2018年上半期の、ヨーロッパのシードスタートアップシーンを振り返る

by VentureBeat ゲストライター VentureBeat ゲストライター on 2018.8.30

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Image credit: Pixabay

ヨーロッパも8月に入っているので、ヨーロッパ大陸におけるシードラウンドへの投資についてデータを集めて分析し、振り返ってみるのが良いだろう。今年前半がどういう風だったのかを見てみて、起業家への脅威やチャンスを見極めよう。

1.投資された資本と、その量

ドル建てで見ると量は増えているが、件数の絶対数は減っている。

2018年前半では6億6,500万米ドル相当のシードの取引が完了した。この額から1年分を推定すると年間13億3,000万米ドルとなり、2016年の額と等しい。4億6,300万米ドルだった2017年上半期と比較すると、ドル建てで44%上昇している。789件のシード取引が2018年前半のヨーロッパで完了したのに対して、2017年前半では873件であり、10%減少している。

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(上)Data source: Crunchbase and dealroom.co

起業家へのアドバイス:ヨーロッパではアーリーステージに対する資本がかつてないほど大きくなっている。アーリーステージへの投資量は2012年からずっと上昇傾向にあったが、今は安定しているように見える。シードステージで健全なレベルの資本を活用することと共に、さらに重要なのは、スタートアップが成長する最良のチャンスを与えてくれるパートナーを選ぶことである。虚栄に満ちた資金調達ではなく、会社が成長するための方策を。

2.取引の額

ラウンドは大きくなり続けており、周期的な高値に届いているのかもしれない。

2018年上半期のシードラウンドの平均は117万米ドルだった。

2_average_seed_round興味深いことに、平均的なラウンドの額が89万米ドルだった2017年上半期の平均取引額と比べて、33%増加している。

明らかにラウンドは大きくなっているが、取引額は過去と比べてどのように違うのだろうか。

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(上)注:2018年の値は上半期のみ
Data source: Crunchbase

起業家へのアドバイス:より多くの資本が、より少数の案件に向かっている。そのため、シード資金の調達のハードルは上がってきている。ラウンドの額の上昇と共に、評価額も全般的に上昇している。一方で、これらの評価額の上昇は株式の希薄化のコントロールには有用かもしれない。シードステージで希薄化に過敏になりすぎると、将来の成長の妨げになるかもしれない。忘れてはならないのは、既に市場の条件はかなり起業家に有利になっているということだ。提携している投資家に支えられた、半分道理にかなった評価額を最重要点とすべきだ。より良い投資家からのより低い評価額を受け入れることは直観に反するが、それこそが成功と失敗を分けるものとなるかもしれない。スタートアップの成長とは、人材や顧客などの付加価値によって促進され得るものである。高い評価額が新しいエンジニアを雇うわけではないし、新しいクライアントをもたらすわけでもないのだ。

3.エコシステムの分散

仮想通貨で勢いをつけた新規参入のツークが、ベルリンに取って代わって取引額でヨーロッパ第3の都市の座についた。

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(上)Data source: Crunchbase

ドル建てでシードファンディングの49%は上位4都市のスタートアップが占めており、ロングテールである多くのヨーロッパの都市が残りの半分となっている。

2017年上半期と比べてどうなっているか見てみよう。

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(上)Data source: Crunchbase
  • ブレグジット(EU 離脱)の投票後もロンドンはシードファンディングで他を圧倒しており、絶対的にも相対的にも成長している。
  • 興味深いことに、クリプトバレーの企業に押し上げられて、スイスのツークが重要なプレーヤーになっている。この図はエクイティファイナンスのみを表示しており、すべての IC ファンドを含めればツークはさらに大きな存在感を示すと思われる点に留意すべきである。
  • トップ3には届かないが、額という点ではケンブリッジがベルリンを追いかけている。しかしこの2都市は企業の構成という点ではまったく異なっている。ケンブリッジは地元の学術機関が生むエンジニアリングとディープテックの人材を活用し、重要なポジションにあり続けている。

起業家へのアドバイス:ベンチャーが支援するスタートアップを作るには、ロンドンは今でもヨーロッパで最良の場所である。ロンドンのエコシステム(および付近のケンブリッジとオックスフォード)の深さは、ブレグジットが迫る中にあってもヨーロッパのその他の都市を上回り続けている。エンジェル投資家、VC、アクセラレータ、そして究極的には資本が、この都市には最も大きく集中している。また同都市はヨーロッパの34社のユニコーンのうち13社が拠点としている。これによって人材、資金、メンタリングにおいて最も肥沃な環境が提供されているのだ。ロンドンの優越に対する喫緊の脅威は、外国人の人材雇用が制限されイギリス企業が外国企業との取引で困難に直面する、ブレグジット後の世界である。しかしヨーロッパの多くの投資家は大陸中を網羅しているということは覚えておくべきだ。素晴らしい会社はどこででも始めることができるが、いくつかの地域では人材雇用の限界に達するのが早いかもしれない。

4.シードファンディングを行うスタートアップの年齢

現在、シードファンディング時点でのスタートアップの平均年齢は2年3ヶ月である。

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(上)Data source: Crunchbase

2017年上半期に比べるとシードファンディング時点におけるスタートアップの年齢の平均値も中央値も上昇している。

では、スタートアップの成熟度が調達する資本の量に影響するのかどうか見ていこう。

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(上)Data source: Crunchbase

トレンドラインは緩やかに上昇しており、年齢の増加とシードで調達する資本の間には僅かな関係があることが示されている。それでも、ベンチャースケールの成長目標に自力でついていく会社でない限り、調達までの予定表が長引いていることは、何かの不具合(伸び悩むトラクション、出荷能力の欠如、まとまらない戦略など)があるのではないかというネガティブなサインとして見る投資家もいるだろう。

起業家へのアドバイス:資金調達ラウンドのタイミングは、会社がいつ資本を必要とするのかということと、その資本をさらなる成長に変換できるのはいつかという指標の、その2つのコンビネーションに基いていなくてはならない。資金調達は会社がさらなる成長を加速させる転換点として捉えられるべきものであり、ゲームの終着点ではない。シードラウンドで資金調達をしている会社は、もはや創業チームと狭いオフィスだけではない。会社設立の障壁が下がり(AWS、フリーランサー、スタートアップらの微粒子化など)、設立者は今やより少ないものでより多くを手にすることができるようになった。シードラウンドで調達する前に、資本は根源的には成長阻害要因であると認識しておかなければならない。

5.シリーズ A への道

シリーズ A のファンディングは成長を続けており、それと共にスタートアップのトラクションに対する投資家の期待もまた膨らんでいる。

シードファンディングが安定して増加を続ける中で、シードステージのすべての起業家が持つであろう疑問は、どうやってシリーズ A に進めばよいのだろうかというものだ。

スタートアップの KPI と収益予測を見るのは、この分析には無理があるかもしれない。なので代わりに、過去18ヶ月のシリーズ A ファンディングのペースを見てみよう。

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(上)Data source: Crunchbase

ヨーロッパのシリーズ A の額は著しく上昇している。「A」ラウンドの分析に踏み込まなければ、少なくとも資金調達の環境は健全であると推測することができる。

では、シリーズ A ラウンドに先駆けてスタートアップが調達した資本の平均額を見てみよう。この図は鵜呑みにしないようにしたい。すべてのスタートアップはユニークであり、次の転換点へと到達するために必要な資本もバラバラだ(ハードウェアは高く、ソフトウェアは低い)。下図は情報を提供するものであり、目標額でも必要額でもない。

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(上)Data source: Crunchbase

興味深いことに、シードラウンドとの対比では、「旧来の」シードラウンドの外、つまりエンジェル、プレシード、ブリッジ、追加シードラウンドなどで調達された資本の量は、取るに足らないものではないことを上図は示している。

そこに行くまでにどのくらいかかるだろうか。過去2年半のデータを見てみると、スタートアップがシリーズ A に辿り付くのに平均4年かかっている。

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(上)Data source: Crunchbase

起業家へのアドバイス:トレンドラインは明確だ。ヨーロッパで会社を立ち上げアーリーステージのベンチャーファンディングを調達するのは今が最良のタイミングだが、シードやシリーズ A ラウンドに到達するための時間は増加している。投資家がシードやシリーズ A のスタートアップにかける期待も増大している。スタートアップもまたプロダクト・ゴー・ツー・マーケット・フィット(市場に合うであろうプロダクト)段階からプロダクト・マーケット・フィット(市場に合ったプロダクト、PMF)へと移行する期間をより長く取っているようだ。シリーズ A に至るために求められる KPI を理解すべく、思慮深く実践的なアプローチが重要だ。シードを通過したスタートアップは PMF に至ることができるよう、十分なデータポイントを集めるために多くの支障やロードマップの変更を必ず経験することになる。ポジティブな方向への発展(とキャッシュ)がスタートアップの歩みを進めていくことだろう。そして、シリーズ A に向けて市場で何が求められているのかということに関する深い理解と洞察を提供できる投資家と共に働くことができれば、ライバルよりも有利になることができるだろう。

重要なポイント

2018年上半期ヨーロッパのシードファンディングデータにおける重要なトレンドは以下のとおり。

  • ヨーロッパは成長している。これは自明のことである。2016年と2017年のそれぞれで、ヨーロッパではアメリカの2倍近い量の IPO があった。今年はこれまでのところ、ヨーロッパでは27件の IPO で総額325億米ドルなのに対して、アメリカでは14件の IPO で総額250億米ドルである。流動性がすべてではないが、それによって人材が流入し、起業する者にきちんと資金が提供され、投資家のリターンは増加し、そして自信を深めて、ヨーロッパのテックエコシステムの木に新たな年輪を刻んでいる。
  • シードは新たな「A」である。今年生まれたトレンドというわけではないが、この現状はますます固まってきている。歴史的には、トラクション以前のスタートアップはシードとされてきた。今では多くの投資家が、トラクションにつながる小切手にさらに大きな額を書き込むことで、リスクを減らそうとしている。
  • シリーズ A ファンドはレイトシードへと移行している。A ファンドがより大規模かつシード後半に、もしくはそのどちらかで行われることが著しく増加しており、、シードと「A」の境界線は曖昧になってきている。こういったことが起きているのには多くの理由がある。a)シードの会社は、より「A」の会社のようになってきており、b)「A」ラウンド内の競争によって、それに勝とうとする投資家は先買いの小切手を切らねばならなくなってきており、そして、c)多くの VC は大量の資金を調達しているため、「A」およびその周辺に資金を振り当てなければならないのだ。
  • プレシードが出現している。プレシードはシリコンバレーやニューヨークで定義されたカテゴリとして表れた。インキュベータやアクセラレータを除いた、少数の専用ファンドがヨーロッパにも誕生しており、またより多くのシードファンドはより早い段階で小額の小切手を切ろうとしている。以前、起業家は「友人と家族」を頼るか、もしくはエンジェルファンドで調達するよう求められるか、またはシードラウンドまで自力で進まなければならなかった。今や機関投資家はこのステージへ慎重に足を踏み入れており、経済状況を把握して、時には起業家を制限された予算で専門的な製品を製造しなければいけない状況から救っている。

「ヨーロッパのテックは成長している」という言説は何度も耳にしてきた。そして今、土台となるデータがその主張を本質的に支持しているのを見て取ることができる。

Sam Cash 氏betaworks のバイスプレジデントである。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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