ポータブル型全身超音波スキャナを開発するButterfly、シリーズDラウンドで2.5億米ドルを調達

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Image Credit: Butterfly

1956年に初めて臨床用超音波機械が展開されてから数十年、高周波スキャナは少なくとも先進国では多くの臨床医にとって診断機器の主力ツールになった。残念ながら、GE の Vscan など小さくて格安なデバイスが拡散したにもかかわらず、依然として法外な値段だ。市価は1台につき9,000米ドルから2万米ドルで、スキャンには1回約250米ドルかかる。

これは、従来の超音波機器が画像を生成するのに、水晶振動子やその他の専用部品で構成されるトランスデューサに頼っているからだ。しかし、2015年の National Medal of Technology and Innovation 受賞者であり、カーネギーメロン大卒の Jonathan Rothberg 氏が共同設立したスタートアップ Butterfly は、技術的にそれよりも優れた代替品を先駆けて開発したという。同社の名を冠した2,000米ドルの Butterfly iQ は、超音波技術を電気剃刀サイズの周辺機器にまで小さくしたのだ。

9月27日、Butterfly は Fidelity がリードするシリーズ D ラウンドで2億5,000万米ドルを集めたと発表した。Fosun Pharma、the Bill & Melinda Gates Foundation、Jamie Dinan 氏に加え、既存投資家や同社に以前出資した投資家らが参加している。

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Butterfly iQ を使って患者の胸部組織を能動的に映し出しているところ
Image Credit: Butterfly iQ

Rothberg 氏は今年、こう述べている。

これは、必要不可欠な医療技術を利用できない数百万の人に超音波を届ける、という約束を果たすための重要なステップです。DNA シークエンシング同様、超音波画像の民主化にも着手したのです。世界中の3分の2の人は、医療画像を利用できません。先進国世界でも、費用と専門知識の欠如により、利用可能性は限られています。

Butterfly iQ は「臨床品質」の超音波を、iPhone 経由で Butterfly のクラウドストレージサービスにアップロードする。Federal Food and Drug Administration(FDA、アメリカ食品医薬品局)における、腹部、心臓血管、胎児、婦人科、泌尿器、筋骨格、及びその他7件の臨床申請は2017年10月にクリアした。

市販の超音波スキャナは、電流を単一もしくは複数の水晶に加えて振動を発生させ、その後音波を発生させる(いわゆる圧電効果)。音波は体内を通って進み、組織や内臓の間の壁に当たった後、一部が水晶に反射し、接触時に電流が発生する。音速は体の組織内でも一定であり、エコーが戻ってくる時間は簡単に計測できるため、スキャナの計算装置はトランスデューサと壁の間の距離を正確に測定することができる。この計算を最終的な画像に組み入れる。

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患者に Butterfly iQ アプリのデモンストレーションを行う医師
Image Credit: Butterfly

Butterfly iQ のチップ上の超音波は、離散信号処理機と増幅器を搭載した半導体ウエハーであるが、従来のトランスデューサのように機能する。ただし、水晶の代わりに容量検出型超音波トランスデューサ(CMUT)のレイヤーを採用しており、これは基本的に、2本の電極にぶら下がったドラムのようなメタルプレートだ。チップ1個あたり1万ものトランスデューサチャネルがあり、電気が供給されると、様々な種類の組織に応じた周波数で共振する。チャネル間の処理を知能的に委託する独自の「バタフライネットワーク」アーキテクチャのおかげで、iQ は1回のスキャンで1秒につき約5,000億回動作することができる。体のあらゆる部分を三次元超音波画像化するのに十分な量だ。

Butterfly によれば、iQ は全身の画像化に使えるチップ上の超音波としては世界初だという。従来のトランスデューサの水晶は、特定の深さの超音波を発生させるために周波数を合わせなければならないが、シリコンにはそのような制限がない。CMUT の電場に調整することで、オンザフライで周波数を切り替えられる。

Rothberg 氏は IEEE Spectrum に対し次のように語っている。

深い場所を見る時は1メガヘルツで出力できますし、浅い場所を見る時は5メガヘルツにできます。

もちろんハードウェアは片方の要素でしかないが、Butterfly のソフトウェアエコシステムは同様に堅固だ。iQ に付属するスマホアプリは、人工知能(AI)を利用しセットアッププロセスを簡略化する。コンピュータ画像認識アルゴリズムは、スマホカメラから映像を取り込み、プローブの位置をリアルタイムで検知、そして拡張現実(AR)を通してユーザに指示を出し、正確な場所に置くよう促す。(Butterfly は「Tele-Guidance」と呼んでいる。)もう一つの AI システムでは、各画像の品質をチェックし簡単な分析を行うが、第一弾で製造するデバイスでは出荷されない。別途、FDA の認可を待っているところだ。

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Butterfly iQ はパンツのポケットに収まるほど小さい
Image Credit: Butterfly

画像がアップロードされるクラウドストレージサービスは、AES-256ビットで暗号化しており、SOC II 認証を受けている。また、1996年に制定された、カルテに収集された個人情報を保護する米国法、HIPPA に完全準拠している。ビルトインの共有ツールでは、ユーザは画像にコメントしたり、メッセージを送信したり、セキュアリンクの形で同僚とスキャンを共有できる。

Rothberg 氏は世界で初めて DNA シークエンサーチップ(Ion Torrent)を発明するとともに、今日でも使用されている転移性乳がん治療を開発したが、超音波への取り組みは、多作の MIT 物理学者 Max Tegmark 氏のプレゼンに刺激を受けたという。Tegmark 氏は、1台のトランスデューサよりも数千のアンテナを使用したシステムの方がより効率的にエネルギーを計測できると主張した。結節性硬化症に苦しむ長女を持つ Rothberg 氏は、超音波画像に応用できるのではと考えた。

Tegmark 氏の賛同を得て、彼の教え子で大学院生の Nevada Sanchez 氏の支援を受け、Rothberg 氏と、約50人の科学者、開発者、エンジニアからなる同氏のチームは、スタンフォード大学教授 Pierre Khuri-Yakub 氏の研究の裏で、iQ の実用化につながる技術を構築した。前述のバタフライネットワークだ。研究開発に8年かかったが、Butterfly の最高医務責任者である John Martin 氏は、待つに値するものだったと譲らない。理由はこうだ。3年前の iQ の試験中、Martin 氏は舌の下に腫瘍を発見した。有棘細胞がんで、以前に亢進リンパ節と退けていたものだった。

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スマートフォンに接続した Butterfly iQ
Image Credit: Butterfly

9月27日、予約した数万の顧客に向け最初の出荷が行われた。Rothberg 氏は、非営利団体や大学と提携して途上国世界にも届けることを望んでいる。その目標に向かって、Butterfly とブラウン大学の超音波チームが4月にケニヤの病院の集中治療室で iQ のパイロット試験を行った。

今後1年半で25万台以上を売り上げる計画だが、Butterfly はすでに2つの新製品を開発している。超音波を使って患者をモニターするパッチと、体内からがんを検査する摂取可能な丸薬だ。Rothberg 氏は、いつか同社のプラットフォームが聴診器の代わりになると信じている。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

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