150教室が導入待ち「AI教育」の衝撃--15億円調達のatama plus(アタマプラス)創業2年で急成長

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ニュースサマリ:AI(人工知能)によるパーソナライズ教材atama+(アタマプラス)」を提供するatama plusは5月13日、シリーズAラウンドの資金調達を公表した。第三者割当増資によるもので、引受先となったのはジャフコおよびDCMベンチャーズ。調達した資金は15億円で初回のシードラウンドで調達した5億円と合わせ、累計調達額は20億円になった。今回ラウンドの出資比率など詳細は非公開。

今回の調達で現在提供している中学高校向けの教科コンテンツを拡充するほか、導入が進む学習塾のサポート体制を強化するとしている。

atama plusの創業は2017年4月。中高生の基礎学力を最短で身につけることを目的としたAI教材「atama+」を開発しており、全国の塾や予備校に導入している。前回ラウンドの2018年3月時点で100教室だった導入実績は500教室に急拡大。同社代表取締役、稲田大輔氏の説明では現在も150教室ほどが導入待ちの状況になっているという。

話題のポイント:国内EdTechの本命、atama plusが大型調達です。個人的には次のユニコーン(※グローバルで10億ドル評価の未公開企業の呼称)はここだと本当に思えるゲームチェンジャーです。

主力教材「atama+」を簡単におさらいすると、基礎学力を「コーチング(学習指導)」と「ティーチング(教材習得)」に分け、人間と人工知能で教育を分担するというアイデアを展開しています。これによって学習効率が格段に上がる、という謳い文句でした。

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画像提供:atama plus/高校物理「波の式・波の干渉」を学習する場合 「波の基本要素・波のグラフ」の講義動画や、数学「三角比の定義」の演習問題等がレコメンドされる

創業2年で500教室にまで拡大しているその理由は、そのアイデアが本当だったからです。例えば数Iと数Aは学習指導要領で規定されている授業時間が合計175時間なのですが、「atama+」を使うと31時間(数Iが16時間、数Aが15時間)で終わるそうです。個人差はあるとは思いますが、教材習得にかかる時間が軽減されるのはもう間違いないと言えるレベルです。

訂正と補足:記事初出時に学習指導要領にて定められている授業時間を175「時間」と記載しましたが、atama plus社のプレスリリース表記にミスがあり、正しくは175「単位」になります。この1単位には休憩時間が1時間の中に含まれるため、厳密に授業を行うべき時間は1単位あたり「50分以上」です。したがって、175単位を時間に換算すると146時間以上が正しい情報になります。考察箇所で同サービスの優位性を伝える情報でもありましたので訂正して補足説明させていただきます。

ただ、まだ全教科揃っていない状況で、今回の資金調達でこれから中学生向けの英文法など不足している教材を順次追加するというお話でした。また、導入についても慎重で、この教材は学習塾にとって全く新しい事業として導入することが必要になります。

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そのため、導入する塾や教室にある程度伴走し、AI教育を導入する場合のマーケティングや他校での導入ノウハウなどの共有といったオンボーディングを重要視しているということでした。例えばある塾ではAI専門コースを新設して提供する事例も出てきています。

稲田さん曰く、最終的に塾が事業として成立しなければやはり意味がないというのは至極ごもっともなお話です。なお、現在順番待ちとなっている教室は完全にインバウンドで、営業活動などはこういう状況もあって一切ストップしているそうです。

人工知能が先生になる日

今年4月から改正労働基準法が施行された通り、過労死ラインを超える月間80時間を超える労働はペナルティが強化されるなど、いよいよ人間が物理的に働ける時間へのブレーキが社会としてもかかってきました。一方、教育については(こちらは義務教育ですが)新たに小学校で英語やプログラミングといった新たな科目が追加されるなど、反比例した必要性に迫られています。

義務教育の教職員の競争倍率は年代によって上下するものの、就職氷河期にピークを迎えた時からは下がる一方で、現在は2倍というような実績もあるそうです。その主たる理由に閉じた環境や過酷な労働が一端にあると指摘する声もあります。

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この写真は atama+を導入する学習塾の様子です。従来のスクール形式(教壇に先生がいてそれを聴講するスタイル)ではなく、フラットな環境で生徒と先生がコミュニケーションしています。

稲田さんの説明で何より驚くのは、実はこのコーチングをしている側の先生、担当する教材について熟知していなくてもよいそうなのです。あくまでAIの「アタマ先生」の指示に従って生徒を応援する。結果、授業のスタイルも先生が教えるという時間を必要としないので、現在主力になっている個別指導と比べ、1人あたりで担当できる生徒数も10倍近くが可能というお話でした。

なにより大切なのは「先生」の存在です。労働集約的だったティーチングから解放された場合、彼らは何を教える「コーチ」となるべきなのでしょうか。

稲田さんはこの事業を進める上で多くの中高生に出会っています。その中で、大学生にはなりたい。なんとなく自由そうだから。でも社会人にはなりたくない、という雰囲気を感じているそうです。社会に出ることの素晴らしさ、挑戦の苦しさや喜び、こういったものを伝えられない教育の現場はやはり何かが欠けているように思えます。

今後の事業拡大について「多くの教育をさらに多くの人に届けたい」とお話されていましたが、その中には当然この義務教育も視野に入っています。もし、人工知能が先生になれる日が来たならば、おそらくその時、彼らは真のゲームチェンジャーになれるのではないでしょうか。

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