元SCHAFTの中西雄飛氏、宇宙産業向けロボティクススタートアップGITAIのCOOに就任

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GITAI のチーム。後列右から3人目が CEO の中ノ瀬翔氏。前列中央が COO の中西雄飛氏。
Image credit: Gitai

テレイグジスタンス(遠隔存在感)分野のロボティクススタートアップ GITAI(旧称 MacroSpace)は11日、同社 の COO に、ヒューマノイド科学者・技術者で SCHAFT 創業者兼元 CEO の中西雄飛(なかにし・ゆうと)氏が就任したことを発表した。

SCHAFT は2012年に設立。 TomyK や常石パートナーズから出資を受け、2013年にDARPA(アメリカ国防総省国防高等研究計画局)予選で優勝。後に Google(当時)に買収されたロボティクススタートアップだ。SCHAFT はその後、Google の持株会社 Alphabet 傘下の新技術開発会社 X(旧称 Google X)でロボット開発を続けていたが、昨年11月に SCHAFT のプロジェクトをシャットダウンしていた。

GITAI は当初、異なる2地点にいるオペレータとロボットをつなぐテレイグジスタンスにフォーカスしていた。同社が2017年に TECH LAB PAAK 第9期に参加した頃からは、宇宙分野への事業シフトを図りつつあったようだ。

中西雄飛氏

国際宇宙ステーション(ISS)の運用にあたっては、累積ベースで世界全体で数兆円以上、日本単独でも数千億円以上のコストが費やされている。そのうち、約半分くらいは宇宙飛行士の養成、宇宙飛行士の地球〜ISS 間の往来、宇宙飛行士の生活を維持するための必要物資の運搬にかかるコストだ。

宇宙飛行士も人間である以上、その活動時間や活動範囲には制約がある。無重力状態や宇宙放射線の影響も無視できないので、一定期間のミッションを経た宇宙飛行士は地球に帰還する必要があるし、また、ISS においてはさまざまな実験を行うわけだが、宇宙飛行士によって専門分野が異なるため、あらゆる分野の実験を単独で実施するのにも限界があるだろう。

ISS にロボットを配置して地球上から遠隔制御することができれば、ISS に乗り込む宇宙飛行士の人数を抑えることもできる。ISS のロボットを操作するオペレータをタイムシフトで変えれば、あらゆる分野の専門家がそれぞれ自分の実施したい実験を遠隔で、しかも24時間単位で運用し続けることができる。既に存在する莫大なコストのかかる産業の一部をロボットで代替できるならば、そこにビジネスが創出できるかもしれない。GITAI の創業者でCEO の中ノ瀬翔氏はそう考えたようだ。

アメリカのトランプ政権が ISS 運用の民間シフト(NASA から宇宙スタートアップへの運営者転換)の方針を打ち出したことで、アメリカで宇宙スタートアップが勢いづいていることは顕著な流れだ。ISS の運用コストの8割を拠出するアメリカの動きにならう形で、日本も JAXA を中心に、ISS の実験モジュール「きぼう」の運用などで宇宙スタートアップとの協業を模索しつつある。

例えば、今まで400億円かかっていた ISS のミッションが40億円で運用できるようになるとする。この場合、ロボットが多少値の張るものであっても、ミッション全体のコスト削減ツールと位置付けられるので、ロボットの費用は許容できるだろう。(中略)

ロボットが自律的に動作できるようになるまでには、まだ少し時間がかかるだろうし、精細で低遅延の映像と操作性でテレイグジスタンスを提供できれば、十分に価値を提供できるのではないか。(中ノ瀬氏)

B 向けのロボットであれ、C 向けのロボットであれ、一般普及に対応できる量産レベルに持っていくには、圧倒的なコスト圧縮が求められる。実のところ、X が SCHAFT の運営継続を断念した背景にも、そのような理由があるようだ。それとは対照的に、宇宙ミッション向けのテレイグジスタンスとしてのロボットであれば、1台でも売れれば、スタートアップがしばらく経営を継続できるくらいの利益は出すことができるだろう。

GITAI が開発中のロボット6号機
Image credit: Gitai

SCHAFT の開発で、Google が特に重視していたのはビジネスとして成立させること。二足歩行のロボットで、いかにビジネスできるか、ということに焦点を置いていたので、そのためには、低コストで、低消費電力で、完全自律化させることをテーマにやっていた。(中略)

低コストにするということは、ロボット1台あたりの利益率は低くなるので量産化が必要になるが、完全自律化されたロボットがビジネス現場に到達するには、まだまだ時間がかかる。Google は5年間やらせてくれたし、やれるところまでやった感はあるけれど、そのような判断から区切りをつけたことになる。(中西氏)

中西氏のそれまでのコスト追求の世界とは対照的に、1台でも売れれば利益が出せる宇宙用代替作業のロボット市場。しかも、最初から完全自律化しないといけないという制約も無いため、中西氏は GITAI でヒューマノイド技術者としての知見を存分に発揮できると判断したようだ。彼によれば、完全自律を目指すロボットは、まだ人間の性能や人間と同じスピードで動かすところまでは、ハードウェアもソフトウェアも追いついていないのが現状だという。

ロボット研究者としては、他の誰かがこの分野で成し得ても、どこかで認めたくはないと思っている(笑)。でも、やりたいことを実現できて、それでお金をもらえているところがあれば、そこがエラい。(完全自律じゃないと)いろんな人からなじられようが、そういうのは放っておいて(笑)、ちゃんと使われるロボットを世の中に出したいと思った。

SCHAFT では人間の下半身の動作を再現するロボット、GITAI で人間の上半身の動作の多くを再現しているロボットを開発する中西氏。同じヒューマノイド科学者のもと、別々のスタートアップが生み出したテクノロジーが Google に買収され、名実ともに上半身と下半身が合体する日も、ひょっとしたら夢物語ではないかもしれない。

GITAI には、パーソナルモビリティ「WHILL」のメカニカルエンジニアだった上月豊隆氏(現 CTO)や、SCHAFT でソフトウェアエンジニアだった植田亮平氏(現ソフトウェア担当 VP)など、中西氏と同じく東京大学大学院情報システム工学研究室(JSK)出身の技術者が複数名在籍している。GITAI はいつの間にか、世界のロボティクス権威が集まる集団へと変貌を遂げていた。

GITAI は2016年9月にシードラウンドで Skyland Ventures から1,500万円を調達、2017年12月にシードラウンドで ANRI、500 Startups Japan(当時)から125万米ドルを資金調達している。

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