ブロックチェーンで経歴詐称はなくなる?ーー非中央集権で「職歴情報の証明」に挑戦するSKILL、マイクロソフトとの共同検証を開始

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SKILL創業者、代表取締役の水谷友一氏

本稿は昨年開催されたブロックチェーンカンファレンス「NodeTokyo」編集部による寄稿

ニュースサマリー:ブロックチェーン技術を活用し、人材業界の課題に取り組むSKILLは1月7日、同社が開発を進める分散型人材プラットフォーム(SKILL)を日本マイクロソフトと共同検証していくことを発表している。

SKILLプラットフォームは個人が持つスキルや経歴を、客観的評価を基に証明できるというもの。同プロジェクトは、人材市場における雇用者と被雇用者とのミスマッチを解消する目的を持つ。プラットフォームには、今回提携を発表したEthereum Proof-of-Authority on Azureが用いられ、まずはコンソーシアム型で実証実験を開始していくという。

話題のポイント:ブロックチェーンを採用したプロジェクトが増えていく一方、実際にどのような課題を解決したいのか、曖昧なプロジェクトも数多く存在します。

SKILLは現在人材市場にて問題視されている、雇用者・被雇用者間でのミスマッチや、人材仲介業者という透明性の低さに対しブロックチェーンという手段で課題解決に乗り出しています。

なぜ人材業界にこそブロックチェーンが用いられるべきなのか、そしてブロックチェーンで作り上げる未来像について、SKILL創業者である水谷友一氏にインタビューを実施しました。(太字の質問は全て筆者、回答は水谷氏/取材・執筆:増渕大志、編集:平野武士)

ブロックチェーン×人材の可能性

ブロックチェーンと人材に着目した具体的なきっかけはありますか?

水谷:ブロックチェーンの話題になると必ずと言っていいほど登場する「トラストレス」という言葉があるじゃないですか。このトラストレスによって解決できる可能性のある課題テーマに何があるのだろうと。

決済承認や資産価値証明、流通などの用途をよく聞くようになりました。人材はまだそこまで多くない印象です

水谷:私やチームメンバーも会社では採用面接などをしているのですが、職務経歴書などに書かれた情報の検証にはインタビューでの掘り下げやテストなど、結構なコストがかかるんですね。この課題意識からブロックチェーンを職歴情報の証明に活用することを考えたのですが、それが実現すると面接コストを一部削減できるだけではなく、人材業界のあり方まで変わってくる可能性があることに気づきました。

なるほど、職歴情報の証明はブロックチェーンが活用できそうです

水谷:人材仲介業者は求職者を囲い込み、ユーザーのデータベースに一定の信用情報というバリューを加えて企業とマッチングさせてマネタイズしているわけですが、この信用情報の証明をブロックチェーンによってユーザー自身が行えるようになったらビジネス構造自体が大きく変わるのではないかと。

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一方で、ビジネスSNSであるLinkedInなどにも職務経歴やスキルが客観的に評価されるシステムがあります。SKILLとLinkedInの様な既存プラットフォームに付属している職例証明サービスと具体的な違いはどこにありますか?

水谷:SKILLプラットフォームの特徴の一つとして、職歴情報に対して第三者のリファレンス与えることでその情報の信憑性を上げるという点があります。職歴情報そのものに対する直接的な証明ということです。LinkedInはビジネスSNSとしてのネットワーク効果を活用することで、間接的にその人自身の信用力を可視化するアプローチだと考えています。

なるほど。ネットワークを活用する点では両者共に似てますね

水谷:決定的な違いは目指すところが中央集権か非中央集権かの違いなんです。SKILLプラットホームはもちろん非中央集権化を目指しています。職歴情報に限らず個人の情報資産は個人に所有権があることが望ましいという思想です。従来中央集権組織が得ていた利益が個人に還元される事例が出始めると、一気にパラダイムシフトが起きると予測しています。

少し質問変えます。分散型のアプリケーションを開発する上で、イーサリアムチェーンを採用し、コンソーシアム型を目指すことにした経緯を教えてください

水谷:現時点では、パブリックチェーンでサービス提供する場合にはスケーラビリティ、トランザクションコスト、ユーザビリティの問題があります。そこで現実解としてまずはAzureのEthereum PoAを採用しプライベートチェーンで実装する判断に至りました。インフラの構築や構成検討に時間を費やすことなくプロダクト開発に集中できることもメリットの一つですし、独自トークンでないと実現できない機能でも無い限り、スピーディに実装や検証を進めていける環境だと思います。

また、ブロックチェーンに関するクラウドインフラを提供する事業者には、今後実用化が進んでいく中で様々な技術面・ビジネス面の知見が蓄積されていくと思われます。日本マイクロソフトさんは数年前からブロックチェーン領域に取り組まれていて実績も多くあるため、HR領域に限らずブロックチェーンの社会実装において一緒にソリューションを考えられる大変心強いパートナーです。

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今回は日本マイクロソフトとの協業を発表されましたが、今後プロダクトをグロースさせていく上で、どのような企業さんとのコラボレーションを望んでいますか?

水谷:すでに多くの企業様にご興味をお持ちいただき随時意見交換等はさせていただいております。中でもSKILLの構想にいち早く共感していだいた企業様とは共同で、昨年12月から今年1月にかけてPoC(Proof of Concept)を実施しました。

初回のPoCでは、DAppとしての機能検証が主な内容となっており、HR✕ブロックチェーンの社会実装に向けて、最初の一歩を踏み出せたかなと思っています。

ただブロックチェーンによる信用の民主化は、既存の事業者にとって既得権益を崩すもの、いわばカニバリゼーションとなり得る部分があります。かつてインターネット勃興期に情報発信の民主化という観点で既存メディア事業者対インターネット事業者の構図がありましたが、同じように信用の民主化の観点で「中央集権的事業者 対 非中央集権的事業者」の構図が存在すると思います。

ですが、世の中が非中央集権的な方向に進むと予測するならば、ここは歴史を教訓にして対立構造ではなく棲み分けやシナジーを生み出す方向で一緒に思考を深められる企業様に集まっていただけると嬉しいです。

最後に、ブロックチェーンプロジェクト特有の課題である外部要因について。イーサリアムの開発状況次第では自社プロダクトに大きな影響がいきなり出てくる可能性も高いですが

水谷:イーサリアム自体の開発については状況をウォッチしていますが、直近のSKILLのプロダクト開発には大きな影響はないと考えています。というのもPoCで実装したEhereum PoAを活用したシステムが、一定のサービス提供において問題ないことを既に確認済みであるためです。

もっとも現在はプライベートチェーンなので、これをコンソーシアムモデルでノードを分散化したり、現時点では実現可能性を模索中ですがサイドチェーンの活用を考えたり、技術の進歩状況に合わせてその時時の最適解を見つけて適用する計画です。

SKILLとしてはどのようにマイルストーン設計を立てていますか

水谷:マイルストーンとしては、9月末にはローンチしたサービスがユーザーに利用していただけている状態にしたいと考えており、現在はPoCの結果も踏まえプロダクト設計を進めています。

ブロックチェーン固有の特徴がサービスのUXに与える影響に対する考慮や、そもそも価値のパラダイムが現在のものと異なるためユーザーや企業にとって納得性のあるわかりやすい価値にどう落とし込むか、またそれを持続可能なサービス構造に仕立てる必要があるなど非常に難易度の高い設計です。

しかし、ブロックチェーンによって新たな価値を創造することがSKILL社のビジョンであり、それによる社会の変革に携われることが何よりのやり甲斐となっています。

ありがとうございました。

 

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