実はお遊びじゃなかったロボット製造のMegabots、彼らが目指す「21世紀版スポーツエンタメ事業」の理想と現実

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2015年にカリフォルニア州のロボットスタートアップMegabotsが日本企業の水道橋重工へと挑戦状を送ったニュースは多くの読者の方もご存知かもしれません。両社は2017年10月には水道橋重工が開発するロボットクラタスと戦い、1勝1敗で終わりました

Megabotsは2014年に創業され、650万ドルの資金を調達しています。昨年までに3〜4機の巨大ロボットを製造しました。

さて、巨大ロボットバトルのニュースだけに目をやっていると、Megabotsは単なるバトル用のロボットを製造して世の中を煽った「お遊び企業」じゃないのかと勘違いしてしまいます。

しかし同社は21世紀型ライブ・アクションスポーツ市場を創出することを目指しているのです。この点、水道橋重工とのロボット格闘技は新興ロボットスポーツ市場を作り出すための布石に過ぎません。

ロボットエンタメ市場創出を目指す

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ここからはMegabotsのピッチ資料を基に説明していきます。

スポーツエンタメ市場では、広告収益が事業を安定させる「要」となります。実際、水道橋重工と戦うニュースは、世界各国5,000以上の記事を通じて報じられ、合計220億インプレッションの結果を残したそうです。

ロボット製造だけでなく、自社動画制作チームを持ち、YouTube上で約20の動画を発表。2017年4月時点で、2.5万登録者、合計2,000万視聴、290億インプレッションを計上。2.7億ドルに及ぶ広告効果をもたらしたとしています(実収益ではありません)。

実際の収益は、各地で巨大ロボットの性能を披露したイベント事業収益7.2万ドル、動画ライセンス使用料2万ドル、ロボット製造に関わるスポンサー料5万ドル、関連グッズ収益5.5万ドルで、合計約20〜30万ドルになりました。

上記収益は全て、水道橋重工へ挑戦状を送った2015年から市場を盛り立ててきたことから発生しています。つまり、クラタスとの戦いはエンタメ広告収益の実績を作ることで市場運営のノウハウと、新市場を創出させるための信頼獲得を目的とした第一歩と見ることもできます。

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Image by Hitori Sushi

ロボットを主役にした21世紀型ライブ・アクションスポーツ市場を創出するため、Megabotsは次の4つの収益源を長期戦略の軸として提案しています

  1. 巨大ライブイベント開催
  2. ブランディング/スポンサーシップ
  3. TV番組や制作局との連携
  4. 物販

こうした数値実績や長期戦略を見る限り、Megabotsは単発のロボット格闘技企画を考えた企業ではなく、創業当初からSF映画に出てくるような巨大ロボットが戦いあう「未来のエンタメ市場」の創出を狙っていることがわかります。

筆者はMegabotsのピッチを観覧席で見ていましたが、創業者は非常にお茶目である一方、ピッチでは長期戦略を見据えた明確なビジョンを示しており、非常にバランスの長けたチームであることが伺えました。VRやARと連携させることで、遠隔地からライブ視聴する未来志向の考えにも共感することができました。

ピッチを採点する投資家達も、単なるイベント企画ではなく、”21世紀版ライブ・スポーツアクション市場創出”というキーワードに惹かれ、好印象を持っていました。事実、ピッチしたLaunch Festivalでは、他スタートアップを差し置いて優勝していました。

市場創出に立ちはだかる2つの課題

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Image by Steve Rainwater

しかし現実はそこまで甘くありません。

水道橋重工とのイベントが終わった直後に実施したクラウドファンディングサイトKickstarter上でロボット格闘技トーナメントを開くキャンペーンでは目標調達額95万ドルに届かずキャンペーンに失敗しています。

なぜここまで広告展開をしたにも関わらず、巨大ロボット格闘技トーナメントの事業確立ができなかったのでしょうか。考えられる理由は2つあります。

1つは転換率の低さ。バイラルメディアには頻繁に起きる問題ですが、インプレッション数や動画視聴数をKPIとして追いかけたとしても、リアルイベントを企画した際、実際にチケットを購入してくれる人は1〜3%にも満たないことが多々起きます。

ピッチ上ではイベント事業収益や、会場で販売するグッズ収益額をアピールしていましたが、これら数値は、主にガジェット好きが集まるイベントMaker Faireに出展していたことが大きく寄与しています。つまり、自社でイベントを開催した際に訪れてくれるコアファン層を実際は獲得できずにいたのです。広告効果を過大評価しすぎたメディア戦略の過ちといえるでしょう。

2つ目は膨大な製造コストです。Megabotsは650万ドルの資金を調達していますが、例えばロボット製造に最低でも300〜400万ドル以上の資金を割いていたと仮定しましょう。彼らは先行者としてこれが可能だったとして、300万ドル規模の資金調達をスタートアップができるかと言われると、非常に厳しい現実が待っていることが予想されます。

誰もが最低限以上のクオリティーのロボットを作れないと市場は成立しません。こうした再現性の乏しさが、トーナメント事業を行う際の大きな課題となります。

ドローンレース市場はまさにこの再現性の課題を乗り越え、量産ブレイクスルー・ポイントを超えたからこそリーグ市場を形成できた好例と言えます。

今後は巨大3Dプリント外注先が増えることに希望を持って、ロボット製造コストの低価格化が市場にやってくるまでを待つ必要があります。

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ということで、世界中から巨大ロボットが集ることでトーナメントが各地で開催されるようになり、次世代エンタメ市場として成立するにはざっと見積もって5年ほど時期が早かったのではないでしょうか。

Megabotsにとってキャンペーン失敗は手痛い経験でしたでしょうが、3〜5年先の市場を見据えたビジョンを示せば、必ず後発スタートアップの登場を促す結果につながり、ある時点を境に、急激に市場が盛り上がりを見せるのがスタートアップの常です。たとえば、シェアリング市場では後発でありながらも、民泊サービスのAirbnbが市場を牽引している事例が挙げられます。

Megabotsの登場は、21世紀型ライブ・スポーツエンタメ市場の誕生を予期させる動向であり、いずれ同社に続く新たなスタートアップが市場を再燃させる証左であるともいえるかもしれません。巨大ロボット市場が開拓される未来はすぐそこにまで来ていると考え、期待しながら待ちたいと思います。

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