メルカリ上場前夜、イケイケベンチャーから「信頼される企業」へーーPRチームが施した「Go Boldなコミュニケーション戦略」舞台裏

by Takeshi Hirano Takeshi Hirano on 2018.7.11

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会場となったTRUNKには300名のブランド関係者が集まった

スタートアップはいかにして社会に信頼される企業に変容するのかーーこの興味深いテーマをメルカリが語るというのであれば聞かない理由はないだろう。

7月10日にPR TIMESが主催したイベント「PR TIMESカレッジ」のステージに登壇した矢嶋聡氏は、LINEでマーケティングコミュニケーション室の室長を務めたのち、昨年10月からメルカリに参加した人物。上場前夜に同社のPR・コミュニケーション戦略を一任され、上場承認日に「創業者からの手紙」と題したメッセージを公開するなど”イケイケベンチャー”から脱皮した「新たなメルカリ」を社会に披露した立役者の一人だ。

本稿では矢嶋が壇上で語ったメルカリの「Go Boldなコミュニケーション」戦略についてまとめた。バギーな側面も多いスタートアップ創業諸氏にとって、メルカリの足跡は多いに参考になるだろう。整理して共有したい。

実は2名しかいなかった「イケイケベンチャー」のPR体制

2018年3月時点でのメルカリは月間ユニークユーザー数(MAU)1054万人、流通総額は月次で324億円を超え、創業からわずか5年足らずで株式公開を果たした。順風満帆の成長で一気に上場へ、という印象の強いメルカリだが、そのコミュニケーションの体制についてはまだ改善すべき箇所があったようだ。矢嶋氏は参加した際の状況をこう振り返る。

「外部環境としてはサービスが成長していて上場観測なども出ていた。メディアもスタンバイに入って大型特集を組むような機会も増える一方、現金出品などの不正出品問題も顕在化し、社会にとっていいものなのかという問題提起が増えてくる。特に大手マスコミによるネガティブ報道も急増していて対応が必要だった」。

当時のPR体制はメンバーも2名でチームとも言えず、また核となる方針が決まりきっていなかった。そもそもメルカリが社会に対して与えたビジョンや世界観などのポジティブな側面は伝わっておらず、リソース不足も手伝って後手に回る様子が伺えたという。

「世論を作るようなオピニオンリーダーたちはメルカリを使っていない場合がまだ多く、ネガティブ報道でその存在を知ったということもあった。ここを変えなければ次に進めない」。

こういったメルカリの「現在地」を確認した矢嶋氏たちは、次に大きな方針として、メルカリが目指すべき「パーセプションチェンジ(認識変化)」の方向性を打ち出すことになる。

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写真:メルカリPRグループマネージャーの矢嶋聡氏

体制を強化するーーIPO前夜、前半戦での下地作り

「法令遵守意識の低いイケイケベンチャー」というパーセプションから「応援したい、世界に挑戦するテクノロジーカンパニー」への変容。大きな方針が決まったメルカリPRチームはロードマップを手がける。フェーズを2つに分類し、2017年一杯で体制の強化や信頼の獲得、そこからIPOまでを主にストーリーテリングに費やすことにした。

「定例ミーティングを見直して、単なるTODOの確認ではなく、自分たちのやったことの施策に対しての振り返りやPDCAを徹底しました。また、やること・やらないことの決定やクリッピングツールなどを導入して効率化を進めた」。

人材の採用にはオウンドメディアを活用したのは以前にお伝えした通りだ。結果、か細かったPRチームは10名ほどの体制に強化され、重点メディアとのリレーションも厚みが増した。矢嶋氏が参加したタイミングはちょうど不正出品などの話題が社会に出回っていた頃だ。なかなか収束しない世論についてはバイネームの記者による深い取材記事で論調を変える施策も投じた。

こうやって下地づくりを終えたメルカリは社会に対してポジティブな情報発信を開始することになる。

IPOに向けた後半戦ーーユーザーに愛されるメルカリを伝える

矢嶋氏が参加して数カ月、即興ながら体制や下地は整った。ここから6月の株式公開までが大きな勝負どころだ。まず手がけたのは新サービスや新たな取り組みに関するポジティブなストーリーの発信だ。

2017年の末から「メルカリNOW」や研究機関の「R4D」といった新サービスなどの露出を最大化。特に「メルカリで技術者を1000人を雇う」という山田進太郎氏の発言は大きく取り上げられ、エコシステムやテックカンパニーといった「フリマアプリ」一辺倒からの脱却が見られるようになったのもこの頃だ。

また矢嶋氏の話では経済産業省が発表した「中古品市場調査レポート」に合わせて、フリマアプリの登場による消費環境の変化に関するレポートをメディアに配信し、記事化を促進するなど、積極的な「世の中ゴト化」も進めたという。

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「信頼される、世界に挑戦する企業」への変容

ロードマップなどの指針を策定し、徐々にフリマアプリ「以外」のポジティブ情報も拡大してパーセプションが変化していく。こうやって温めたコミュニケーションの先に待っていたのがコーポレートとしてのストーリー、つまり「フリマアプリの会社」から「テクノロジーカンパニー」への変容を図る局面になる。

ここで重要な役割を担ったのが山田進太郎氏による「創業者からの手紙」だ。

「海外の企業では上場承認時に企業のファクトとは別に創業者からのエモーショナルなメッセージが出るんですね。これを国内企業としてやろうと」。

チームではこれに並行して情報発信の制限がある期間に水面下で取材を仕込むなど、上場のタイミングで露出を最大化させる準備を進める。ーーそして上場の日に出たのが「野茂英雄」メッセージだ。新聞に全面掲載された広告ビジュアルは、野茂のような存在になりたいというメッセージをわかりやすく伝えていた。

「世界に挑戦するためによりGo Boldな挑戦をしていきますよ、大胆にロングタームの投資をしていきますよ、というスタンスを伝えました。これによって海外を目指すという論調が作られた」。

ーーいかがだっただろうか。IPO前夜に矢嶋氏やPRチームが準備したコミュニケーション戦略は、聞いていて非常に理路整然としていて実にスマートだ。もちろんこの結果にはそれ以前、創業期から彼らが魅力的なプロダクトを作り、ユーザーに向き合い、タイミングよく社会に対して情報発信してきた積み上げがあったからとも言える。

「まずは自分たちが正しくどう見られているか。それから自分たちがどうなりたいか、その差分をステップバイステップで埋めていく。打ち上げ花火的な施策一発でパーセプションが変わることはない」。

フリマアプリから「世界を目指すテックカンパニー」への姿を手に入れたメルカリ。彼らをトレースすることは後進スタートアップにとって大きな参考になるのではないだろうか。

情報開示:THE BRIDGEは2018年4月からPR TIMESのグループメディアとして運営されています。

 

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