ベラルーシの投資ビークルBulba Ventures、機械学習スタートアップの次のヒットに賭ける

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(上)Bulba Ventures 設立者の Yury Melnichek 氏、 Andrei Avsievich 氏
Image Credit: Andrey Davydchik

昨夏、Google がベラルーシ拠点のコンピュータビジョンスタートアップ AIMatter買収したというニュースが流れた。AlMatter はファンキーな画像処理ができる人気アプリ「Fabby」の開発元。

現在も Google の指導の下で存続している Fabby 。このアプリは AIMatter の基礎をなす、画像を検知・処理するニューラルネットワークベースのプラットフォームと SDK を基本とする技術を一般向けに知らしめる真のショーケースだった。そしてこれこそが、最も前途有望な AI の知力を確保しようと他の大手テック企業と争っている Google が本当に買収したものであった。

この買収によって、東ヨーロッパのコンピュータビジョンのスタートアップシーンにより大きな脚光が集まった。Facebook はベラルーシのスタートアップ Masquerade を買収。Snapchat はウクライナ生まれの Looksery を手に入れ、ロシアの Prisma はコンピュータビジョンを基にしたアート風写真アプリで大きな注目を集めることとなった

AIMatter が Google に売却されてからおよそ1年、VentureBeat は AIMatter の設立投資家でもあり、Google や eBay でソフトウェアエンジニアとして働いた経験もあるベラルーシ人シリアル起業家の Yury Melnichek 氏に話を聞いた。Melnichek 氏はまた、2014年にロシアのテック大手 Mail.ru が買収したモバイル地図サービス Maps.me の共同設立者でもある。

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(上)Yury Melnichek 氏

Bulba Ventures

今年、Melnichek 氏はビジネスパートナーの Andrei Avsievich 氏と共に Bulba Ventures という新たな投資ビークルをローンチした。Bulba はベラルーシの機械学習スタートアップに対する10万~50万米ドルの投資に注力しているが、ベラルーシのみならず、ロシアやウクライナといった周辺地域へ対象を拡大していく可能性もある。

さらに、ポートフォリオに載っているスタートアップに対して人材募集のノウハウや広報活動、法的アドバイスといった多くの無料追加サービスも提供している。

Melnichek 氏は VentureBeat に対しこのように語った。

弊社の目標は機械学習のスタートアップが、特に健康や農業、長寿といった分野で人々の生活を改善するお手伝いをすることです。スタートアップにさらなる再投資ができるよう、設立者らと共に利益を上げていきたいと考えています。

今日まで、Bulba は3つのスタートアップに投資してきた。データと機械学習を活用し農業の生産性の向上を図る OneSoil、バーチャルメイクアップサービスの Voir、そして直近では先月 Bulba が参加した200万米ドルのラウンドを行った AR コマース美容スタートアップ Wannabyである。Bulba はさらに新たな投資契約の締結プロセスの中にあり、その相手は最近 Kickstarter でクラウドファンディングを終了したばかりの AI 対応フィットネストレーニングアプリ Rocketbody だ。

ここまでの物語

Bulba Ventures が機関投資ファンドではないという点は重要だ。同社は第三者である大量の投資家から資金を集めてはいない。むしろ設立者らが所有する資金を投資するための形式的な存在と呼ぶべきものであるが、もし条件が揃えば、一部のエンジェル投資家と共に仕事をする場合もある。

Melnichek 氏は次のように述べた。

Bulba Ventures は私や Andrei 氏、その他数人の個人が前途有望なスタートアップを見つけ、全体的な投資プロセスを管理する手助けとなりました。ほとんどの場合、Bulba は私自身の資産の投資先を探し、その後のケアを行っています。他のエンジェル投資家がスタートアップに価値をもたらす機会があると思えばいつでも、私たちは共同投資家として迎え入れます。

確かに Bulba はまだ小さく、たった5人のチームでしかない。2人の共同設立者、問い合わせ窓口、法律顧問、そして人材獲得を担当するスタッフである。

では、Melnichek 氏が過去 Maps.me や AIMatter で行ったように1社にだけ関わるのではなく、VC 企業を設立したのはなぜだろうか?すべては実用性の問題である。具体的に言えば、今の彼には以前持っていたビジョンに賭けるリソースがあるのだ。

Melnichek 氏はこう説明した。

以前私はベラルーシのスタートアップが成功できるよう支援することに興味を持っていましたが、Google が AIMatter を買収したことで、投資する資金を手にしました。ベラルーシには興味深い機械学習プロジェクトのスタートアップが多くありますが、同時に、外国からこの地に投資が集まることは多くはありません。これは地元のテックエコシステムの発展に貢献できるチャンスだと思っています。

前述のように東ヨーロッパは人工知能の人材の重要なルートとなっている。そのため Bulba Ventures はターゲットとする市場が自然に存在する環境の中にいる。だがなぜこの地域が今、そういったスタートアップにとってのホットな場所となっているのだろうか?

地元のスタートアップのサクセスストーリーが新しい世代を刺激し、若い起業家が自分たちの会社を立ち上げているのだと思います。App Store や Google Play のおかげで、ベラルーシからグローバルな製品を作り、広めることが容易になりました。Open Data Science という非常に強固な機械学習コミュニティがこの地にはあり、そしてソビエト時代から続く数学とプログラミングの優れた教育もまた役立っています。

ベラルーシは最近、IT Decree 2.0の施行にサインした。これはベラルーシにおけるテック企業のビジネスの簡略化を目的としたデジタル経済発展イニシアチブであり、また労働許可規定を改善することで国際的な人材を引きつける役にも立っている。Bulba Ventures はまさに絶好のタイミングで登場したと言えるだろう。

Bulba の成功の鍵となるのは、単独で成そうとしているのではない点かもしれない。Haxus はアーリーステージの AI スタートアップに特化している別の投資企業で、実際に OneSoil や Voir、Wannaby への最近の Bulba の投資に参加している。キプロスを拠点とする Haxus は偶然 AIMatter にも投資していた。これは同社にとって、Masquerade と Maps.me に続いて3つ目のイグジットとなった。

三人寄れば文殊の知恵ということわざがあるが、この緩やかなパートナーシップは将来の投資に続いていくのではないかと思われる。Melnichek 氏はこう語る。

そう願っています。私たちは Haxus のチームと共に働くのが大好きです。彼らはものすごく頭が良くて、プロフェッショナルですから。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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