【保存版】米国で起業する人のためのテンプレート全公開

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Image by Nicolas Raymond

「米国シリコンバレーでいつか起業したい!」とおっしゃる方を多々お見かけするようになりました。ですが、長くとも1カ月ほどの滞在で日本へ帰ってきてしまう方がほとんど、という印象です。

理由は複数考えられるでしょう。たとえば一度日本で創業したあと、米国法人を立ててしまうと連結決算になってしまい面倒な税申告などに追い込まれてしまう追加業務が挙げられます。

創業前に自己資金でMVP検証までをおこなうのは日本でいいかもしれません。しかし市場に製品を投入する段階がみえてきて、かつ最初からシリコンバレーやニューヨークなど米国で法人設立を考えているのならば、はじめから米国創業するのがベターです。

「日本でビジネスをやりなおす」という選択肢を断つことで覚悟も決まります。投資家やチームメンバーから、日本への逃げ道を用意していない点は必ず評価されるはずです。

筆者の場合、沢山の方の支援に恵まれ3年間シリコンバレーに滞在し、起業にも挑戦できました。私が起業した際は、投資家さんのサポートがありながらも、半ば手探りで創業準備をおこない、サービス開発になかなか時間の避けないストレスを感じていました。

そこで本記事では筆者がビジネスと生活面で活用していたサービスを紹介しつつ、これから米国で起業する方の“テンプレート”をご提供できればと思います。この記事に書き記したノウハウを共有することで、読者の皆さんの貴重な時間を大幅に節約することを目指します。

ビジネス編

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Image by Mike Cohen

米国法人設立へ動き始める際に考えなければいけない点が大きく4つ登場します。

  1. 移民弁護士の手配
  2. 創業サポートをしてくれる弁護士の手配
  3. 給与計算システムの導入
  4. 財務管理をしてくれるSaaS/税理士の手配

まずみなさんが最初に必ず突き当たるのはビザの問題かと思います。こればかりは避けては通れません。

起業家が目指すのはE2ビザ(一度取得してしまえば、基本的には事業継続している限り米国に滞在できる)です。通常E2を取得するには、1,000〜2,000万円ほどのお金を米国で使い、事業運営を継続して行っていることを証明する必要があります。そのため、お金を切詰め過ぎていると長期滞在できないビザをずっと保有するジレンマに陥るでしょう。

ビザの問題に長く振り回されないため、1〜2年でE2の申請許可が下りる出費計画を立てましょう。切詰めるのではなく、効率的に1,000万円以上のお金を一定期間以内に使う“スマート・スペンディング”な考えが求められます。計画と並行して現地の移民弁護士事務所に相談するのが適切なやり方です。

ここで大切なのは、E2ビザの獲得実績の高い移民弁護士を探すことです。筆者の場合、一人の弁護士からは「ビザ獲得はムリ」と言われ、実績のあるもう一人の弁護士事務所「Minami Tamaki LLP」に頼みました。周りの方のさまざまなサポートもありつつ、結果として無事E2を獲得できました。

次に筆者が向き合ったのが11種類に及ぶ膨大な法人設立のための資料でした。ページ数にして200〜300ページはあったかと思われます。

当時は投資家さんからのご厚意で弁護士事務所「WSGR – Wilson Sonsini Goodrich & Rosati」をご紹介いただき、同社に務める日本人担当者の方から各書類のサマリーをご教示いただきながら進めました。

登記の手続きは2〜3日で終わりますが、取締役会に関する合意文書など、すべての書類に目を通し、理解した上で署名を完了させるまで1カ月の時間を要しました。仮に日本人担当者の方のサポートがなければ、2カ月はかかっていたかと思います。

ひとえに筆者が神経質な上、細かい内容まで理解しようとしていただけで、もし署名だけ済ませるのであれば1〜2週間で弁護士を必要とする最初の段階は完了できるでしょう。

とはいえ、どんなに急いでいたとしても登記時に決めなければならない、株式比率の書類に関しては慎重に確認し決断をしましょう。シリーズAやB以降に、各ステークホルダーの比率がどう変化していくのかを計算・予測することも必須です。

最近では元Twitchの創業者Justin Kan氏が始めた、スタートアップ向けのオンライン弁護士事務所「Atrium」も登場しています。創業時に必要な書類をオンラインで申請、オンデマンドで担当弁護士がサポートしてくれます。筆者は使う機会がありませんでしたが、こうしたオンラインサービスを使うことが今では効率的かもしれません。

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Image by frankieleon

創業手続きの先に待っているのが給与支払いシステムの導入です。

もっとも利用されているものが「Gusto」。いかに従業員が少ないからと言っても、必ず創業初日から導入しましょう。

筆者がインターンを採用した際、忙しさにかまけてGustoへの登録を怠っていました。いざ確定申告の時期になると、手動で給与および源泉徴収額の計算をしなければいけなくなり、かつ財務諸表の修正を求められました。たった1つのプロセスを省いただけで1カ月は税理士とのやり取りに時間を割かれました。繰り返しますが、必ず初日からGustoは導入しましょう。

給与計算に紐付いて、キャッシュフローを含む財務諸表の管理も必要となってきます。しかし毎回エクセルシートに書き込む時間は惜しいです。そこで紹介したいのが「Indinero」。日本の会計管理ソフトウェア「MFクラウド」や「freee」とは違い、サービス利用時から専属の税理士が対応してくれます。

税理士の紹介は追加ではなく基本サービスとして提供されています。はじめから専門家の意見をいつでも聞ける体制が用意されている点や、追加料金1000ドル程度でややこしいIRS・デラフェア州・カリフォルニア州への確定申告手続き(デラフェア州で登記・シリコンバレーで起業した場合)を丸ごと処理してくれる点が評価できます。月額399ドルから利用できるため、Gustoと同タイミングでの導入がオススメです。

筆者が利用した際はワシントン州の税理事務所の担当チームが遠隔サポートしてくれました。担当者が事前に連携させておいた法人用銀行口座(筆者の場合「First Republic Bank」で口座開設)の取引を確認して、Indineroが提供する財務管理ダッシュボードにすべて情報を入力しておいてくれます。また、不明点があれば無料でいつでもSkype相談に乗ってくれます。

弁護士の手配から財務系SaaSの導入までを完了させれば、ほぼ問題なく立ち上げフェーズが終わっていることでしょう。もし外食費など細かい経費が発生するのであれば、無料で法人向けのデビットカードを発行する「Divvy」を利用しましょう。同社発行のカードで決済されたものは、すべてダッシュボードで管理できます。このようにすべての出費を一元管理する体制は常に維持しておきましょう。各経費申告作業を怠れば確定申告のタイミングで面倒くさい作業が待ち受けています。

他に労働災害保険の加入も検討しなければなりませんが、この分野でオンライン申請代行するサービスは確認できていません。そのため労災保険を扱う「Tokio Marine」に直接問い合わせるのが適切でしょう。

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Image by Maurizio Pesce

ようやく創業時に最低限必要なセットアップは終わりました。ここからは事業に関係するサービスを紹介していきます。

仮に読者の方がオンラインサービスに従事している場合、KPI自動計測ダッシュボード「Geckoboard」の利用をお勧めします。Google AnalyticsやFacebookなどのSNSと連携して、自分好みにカスタマイズしたKPI数値を自動トラッキング。

オフィスの入り口に大きなディスプレイを設置して、24時間KPIダッシュボードが確認できる環境づくりをするのがよいかもしれません。チームが常に目標数値に達しているのかを共有できる多少の緊張感が持てるでしょう。

また、米国ではEサインが基本となります。AdobeのPDF編集アプリ「Acrobat DC」や「DocuSign」の利用は必須です。先述した創業時に必要な書類はなるべく手書きで行うように弁護士から指導されますが、それ以外のシチュエーションではオンライン署名が当たり前です。

音声電話を通じて取引先や投資家、税理士と連絡を取り合うこともあるでしょう。毎回スケジュールを組む時間を減らすために「Calendly」を使いましょう。事前に入力しておいた空きスケジュール時間(15分間隔で設定可能)のリストを先方に送り、適当な時間を選択してもらうことで自動的にミーティング時間の設定が完了します。何度もメールのやり取りをしてスケジュール調整する手間が一発で省けます。

いざ、先方とオンライン会議となったら「Zoom」の録画記録機能を使い、後々揉めないように予防線を張っておくこともお勧めします。

さて、事業をしていると定期的に市場リサーチや資料作成をする必要性が出てくるはずです。他の業務アウトソーシング作業も発生することでしょう。この場合、クラウドサービス「Wonder」や「KONSUS」を活用して、なるべく意思決定にのみ集中する環境を作りましょう。

最低限機能するウェブサービス・モバイルアプリの開発を行う場合もアウトソースした方がよい場合もあります。サンフランシスコ在住の日本人起業家である玉井和佐氏が開発するサービス「Zypsy」に頼むと、週2500ドルから米国市場向けのサービスを作ることができます。

顧客にどのようなサービスを作ろうとしているのかを見せるまで、3〜6ヶ月も開発にだけコミットする手法は賢くありません。こうした外注サービスをフル活用して、とにかく早く市場のリアクションを得ましょう。

事業が進展してくれば、投資家へピッチする機会も増えくるかと思われます。その際は、『Forbes』の投資家向けピッチ資料に関しての記事の一読をお勧めします。投資を受けた後に待ち構えるものは、毎月の進捗報告です。この場合、Googleで“Investor Update Email”と検索するとさまざまなテンプレートが出てきます。日本でも使えるはずです。

生活編

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Image by Ulisse Albiati

ビジネス編に続いて起業家の生活についても軽く触れておきたいと思います。まずは医療機関について。

米国の医療費は非常に高いです。また、加入している保険会社によって通える病院が限られます。そのため風邪を引いた際に毎回自分の保険が使える病院を検索するのも手間ですし、かかりけの医師を探すのも一苦労です。そこでお勧めなのが「One Medical」。

ターゲット顧客は都市圏の忙しいビジネスパーソン。専用アプリかウェブサイトで手軽に診療予約手続きを完了できます。医師とフォローアップのチャット機能もあります。

基本的に直前の予約であってもすぐに受け入れ対応できるように、1都市に5〜6つほどの拠点を構えます。たとえば新宿駅近くに系列拠点が5つ程度集中しているイメージです。医師の性格や診療の質が高く、必ず専属の医師が付いてくれるため、毎回体調のキャッチアップをしてくれる点が高評価です。あまり自分の身体を過信せず、医療機関も創業当初から決めておきましょう。

家探しも相当苦労するはずです。通常、友人からの紹介に頼るか、募集掲示板「craigslist」で不動産オーナーに連絡をとって一軒ずつ内見して探す必要があります。もし創業前に下調べのために渡米できるのならば、観光がてら事前に家探しをする手も考えられるでしょう。

一方、現地に到着して家を探す時間がない場合、日本人起業家の内藤聡氏が提供する、ホテルを月額で利用できるサービス「Anyplace」を利用するのがよいでしょう。最初の3カ月ほどはホテルに滞在しつつ、ゆっくりと家を探して時間を効率的に活用しましょう。

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Image by Franco Folini

起業家は時間が命ですから、食事に関しても時間が取れないと思います。ですが、健康体を維持するため、多少高価だとしても日本食など身体に合った健康食をそれなりの量食べ続けることを強く勧めます。

筆者の場合は、食費を節約し過ぎて1日1食(夕食に納豆ご飯のみ)しか食べておらず、体調を大きく崩してしまったため、月額15〜20万円ほどは予算確保を念頭に置いておくべきだと思います(自炊する場合はもう少し安くなるはずです)。

昼食に関しては月額サブスクリプションモデルで、提携レストランのランチを食べられるサービス「MealPal」を使えば時間の短縮と最低限の栄養確保はできるでしょう。

会社のサステイナビリティーは、起業家が長く健康でいることを前提に話されます。そのため、お金で解決できる食事や運動(ジム通い)にはある程度の予算を割きましょう。

最後に余談として紹介したいのが「Pinterest」。海外で事業をしていると、ものすごい孤独感が襲ってきます。そんな時に大きな支えとなるのが、開発する製品/サービスを通じてどんな世界を築きたいのかという「ビジョン」や「起業家の想い/世界観」です。

そこで、たとえばPinterestで自分の思い描く世界にマッチした画像をボードにためておいて、ツライ時に定期的に見返すとメンタルヘルスの維持に繋がります。

ここまで多数のサービスを紹介してきましたが、すべてのサービスをうまく活用すれば、皆さんが渡米前・直後に費やす時間を大幅に削減できるでしょう。ぜひ参考にして、効率的に米国進出へ踏み切ってください。

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