社は自社開発した生活品を直接顧客の手配する販売チャネルを作りました。例えばある顧客が古いベッドシーツを新調したいニーズがあった場合、提携外部オンデマンドサービスの一つ、家事代行サービスTaskRabbitを通じて、寝室の掃除を行う傍らシーツの取り替え作業も行います。

顧客にとっての大きなメリットは、Hello Alfredが直接卸す、低価格・高品質のD2C製品を、一切の手間をかけずに自宅に設置できる点にあります。

生活シーンへ直接リーチできていることで、顧客が商品を自宅に設置する手間を省いているのです。この点、AmazonやIKEAのような生活品を販売する小売業者と大きく差別化を図れています。

Hello Alfredは、サービス代行者が顧客のニーズに合わせて最適な商品を設置する、新たな購買体験を提供することに成功しました。こうして、オンデマンドサービス管理サービスから、Eコマース企業へと進化を遂げていているのが同社の特徴なのです。

つまり高齢者の生活へと直接リーチできているCubigoも同様に、単なる生活介護サービスプラットフォームから、Eコマース企業へと成長できる巨大な可能性を秘めているわけです。

もう少し思考を飛躍させてみましょう。

商品フィードバックや、各商品の利用度合いなどの情報も、現場で直接確認する点にも大きな価値が見出せるかもしれません。たとえば、提携生活品メーカーの試供品を顧客へ無料提供することで、フィードバックを得ることも可能になります。

例えば、1) 家事・介護サービスの提供から、2) 生活必需品を直接卸す小売事業、3) より良い製品開発をするためのフィードバックプラットフォームまで、顧客の生活を向上させる一貫した仕組みを持つコンセプト、いわば「生活開発市場」のような可能性も考えられます。

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Image by iMorpheus

日本の高齢者市場は、欧米以上に大きな開拓の余地を残しています。

こちらのデータによると、欧米のシニア市場は2018年度で約40兆円と試算されている一方、みずほ銀行の調査では日本のシニア市場は2025年までに100兆円規模に達すると試算されています。欧米市場の年間成長率が6%前後のため、2025年時点では日本市場の方が大きいでしょう。

こうした世界最大規模のシニア市場を持っていながら、テクノロジーを使った市場変革にはまだまだ余地があるかもしれません。実際、私がお会いした大手老人ホームを運営する社長さんは、非常にテクノロジーの導入に消極的でした。一方、介護士不足や介護従事者育成が叫ばれている現状を見ると大きな社会需要が発生している事業領域に間違いはありません。

そこで、ここまで見てきたHello AlfredとCubigoが非常に参考になります。

生活開発市場は、シニア顧客の生活体験を向上するためのPDCAを上手に回すプラットフォームとなり得ますし、外部スタートアップサービスとの連携を図ることで、人材不足の解消にも繋がる一つのソリューションの可能性も秘めています。

シニア市場において、世界最前線となるユースケースを作るのに十分な市場機会が眠っている日本。欧米よりも先進しているシニア市場を開拓するスタートアップの登場が待望されます。

via TechCrunch

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