ビットコインの次は「社会実装」にありーーMS × LayerX 特別対談/ブロックチェーン社会実装前夜(前編)

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本稿は11月18日から20日まで東京ミッドタウン日比谷で開催されるブロックチェーンカンファレンスNodeTokyo 2018編集部による寄稿

ビットコインによって社会的な認知を獲得したブロックチェーン。決済や流通をはじめ、社会的な実装が語られることが多くなってきた一方、まだまだ実生活での「手触り」を感じるまでには至っていない。

ではこの技術、一体いつ、どういう形で私たちの生活に関わってくるのだろうか?

社会からブロックチェーンが求められるためには

本稿では「社会実装前夜」をテーマに、日本マイクロソフト「デプロイ王子」でおなじみ廣瀬一海氏と、新進気鋭のブロックチェーン・カンパニー「LayerX」CTOを務める榎本悠介氏(@mosa_siru)が語った内容をお伝えする。(インタビュワー:増渕大志/構成・執筆:平野武士)

3人の話はまず、ブロックチェーンを取り巻く現状認識から始まった。

社会実装というテーマでお二人に意見お伺いします。まず現状の認識は?

榎本:to C向けにわかりやすく提示される未来はまだまだ先かもしれませんね。国内のリーガル面はもちろん、UXもまだまだ課題がありそうです。例えばゲームをするためにわざわざボラティリティの高い仮想通貨を購入してウォレットに送金、プレイまでの処理に10分以上待たされたり。

廣瀬:ブロックチェーンが必要かと言われたら言うまでもなく必要です。

ブロックチェーンというテクノロジーは「Peer to Peerで関係するそれぞれが疑いあうことなく、コンセンサスアルゴリズムという社会ルールに委ね、誰もが信用できる真正性のある共有場所を設ける方法論」です。このような仕組みは今までありませんでした。

榎本:金融面はもっと早く浸透するでしょうね。現在は証券のトークン化(セキュリティ・トークン)がトレンドになっており、USで実際にリーガル面をクリアしてプラットフォームになろうとしているプロジェクトがいくつもあります。

ICOという「何でもアリ」からルールが徐々に整備されてきた

榎本:AML(アンチマネーロンダリング)やKYC、証券の持ち主、リーガル(ロックアップ期間等)がある程度のレベルまでコード上で透明化・一元化されますし、それにより流動性があがったり、収益配分もスマートコントラクトで自動化されるようになるかもしれません。金融、信託、保険など、そういったわかりにくいところから浸透していき、必要なパーツやキラーアプリが出た段階で、一気に広まっていくイメージは持っています。

廣瀬:あと、母体数が少ない企業ではコンソーシアム型での活用が先行しているように感じますね。結果として気が付いたら間接的にブロックチェーンを使っているケースって既に始まってたり。

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確かにICOや取引所というインパクトによって社会的にこのテクノロジーが顕在化した結果、自律的な合意形成の手法の認知が広がりつつあります

廣瀬:今後もっと社会を模倣するように様々なコンセンサスアルゴリズムが出てくるのではないでしょうか。実際PoAはグループにおける承認者という社会を実際に反映したアルゴリズムですし。

社会のルール=コンセンサスアルゴリズムとなるわけで、社会の多くの人から信頼されるのは、時間がかかります。一方で技術が枯れ、この仕組みがうまく機能すると人々が認知し、信用した時には誰しもがこの共有場所を使っていると思いますね。

LayerXへの取材で以前、福島良典さんはこれらのコンセンサスアルゴリズムを「個人が株式会社のように振る舞える新しい経済基盤」と表現していました

榎本:例えば今、アカデミックな研究者は給与面において博士過程にいくインセンティブがほとんどなかったりします。これは基礎研究からの応用研究、企業利用、その後の売上という長い期間をもってはじめて、パテントに価値が出るからです。

ここでもし、パテント相当のセキュリティ・トークンが発行できたらどうでしょう?研究が具体化していくにつれて、トークンを欲しがる人が増え、価格が上がります。研究が適切に価値評価されるようになるんです。もちろんリーガル的な面もあるでしょうが、そういう世界がきたら良いなと。

権利処理が細かくなればなるほど自律的なシステムでなければ実現できない

榎本:配当が半自動的に執行されれば配当にかかるコストも大幅に緩和されるでしょう。ブロックチェーンが真に発展すれば、あらゆる公共財が適切に評価されるようになるかもしれません。極端な話、道端のゴミ拾いという行動にすら価値がつくとしたら面白いですよね(笑)。

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社会実装を前提としたビジネスモデルの手法、可能性

現状でブロックチェーンのマネタイズモデルと言えば取引所やコンサルティング、監査などが挙げられる。ここにはどのような勝ち筋があるのか?引き続き二人に話を聞く。

では、話題を変えてビジネスについて。どこに注目していますか

廣瀬:電気、ガスなどのエネルギー産業の価値交換のエリアは注目していますね。ここが自由化すればC to CやC to Bの取引活発化が予想されます。また、トレーサビリティについて言えば特にリテール(小売り、流通)の分野での利用が盛り上がっています。

交通や予約、マイルなど、非接触のICカードで実現しているものに相当するシステム構築も可能性が高いです。海外では既に小売店でマイルが使えたりするケースもありますし、各交通機関が一つの予約台帳を共有することで、車や飛行機、電車などをシームレスに予約する仕組みなども期待できますよね。

暗号通貨取引に代表されるようなシンプルなものから、より社会に影響のある事業モデルに拡大していく

榎本:取引所ビジネスはもはや金融の文脈になりましたし、マイニングも競争が激化しており、国内ICOもリーガルに基づいて実施するなら難しい状態です。

ブロックチェーン領域の変化速度は海外中心に圧倒的に速く、たとえば今年始めにかけて熱狂化したICO市場は沈静化しており、毎月1000億円をこえていた合計調達額も、現在は350億円程度になっています。普通のベンチャーのように、エクイティで調達するプロジェクトも多くなってきました。わかりやすくマネタイズできるモデルは一瞬にしてなくなったと考えていいんじゃないでしょうか。

なるほど。まだ社会実装可能なビジネスがスケール感云々を持つには時期尚早と

榎本:正直にいえば、どうやってお金にしていくかは各社が模索している段階ですね。弊社でも毎週のMTGで軌道修正が発生するような、それくらい変化が激しい領域です。ひとつポイントを挙げるとすればステーブルコイン(法定通貨にペグされたトークン)です。これはブロックチェーン事業を成り立たせるための必須パーツと考えています。

ここ最近、話題の中心になることも多くなりました

榎本:法定通貨相当がブロックチェーン上に載せられれば、支払いに安心して使えるのはもちろん、DEXによって必要なコインやトークンに変換することもできます。ユーザーはブロックチェーンを意識せず、多様なDappsを法定通貨で利用することができるメリットがあるんです。そういった意味で、人々をブロックチェーンの世界につなぐゲートウェイのような役割を果たすのではと考えています。

廣瀬:あと、まっさらなブロックチェーンのみを使ったビジネスモデルというよりは、現在の事業や業務ワークフローに対して改善するようなケースに適用する例は増えるんじゃないでしょうか。例えばマイクロソフトと提携した「ALIS」のように、SNSという既存のビジネスモデル加えて、ブロックチェーンのエコシステムを取り込むところもあります。

また、医療では治験過程の管理や医療機関、薬局などの間でネットワークを組むことで第三者証明型のデータを扱うということも考えられます。

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既存事業がブロックチェーンの有用性に気がついて取り組みを開始するためには何らかのアプローチが必要になります。コンサルティングビジネスなどはその例ですよね

廣瀬:エンタープライズ企業からのコンサルティング依頼は確かに増えるでしょう。ただ最終実装までコーディネートできることや、実装に対してSIerなどと共同で対応する仕組みが必要です。

また、スマートコントラクトを記述するエンジニアの教育事業もあります。記述されたコントラクトコードのセキュリティチェックを行うなどのビジネスモデルも芋づる式に出てくるのではないでしょうか。

榎本:こういった変化が激しい業界の中で、とにかくその中にいて情報が集まる、見通しの良いところにいることも大事です。福島(良典氏/代表取締役社長)も、この激しい環境に100%コミットできるよう、Gunosyの代表取締役をおりてLayerXを立ち上げましたし。

弊社は国内外のプロジェクトの動向を常に追い、その知見をコンサルティングに活かしています。

毎日の技術・ビジネス両面の勉強会を通して知見を蓄積してますし、形式的検証をはじめR&Dを専門に手がけるチームも作りました。もはやブロックチェーンは企業や個人が片手間で追えるような領域でないのは断言できます。(後半につづく)

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