クルーズが経営者育成に100億円準備ーー小渕氏に聞く、グループ経営移行と「起業エコシステムのつくり方」

by Takeshi Hirano Takeshi Hirano on 2018.5.15

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クルーズ創業者で代表取締役の小渕宏二氏

クルーズという名を聞いて何を思い浮かべるだろう?

2001年というネットバブル期に生まれたウェブドゥジャパンという小さな企業は人材や広告、コンテンツと様々な事業を手がけ、いつしかモバイル検索「CROOZ」としてチャンスを掴んだ。

株式公開後、2010年代に入るとスマートフォンシフトの荒波にも飲み込まれることなく、ソーシャルゲームのヒットで成長を続け、2016年末にはそれまで温めてきたファッションEC事業に経営資源を集中。主力の「SHOPLIST」を200億円を売り上げる事業に成長させた。

そして2018年5月10日、彼らは全ての事業を子会社化してグループ経営のスタイルに移行するという。担う経営者を育成するため、用意したのは経営ノウハウと現金100億円。

創業者の小渕宏二氏は作りたい企業群像を国に例えてこう表現する。

「アメリカですね。全てを支配するのは法であり、集まる経営者がそれぞれの州を統治する合衆国のようなものです」。

彼らのやり方はオーソドックスに見えて独特の味がある。本稿では小渕氏へのインタビューと合わせ、その詳細をお伝えしたい。

「CROOZ永久進化構想」というエコシステム

クルーズは5月10日、平成30年3月期の決算発表会にて純粋持株会社への移行を発表した。同社主力事業のSHOPLISTについては2018年7月1日を効力発生日とした会社分割を実施し、100%子会社のCROOZ SHOPLIST(以下、SHOPLIST)に事業承継することになる。SHOPLISTは2018年3月に設立されており、同社代表取締役は事業立ち上げを担当した張本貴雄氏が務める。

このようにクルーズでは事業を全て子会社化しておりその数は現時点で16社に拡大。SHOPLISTなどのコマース分野をはじめ、同社事業の牽引役でもあったゲーム開発を手がけるStudio Z、メディア領域のCandleや投資領域のCROOZ VENTURESなどが主要企業として並ぶ。

そしてこのグループ経営への移行と共に打ち出されたのが「CROOZ永久進化構想」だ。

グループ内に100億円クラスの時価総額、売上規模を持つ企業を100社集めることで1兆円の価値を社会に対して生み出そうというチャレンジで、この中核を担うエンジンが「株式保有インセンティブ」になる。

小渕氏はこれまでを振り返りつつ、競争が激化するネット市場で優秀な経営者を集めるには敢えて「直球」が必要と説明する。

「振り返ると2000年初頭の頃ってインターネットって何がすごいか分かんないけどとにかく『スゲー』みたいな感じで(起業家たちが)集まってきたんですよね。山っ気のある人たちがいっぱいいてて、ちょうど戦後の日本みたいな雰囲気と似てたかもしれません。何やっても商売になるっていうか。

だからこそ今は分かりやすくお金だと思っています。私たちはこの10年間の上場企業の歴史や創業者、役員がどれぐらいの株式を手にしたのか調べてみたんです。代表者でせいぜい40%ほど、取締役になると3%から4%といったところです」(小渕氏)。

野性味溢れるバブル期と異なり今の競争は激しい。さらに国内では成功者であっても手にするインセンティブは少ないのに、さらにパイの奪い合いが激しくなれば目指す人は減ってしまう。であれば、グループとしてノウハウや資金を共有することで成功確率を高めた方が理にかなっている、という考え方には納得がいく。

もう少し具体的に書くと、企業内起業やM&Aなどでグループ入りする企業や起業家は一定量の株式を保有してそのまま経営にあたる。その後、5〜6年たって売上100億ほどの事業に成長させれば二桁億ほどのインセンティブが提供される、という仕組みになるそうだ。

このフレームワークを試運転した結果、16社のグループ企業に30名の経営人材が集い、新規事業として15億円の取扱高が生まれているという。今回の構想の裏にはこういった「ルール」が細かく規定されているのも特徴のひとつになる。

ただやはり払拭しきれない疑念も残る。確かにわかりやすさは重要だが、果たしてカネだけで社会的な事業、意思のある経営者は集まるのだろうか?

ここを紐解くのはやはり小渕氏の人物とビジョンになる。彼には人を寄せ付ける不思議な魅力があるのだ。

一本の大木ではなく「森」をつくる

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「昔からクルーズって『何やってんの?』って言われることが多かったんです。ただ、やりたいこととやれることって違うじゃないですか。(何もないのに)創業してすぐ飛行機飛ばしたいって言っても飛ばせるわけがない。人がいっぱい集まって企業としての体を成してそっからだと思うんです。時代に合わせて事業をやってきた結果、人や資産が増えてきて、役員の勤続年数も平均13年とノウハウも溜まってきたんです。

さて、じゃあこれから何をしようかと考えた時、私が今までやってきた得意なことってなんだろう、と。やはりユーザーのニーズに合わせて『人を育ててきた』ことなんだなと。正直に言って、私自身は名誉や誇りもお金も手に入ったのでこれ以上(個人的な欲は)何もないんです。それを求めるよりも、ここに集まってくれた人たちに対してメリットも悩みも分かち合えば、結果的にクルーズは今よりも太るんじゃないかなって」(小渕氏)。

今回の取材で私が真っ先にイメージしたのがサイバーエージェントだった。インターネット領域でメディア、広告、ゲームと主力事業を多角化し、企業数はAbema TVをはじめ同社が主力と位置付けるものだけで50社のグループに拡大。2017年度の連結売上約3700億円、時価総額は今日時点で7000億円を超えている。

彼らは年齢も創業の時期も近い。ただやはりやり方は異なっていて、サイバーが藤田氏やAbema TVといった分かりやすい「大木」を作るのに対し、小渕氏は広大に広がる「森」を作りたいと語る。

小渕氏の話はそのまま、自身がイメージする企業群の作り方、社会へのインパクトに移る。彼のビジョンをもう少し掘り下げよう。

インターネットの時代を動かす100人が作る「国」と「法」

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SHOPLISTはクルーズ生え抜きの張本氏が立ち上げた

小さい市場で人と金の奪い合いをするのは無駄だし、グループで合従軍を作ってノウハウを共有した方がもっとスケールが大きくなる。インセンティブの設計も自身でスタートアップするリスクと天秤にかければメリットを感じる人もいるだろう。さらに言えばSHOPLISTにこだわらず、自由な企業群を広げればいい。

ここまではわかった。その上で私は改めて小渕氏にこの構想を国に例えて説明してほしいと尋ねてみた。ーー冒頭の回答はその時のものだ。彼はこうも話している。

「アメリカって州ごとに違いがあっても国境はないからパスポートはいらないですよね。全ての決まりごとは州知事が決めた上で合衆国があるわけです。一方で困った時はみんなでやる仕組み、つまり法律が必要になります。例えば私がその場の気分でこれはいいよ、と言っていてはダメで、ガイドラインに基づいて『これをしたら違反』というルールがいるんです」。

分かりやすいマーケットやシンボリックな事業がなければ、人や事業は集まりづらい。一方でそれがコケたら構想そのものに赤信号が灯ってしまう。なのでクルーズの経営陣は、敢えてこのルールづくりに徹したというのだ。小渕氏はこうも言ってる。

「(構想の成功可否は)私みたいなトップにいる人間がどこまでこだわりを捨てられるかにかかってるんじゃないでしょうか。自分が王様だっていう風にならないように、この年齢(※小渕氏は現在43歳)で後ろに退いて法の整備だけを粛々とやる。キングダムに出てくる法の番人、李斯みたいな存在です(笑」。

ウェブドゥ時代から17年、小渕氏ら経営陣が貯めてきた経営ノウハウと人的ネットワーク、100億円の現金、さらにインターネットビジネスのインフラ・知見の共有は起業家、経営者にとって魅力的だ。特に最近困難と言われる技術人材の確保もグループが支援すると説明があった。

今回の構想は掛け声だけでなく、小渕氏の言う「法(ルール)」が根底にある。実際、そのフレームワークで生み出されたグループ企業の実績は前述の通りだ。

インタビュー終わり、小渕氏は今回の構想をこう締めくくる。

「国って地球規模で見れば人類の発展のためにあるじゃないですか。(このエコシステムも)インターネット業界が発展することに繋がるんじゃないかなと」(小渕氏)。

国内スタートアップ・エコシステムにまたひとつ、新しい選択肢が生まれたんじゃないだろうか。

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