ミレニアル世代向けCostcoーー「時間の先買い」「リピート顧客」「価格アルゴリズム」 有料会員制コマースから生まれた3つの戦略軸

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有料会員制コマース企業で最も顕著な例に「Costco」が挙げられるでしょう。年会費4,400円(個人会員の場合)を支払うこと利用出来る大型スーパーです。

Costcoの収益モデルの主軸は年会費徴収にあります。先に年会費を徴収することで、売上を事前に立てることができます。この売上を資本に大量に商品を仕入れ、顧客に大口商品を安く販売する仕組みです。

筆者は米国のCostcoに何度か足を運んだ経験がありましたが、巨大な空間に様々な商品が箱やブロックごとにまとめ売りされている光景に圧巻され、ある種のエンターテイメント要素を感じました。奥に進めば進むほど何か掘り出し物があるかもしれない好奇心がくすぐられたのを覚えています。

Costcoモデルの変遷

実店舗を軸に展開させるCostcoの強みは、体験コンテンツとして小売事業を展開する点と、配送コストを自社で抱える必要のない点にあります。一方、ECへの進出を断ち切っていることから、店舗への移動を不便に感じる層を獲得できません。そこでCostcoと同様の体験を求めるEC需要を獲得しようとする企業が誕生します。

この需要に応え、2013年に登場したのが「Boxed」です。“ミレニアル世代向けCostco”と称されるように、大口商品しか販売をしません。2018年8月、日本の小売大手「イオン」がリード投資をして、1億1000万ドルの調達をしました。Costcoとの大きな違いは会員費用を徴収しないECを展開した点にあります。

当時からAmazonがEC市場を席巻をしていましたが、大型商品を大量に仕入れて販売するホールセールはしていませんでした。この点を物流の最適化とモバイルファーストの戦略で参入したのがBoxedです。現在はより配達網を最適化させるため、自社物流拠点の構築や倉庫内にロボットを導入することで、さらなる成長が期待されます。

Boxedの狙いはリピート顧客の囲い込みです。大口商品は決まってトイレットペーパーや飲料水などの生活用品であり、顧客が安く買える店舗を見つけられれば、他社に顧客を奪われることはあまりありません。こうして顧客のリピートを念頭に商品を販売することで、高いLTVから収益を立てることが戦略的に計画できます。

追随するように2015年に現れたのが「Jet」です。ローンチ当初は年会費50ドルでサービスを展開。商品を大量に買えば買うほど値引きされることで人気を博しました。

筆者も利用したことがありますが、最大の特徴が買い物を楽しくさせるUIです。商品をカゴに入れるたびに、購入者が現在いくら得をしているのか、値引きをされているのか何度も表示されます。リアルタイムディスカウント感を味わえる点が醍醐味です。お得感を随時訴求することで、ついつい消費者も念のため多めに買っておこうという心理を掴まれてしまうのです。

Jetは大量に仕入れることで安く販売できるコストコのモデルを踏襲をしているものの、ECだからこそ発生する「配送コスト」の課題に直面しました。

Boxedは大口販売に特化しており、Amazonは損失は気にせずとにかく顧客を囲い込む大胆な戦略を採用していました。一方、Jetは小売販売から大口販売まで幅広く展開していたたため、AmazonとCostco、Boxedと直接競合する立場にありました。

また、小売の配送は梱包ボックスに空きや無駄が発生することから、配送コストがかさむ問題が発生します。創業当初から2000万ドルもの大型調達をしていたものの、商品を安く販売しても、売り続けるほど在庫及び配送コストがかかってしまっては廃業待ったなしです。

この課題を解決すべく、秀逸な価格アルゴリズムを開発した点にJetの競合優位性が伺えます。カゴに入った商品量に合わせて値引き額を微調整させているのです。従来、梱包ボックスの重さや大きさによって配送コストは変わってしまいます。

そこで、梱包ボックスに隙間なく商品を詰めて、コストを最低価格にまで抑えるための計算を瞬時におこなう仕組みを確立したのです。多数の商品の組み合わせの中から、どの組み合わせであれば配送コストを抑えられ、かつ利益を確保できるのかといったダイナミックプライシング技術を開発した点にJetの強みがあります。

このアルゴリズムはAmazonやBoxedより優れており、年会費を徴収せずとも顧客が納得する値引き提案ができ、かつ収益化が可能であると判断したことから、ローンチからたった2カ月で会員制度の廃止へと至りました。

次なるCostcoモデル市場は中国

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ここまで紹介してきた各々の企業戦略は全く違います。Costcoは会員制にすることで「時間の先買い」に成功しました。こちらの記事でも紹介されているように、Costcoは儲ける対象を販売商品を通じてではなく、前払金として収益を立てられる会費に置いたのです。

一方、Boxedは会費制度を導入しない代わりに「リピート顧客」の囲い込みに特化。まず、自社倉庫を緻密な戦略の上で全米各所に設立させることで、どの地域に配送してもなるべく配送コストを抑えられる物流整備に重きをおきました。物流網を整えることで、全米のどの地域に配達したとしてもコストを最低限に抑えられます。先述した8月の資金調達を通じて物流コストをさらに下げられれば、リピート顧客から得られる収益額もこれまで以上に上がるでしょう。

Jetは「価格アルゴリズム開発」によってAmazonにも対抗できる優勢性を獲得しました。技術力を評価され、WalMartに買収されたのがその証拠でもあります。

さて、最後に簡単に紹介したいのが、新たに登場したプレイヤーが中国版Costco「Black Fish」です。2018年8月に5,000万ドルを調達。ミレニアル世代向け、年会費44ドルの会員制ECを展開。提供企業の商品や旅行パッケージをディスカウント価格で購入できます。商品をSNS上でシェアすることで安く商品を購入する機能もあります。

Black FishはまさにCostcoの「時間の先買い」する戦略を採用。運営元会社がファイナンス企業であることから、会員情報を獲得することでカードローン事業など幅広いビジネスに活用できます。先述した3企業とは別収益軸があるとはいえ、これからBoxedのようにリピート顧客獲得へ走るのか、Jetのようにアルゴリズム開発に動くのかに注目が集まります。

もし読者のみなさんがCostcoに代表される会員制EC事業を考えた際、どの戦略を選択すべきか考慮しておくべきでしょう。

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