LogBar吉田卓郎氏に聞いた、ハードウェアスタートアップの失敗とたゆまぬ挑戦【ゲスト寄稿】

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本稿は、Disrupting Japan に投稿された内容を、Disrupting Japan と著者である Tim Romero 氏の許可を得て転載するものです。Tim Romero 氏は、東京を拠点とする起業家・ポッドキャスター・執筆者です。これまでに4つの企業を設立し、20年以上前に来日以降、他の企業の日本市場参入をリードしました。

彼はポッドキャスト「Disrupting Japan」を主宰し、日本のスタートアップ・コミュニティに投資家・起業家・メンターとして深く関与しています。


日本のハードウェアスタートアップの大半が失敗するのには、それを説明ができる理由が存在する。

今日は、LogBar の CEO で創業者の吉田卓郎氏に話を聞く。ハードウェアスタートアップ失敗の理由に迫り、スタートアップがそのような間違いを避ける方法を見ていきたい。吉田氏は、日本で最も成功した Kickstarter キャンペーンの一つを手がけ、最も成功した2つの IoT プロジェクト——ウエアラブル指輪の形をした VR コントローラ「Ring ZERO」と本格的に勢いをつけ始めた自動翻訳機「ili」——を手がけている。

今回も素晴らしい対話だったので、お楽しみいただけると思う。

LogBar CEO 吉田卓郎氏

Tim:

LogBar は Ring と ili の両方を開発していますね。これらはそれぞれ全くことなるプロダクトですが、どうして作ろうと思ったのですか?

吉田氏:

学生のとき、1年半ほどサンフランシスコに住んでいました。その頃、スタートアップという考え方が好きになりました。帰国後も年に一度はシリコンバレーにやってきて、自分のスタートアップのアイデアを VC にピッチしていました。うまくはいかなかったのですが、それでも挑戦を続けていました。2013年、日本で LogBar を始めました。LogBar の名前は実のところ、実際のバーから来ています。当時、私はバーテンダーとして、お客さんに iPad を使ってドリンクをオーダーしてもらうなど実験をしていました。

Tim:

クラウドファデンィングでは、Ring のためだけに資金を調達したのですか?

吉田氏:

Kickstarter のキャンペーンをやる前にも、少しだけ資金は調達していました。それはプロトタイプを作るには十分でした。Kickstarter でキャンペーンを展開したのは、量産のための資金を調達することとマーケティングの助けとするためでした。

Tim:

Kickstarter では80万ドル超を調達しましたが、製造は当初の期待ほどスムーズには進まなかったんですよね?

吉田氏:

ハードウェアはハードです。ちょっとした変更に、2〜3ヶ月を要することもあります。ちょっとした変更がどれほどスケジュールに影響を及ぼすか、それがわかるほどの経験が我々にはありませんでした。Ring は3ヶ月遅れて出荷を開始しましたが、新しいハードウェアスタートアップとしては、さほど悪い結果ではなかったと思います。

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Ring

Tim:

中国で製造しているのですか?

吉田氏:

すべて日本国内生産です。海外でやっていたら、製造・出荷の遅延はもっとひどいことになっていたでしょう。ハードウェアを作るのは始め絵だったので、工場を信頼し、彼らのアドバイスに耳を傾ける必要があったのです。彼らはベンダーというより、パートナーですね。

Tim:

ソフトウェアスタートアップは、たいてい1週間単位で開発周期を作りますね。ハードウェアスタートアップには、何をすすめますか?

吉田氏:

プロトタイピング段階であれば、1周期あたり3〜4ヶ月で計画すべきでしょう。少なくとも、2〜3周期は必要になります。プロトタイプに満足できたら、型を作り生産に移るまでに、さらに2ヶ月かかります。

Tim:

Ring は、Kickstarter で大成功でしたね。クラウドファンディング後も、その成功は続いたのですか?

吉田氏:

Kickstarter 後は、顧客を魅了し続けるのに苦労しました。Ring はアーリーアダプターを対象にしたものでしたが、多くの主流派の顧客を魅了することをしませんでした。その最大の理由は、Ring を操作するにはスマートフォンが必要であり、多くの人々はスマートフォンを直接操作したいと考えるからでした。我々のバリュープロポジションは十分ではありませんでした。当時利用できた技術では、費用が高く、少し大きな形のものでした。

Tim:

Ring の未来はどのようなものでしょう? 技術が進化し価格が下がれば、バージョン2.0を見ることはできるでしょうか?

吉田氏:

はい、たぶん。5年から10年後じゃないでしょうか。Ring をあきらめていませんが、現在は ili に集中しています。ili は約2年前に開発を開始しました。

ili

Tim:

ili は、Ring とは全く異なるプロダクトですね。

吉田氏:

技術と市場は異なりますが、コアのモチベーションは同じです。我々とユーザの両方がわくわくできるものを作りたかったのです。今日では、販売が非常に強固なものになりました。

Tim:

ili は、どのような人が使っているのでしょう?

吉田氏:

ハワイにある多くのホテルやレンタカー会社ですね。ili は旅行業など特定の使い方にカスタマイズできるので、企業向け販売に注力しています。このバージョンをビジネス交渉に使いたいとは思わないでしょうが、旅行者が身を置いている、たいていの状況を取り扱うことはできます。すべての機能をデバイス内に内包しているため、WiFi やインターネット接続は不要です。ili に向かって話しかけるだけで効果的に翻訳します。

ili

Tim:

携帯電話はよりパワフルになるにつれ、ili のような省電力で単一機能デバイスは将来、iPhone や Android アプリと競合になるのではないでしょうか?

吉田氏:

そうは思いません。携帯電話には高い処理能力が備わっていますが、翻訳機として使うのは難しい。試せばわかると思います。そのように、電話を自分に向けたり相手に向けたりするのは不自然に感じるでしょう。ili のような単一機能デバイスはよりシンプルです。マイクのような感じですが、このことがより重要です。最初に使った場所で、翻訳のためにハードウェアデバイスを使う習慣を人々が身につけることになります。自動翻訳機を使うという考え方において、人々に快適さを感じてもらうことこそ、長期的な成功にとって最も難しく重要な部分なのです。

Tim:

VC やクラウドファンディング で資金調達しようとしている、日本のハードウェアスタートアップにアドバイスはありますか?

吉田氏:

現在はハードな時期です。数年前に比べ、VC はハードウェアスタートアップへの投資に関心を示さなくなっていますし、日本のクラウドファンディングもあまり成長していません。ハードウェアスタートアップは、プロトタイプを作る前に製品のビデオを制作すべきだと思いますね。私はいつもそうしています。そうすると、VC と潜在顧客の両方からフィードバックを得ることができ、関心と資金の両方を獲得する機会を手に入れることができるからです。


吉田氏の専念ぶりには敬服させられる。彼は、ユーザや投資家と共感できるものを見つけられるまで、次々とプロジェクトに挑戦を続け、またピッチを続けてきた。Ring が日米両方の VC から断られた後も、潜在顧客から記録的な金額を直接資金を調達した。

今後も、LogBar からは多くのイノベーティブなハードウェアプロダクトがもたらされることだろう。

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