副業が生み出す8兆円市場を狙えーー10年目のランサーズ、秋好氏に聞く新体制と「次のビジネス」

by Takeshi Hirano Takeshi Hirano on 2018.5.2

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ランサーズ代表取締役の秋好陽介氏

ここ5、6年近く興味深く追いかけているサービスモデルがある。

ロゴ作成やキーパンチといった小さなお仕事とフリーランスのマッチングサービスは「クラウドソーシング」と呼ばれ、先駆者となったElanceやoDeskなどのサービスが各国で次々と誕生したのはここ10年ぐらいの話だろうか。やがてこのトレンドは日本にもやってきて、市場の拡大と共に様々なモデルが登場することになる。

「新しい働き方」ーーいつからか、彼らが取り組む活動はこのキーワードに込められ、2018年の今、この選択をする人たちは1100万人を超え、全体の市場規模で20兆円、副業だけでも8兆円の市場規模に成長したという調査結果も出るようになった。

一方で課題も山積する。

そもそも人の働き方は千差万別だ。彼らの能力と案件を見える化、テンプレート化できなければそのプラットフォームは部署も役職もない会社のようなもので、何をやれば幾らもらえるのかも分からなくなる。定量化できなければプラットフォームとしての利益の最大化は難しくなる。実際、ElanceとoDeskは2013年に合併して「とにかく体を大きくする」戦略を取った。

では日本の取り組みはどうなるのだろうか?

国内でこの分野を牽引する1社、それがランサーズだ。2008年の創業から10年を経た今年、彼らは経営体制を大幅に刷新して独自の経済圏をさらに拡大させようと目論む。

新しい働き方は本当に次の世代の人生の選択肢となり得るのか。同社代表取締役の秋好陽介氏にランサーズの「今と次」を聞いた。

新しい働き方を支える経営陣たちの「はたらきかた」

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2018年4月1日に発足した新体制

まず新体制についてだ。4月1日からランサーズはグループ代表の秋好氏以外、8分野の事業範囲をそれぞれの執行役員が管轄する経営体制に刷新された。

秋好氏の説明では今後、オンラインだけでなく秘書やバックオフィスといったオフライン仕事のマッチングを考えると、これまでのランサーズを広げるという感覚だけでは事業拡大が困難になるという懸念を持っていたそうだ。

今回の体制は幅広い事業拡大、もしくは撤退を前提に、経営体制を柔軟に最適化できるようなイメージを持っているということだった。

ところで、ランサーズは自己資本だけでサービスを運営していた創業の鎌倉期と、グロービス・キャピタル・パートナーズなどからの出資を受けて「スタートアップした」渋谷期の大きく前後半で企業運営のスタイルを大きく変化させている。

この後半、いわば第2創業期の成長を支えたのが当時、取締役COOだった足立和久氏だ。彼は増資した2014年を境にグリーからランサーズに参加し、主に対企業向けの事業を拡大させていった。当時の役割について秋好氏はこう振り返る。

「調達した翌年あたりですね。足立さんとは共通の友人を通じて知り合いました。当時はエンジニアしかいない会社で、ここに営業や事業開発を持ち込んでくれたのが彼でした」(秋好氏)。

ランサーズというプラットフォームビジネスは案件と請け負う人をマッチングさせてその手数料を売上とする。KPIもシンプルなので、結果論で事業を作ることも可能だった。

しかし、足立氏が受け持った対企業向けの受託案件は、プロジェクトによって変数が異なる。鎌倉期に15名程度だった人員も足立氏が入った頃には60名近くになっており、しっかりとした予実管理の仕組みがなければ組織はまとまらなくなる。

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写真左:ランサーズの前取締役COOの足立和久氏(2014年12月のIVSにて/筆者撮影)

足立氏は楽天やグリーで培った経験を元にマネジメントの仕組みを作った。

「案件は本当にたくさんあったんです。けど、ランサーさんは遠方ですし、納品や質のコントロールは相当難しかったです」(秋好氏)。

しかし、今年4月に発表された新体制に足立氏の名前はない。彼はコンテンツマネジメントの100%子会社「クオント」の代表としてそのままグリー傘下に移籍することとなったのだ。

秋好氏はクオントを手放す理由を「フォーカス」だと語る。

「ランサーズとして一番重要なのは案件紹介だけでなく、フリーランス2.0を実現させて経済圏を作ることなのです。確かにデジタルマーケティングには可能性がありますが、この分野まで手が回っていないというのが実情でした。ただこの意思決定は3年前だったらできなかったと思います」(秋好氏)。

前述の通り、足立氏は執行の責任者としてランサーズの屋台骨を作ってきた人物だ。双方に葛藤はなかったのだろうか。足立氏にも今回の決断についてコメントをもらった。ちょっと長いが、このステージのスタートアップで創業に近い経営人材が離れる例というのも珍しいので全文コメント掲載しておく。

「パーソルさんや新生銀行さんとの資本業務提携による広域での就労環境支援や金融領域での取り組み、またパラフト社のグループ化によるソリューションの幅の拡大と、ランサーズの新しい働き方創出の取り組み強化が進む一方、Quantも導入メディアが600社、読者ID数も10億を超え、順調に拡大していました。

両方が同時に成長した結果、現ランサーズのフェーズでは両立が難しくなり、もともとランサーズの株主であったグリー社との今回のディールに着地しました。

今後クオントはグリー傘下で開発投資を強化し、より提供バリューを高めた状態で、ランサーズと連携したソリューション提供を行っていきます。

個人的な感想としては、今回のディールが結果的にランサーズの成長をより加速させるかたちになっており、COOとして事業成長へのコミットを果たしたと思っています。

秋好さんに出会い、一緒に夢を見たランサーズ。その中でみずからの手で産み落としたクオント。このどちらかを選ばなければならないという究極の選択でした(笑)

新たな株主となるグリーも含めて、三方良しの形となる着地だと思っていますし、そうすることが、自分の責任をまっとうすることだと思って、腹を決めました。これからは違う立場で、秋好さんと一緒に見た夢の実現に関わっていきたいと思っています」(足立氏)。

彼もまた自ら新しい働き方を実践した一つの例として見ると趣深い。人生は自由なのだ。

新しい働き方を実践する人たち

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副業として選択する人が約7割と増加中(資料:フリーランス実態調査 2018年版

では具体的にこの「新しい働き方」とは一体どういうものになっているのだろう?秋好氏は大きく変わった点として、この選択をする人たちの年代の変化を挙げる。

「これまで40代の方が多かったんですが、最近は20代、30代で選択される方も増えてきました。また副業ができるのは会社が認めている場合なのですが、時間管理が上手だったり、自ら経験を積む目的で選択されている方のお話も聞きます。例えばウェブデザイナーさんであれば、本業とは同じことをやらず、建築デザインの仕事をやるなど、工夫されてますね」。

秘書など拘束時間が全てのように思える仕事も、アポイントや電話応対など「タスク」に細分化することで副業でもできる範囲が出てくる。こういったノウハウが積み上がった結果が選択肢の幅となり、参加する人たちの数を増やしている印象がある。

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副業の経済規模を8挑円と試算(資料:フリーランス実態調査 2018年版

過去、新しい働きかたで真っ先に思いつくのがいわゆるテレワークだった。しかしこれは手段であって人生の目的ではない。子育てなどの制約を解消する手段としての新しい働き方から、自分の人生設計に幅を持たせるための新しい働き方へ、本来あるべき姿になりつつあるのではないだろうか。

ランサーズ拡大、次のビジネスは「金融」?

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自由と引き換えのリスク(資料:フリーランス実態調査 2018年版

新しい働き方を選択し、自らの手で人生を設計する人が増えている中、ランサーズとしてはどういうビジネスを仕掛けるのだろうか?秋好氏は個人がより自由に生きることのできる環境づくりに徹すればいつかチャンスはやってくると語る。

「現状も黒字化できている状況で、更なる成長はこのプラットフォーム事業の外にあると考えています。例えばランサーズで働いたデータを元に与信を取って融資するという取り組みは実施していますが、それを一歩先に進めて家のローンも組めるような取り組みもできないか考えていたりします」。

言及のあった融資事業は2017年に公表されているもので、秋好氏の言及から考えるにまだまだこの分野での伸びしろは大きいのだろう。

金融や決済は今、まさにブロックチェーン技術の開花も伴って大きく動いている市場だ。特に仮想通貨関連は特定のユーザーを持つ経済圏と相性も良く、また通貨発行に関わる事業も検討が可能になる。(ちなみに秋好氏はこの話題で色々話したそうだったので改めて機会あれば取材したい)

次の大きなマイルストーンは株式公開になるだろう。社会の公器として、新しい働き方をどこまで浸透させることができるのか、新しい動きがあればお伝えしたい。

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