より良い食への需要が高まるも、まだ屋内農業への備えが十分ではない中国

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Beijing Marriott Hotel(北京海航大厦万豪酒店)にある Alesca の屋内農業装置
Image credit: Alesca Life

毎週月曜と木曜の朝、ある都市農家のチームは北京東部の高級レストランへ向かう。彼らは大根や小麦若葉、もやしの苗を運び込み、ガラス製の4つのキャビネットの中にそれらを収める。このキャビネットは LED ライトと綺麗な水そして肥料を備える全自動屋内農場だ。高さ約2メートルで4つの段があり、そこでは野菜の苗が育っている。ホテルのシェフは毎日キャビネットから野菜を収穫し、農家のチームは週に2度補充する。キャビネットがきちんと作動しているかどうかもチェックする。

このチームが運ぶ苗は北京中心部の輸送コンテナの中で栽培されたものである。これらのコンテナは屋内農場であり、同市を拠点とする農業スタートアップ Alesca Life が運営している。同社は都市が栄養的に自給自足できることを目指して、2013年後半に Stuart Oda 氏が共同設立したものである。

屋内農場は作物の生育に必要なものをすべて提供するが、苗はまず輸送コンテナの中で育てる必要がある。作物の成長に影響を与えるあらゆる要素は同社が独自に開発した技術でモニターおよび制御され、野菜を天候不良や公害、害虫から守っている。

北京である程度の成功を収めた Oda 氏は、ドバイでも彼のビジョンを実現させようとしている。北京での彼らのビジネスも、別方向にではあるが拡大している。大量生産によって価格と量の両面で地元のスーパーマーケットと勝負することを目指すのではなく、同社は Marriott や Westin、Shangri-La など複数の高級ホテルと提携し、非常に旬が短い野菜や中国に輸入された野菜を屋内農場で新鮮なまま提供している。彼らは中国の消費傾向の変化の波に乗り、より高品質な食に対する支出を惜しまない中間層をターゲットとしている。彼らが育てた大根を使った一皿は70~80人民元で売られており、地元の街角の食堂で売られているものと比べて10倍近い高い値段だ。

キャビネットはむしろ販促や、印象を残すためのものです。

Jannelle Liu 氏は TechNode に語った。同氏は Alesca の中国飲食物販売のトップである。顧客は食べ物が成長する過程を見ることができ、その品質について無農薬で水や土壌の汚染もないと安心することができるのだと同氏は説明した。より大規模な生産の計画は、主にドバイで実施される予定だ。

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安価な野菜と高価な電気

北京中心部にある、Alesca Life の農業用コンテナ
Image credit: TechNode/Jiefei Liu

中国における現在の農業の状況に直面してビジネス戦略を調整する農業スタートアップは Alesca だけではない。

Tristan Lim 氏が上海で他の2人の China Europe International Business School(中欧国際工商学院)卒業生と Hydra Biotech を共同設立した際、同氏は当初屋内農業を中国に導入したいと考えていた。しかし彼らのビジネスは中国の安価な製造コストを利用して、アメリカ企業と行うこととなった。

食糧生産は中国において大きな課題であり、都市部に住む人々は清潔で安全な食物にはお金を惜しみません。

Lim 氏は TechNode に語った。彼はここから中国でビジネスを始めるアイデアを得たという。

Hydra Biotech が販売しているのは独立した環境制御モジュールを持ち、水耕とアクアポニックタワーを備えた農業用コンテナである。環境制御モジュールと必須ハードウェアを含む一揃いのセットは5万8,000米ドルで販売されている。

Lim 氏もこれは個人農家には高すぎるということは理解しており、そのため企業と提携しようとしているが、あまり興味を持たれてはいない。

農業企業は政府から収入を得ており、別の優先順位を持っています。

どうすればさらに多くの助成金を政府から引き出せるかということに関心があるのです。

Lim 氏は述べた。

これが困難なもう一つの理由は、Lim 氏が提供する数万ドルの機器と比べると、中国の農業が低価格であることが挙げられる。

化学肥料、人件費、そして家賃も非常に安価です。

Lim 氏は言う。低価格帯のレストランは食材を安く調達できるのであれば、その質にはあまりこだわらないのだ。

Lim 氏によれば屋内農業の運営コストでもっとも大きいものは電気であり、当然そのコストは野菜の価格に上乗せされる。電気料金は生産コストの60~70%に上り、中国でも世界中のどこであっても安くはないという。

電気で公害を減らしています。

中国の農業においてもっとも悪評高いのは、化学肥料と殺虫剤の使用過多である。それらは作物の収穫量を保証してはくれるが、使い過ぎれば環境に深刻な問題を起こす。野菜に残留した殺虫剤は人体に悪影響を与えるだけではなく、蒸発して空気を汚染したり、洗ったときに水を汚染して配水管や河川に流れ込んだりもする。窒素系肥料を大量に使用すれば湖や海の富栄養化を招き、水棲生物の窒息につながる可能性もある。

現在 Hydra Biotech は屋内農業で育てた野菜をオンラインストアで販売している。Alescaと同様に中国の裕福な顧客をターゲットとしているが、今のところ利用できるのは上海のみである。

また、Lim氏は別の戦略もとっていると述べた。Hydra Biotechを国際市場で目立たせ、そして中国に逆輸入するというものだ。SoftBank Vision Fund が支援するバーティカル農業スタートアップ Plenty にも Hydra Biotech は機器を販売している。

サンフランシスコを拠点とする Plenty は今年初めに、中国に進出し少なくとも300の屋内農場を作る計画であると発表した。同社は中国市場における最近の進展に関するコメントを拒否したが、広報部トップの Christina Ra 氏は TechNode にこう語った。

本当にインパクトを与える唯一の方法は、旧来の農場と匹敵する量を生産できるやり方で、そして今日の食料品店と同等もしくはより良い価格を提供できるスケールで成長することです。

今日の状況はそのようにはなっていないが、手ごろでクリーンな食材を世界中で提供できるよう Plenty は取り組みを続けると Ra 氏は付け加えた。

輸入作物への期待

Hydra Biotech の独立型気候制御モジュールの内部
Image credit: Hydra Biotech

中国は野菜の純輸出国であるため、輸入には頼っていません。

Oda 氏は TechNode に語った。中国の農業農村部によると、同国は2017年に155億米ドル相当の野菜を輸出しており、前年と比べて5.5%増加している。

増加する中間層は世界の他の地域からの商品、例えば日本もしくはイタリアの特定のバジルといったようなものを求めており、Alesca は量ではなく多くの種類を提供できるよう注力するつもりであると Oda 氏は説明した。

生育機器の販売だけではなく野菜も提供する Alesca にとって、人件費は大きな支出だ。現在は1人のスタッフが1つのコンテナを管理しているが、近い将来には1人が5~8つのコンテナを管理するようにしていきたいと Oda 氏は計画している。高い学歴の人材を雇用し、都市部の農業にもキャリア面で未来はあることを彼らに示しているという。

また、Alesca が北京で拡大しようとしていた際、土地の供給量が限られていたことも彼らが直面した課題であった。

Alesca は都市部に農場を建設したいと考えていた。顧客に近く、輸送の間に野菜の栄養素が失われるのを防ぐことができるからだ。しかしながら、市の中心部には非常に限られたスペースしかなかった。農業用コンテナを積み上げることはできるが、建物の重量制限や防火基準に適合することが困難であった。

やがて来る巨大市場

これらのスタートアップはいずれも中国を諦めたわけではない。彼らは来たるべき時期をうかがっているのだ。環境汚染は深刻化し、新鮮な食材への需要は切迫、耕作に適した土地は減少を続け、人々の収入は増加している。

作物の生育に影響する要素を制御できること以外にも、従来の農業では通常は生育の時期が緯度によって一年の半分ほどに限られているが、一般に屋内農業システムはより少ない水で一年を通して育てることができる。Ra 氏によると、Plenty の収穫量は作物によっては従来の農業に比べ350倍に達し、さらに1%未満の水しか使用していないという。

屋内農業のコストの大部分を占める電気の使用に関して、コロンビア大学の名誉教授で10年前にバーティカル農業を開発した Dickson Despommier 氏は、屋内農業と従来の農業のエネルギー消費を比較するには、化学肥料の生産やトラクターなどを動かすための電力消費を考慮しなくてはならないと TechNode に語った。したがって、一般的に屋内農業の方がエネルギーコストは低いということだ。

また、エネルギーイノベーションの進展によって電力コストの問題を解決できるようにもなるだろう。LEDライトの効率性の発展や新たなエネルギー分野の進展といったものが、広く電気料金を引き下げることになる。

世界銀行によると、中国の1人あたりの GDP はこの10年で倍以上になり、同国の中間層は急速なペースで増加している。Hydra Biotech や Alesca のような現代農業のスタートアップにとって、中国は将来有望な市場である。人々はすでに食物に気をつかい始めており、さらなる教育によってより多くの人がこの流れに乗り、口にしている食べ物が環境に与える影響を考慮するようになるのではないかと Lim 氏は述べた。

配車サービスやeコマースプラットフォームのような技術が社会の機能を変えてきた速度を考えれば将来有望に見えるものの、Hydra Biotech は今のところは「小さく実用的」に留まり、一歩一歩確実にビジネスを構築していきたいと Lim 氏は語った。

【原文】

【via Technode】

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