想像の遥か上をいくFacebook仮想通貨「Libra」のスゴさを解説するーーいきなり米国議員から開発停止要求も

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ピックアップU.S. lawmakers are calling for Facebook to halt Libra development

ニュースサマリー:6月18日、Facebookは昨年より構想・計画してきた仮想通貨プロジェクト「Libra」の公式サイトと詳細なドキュメント(WhitepaperTechnicalpaper)をついに公開した。国内外・暗号通貨業界内外問わず、Libraに対しては賛否両論様々な声と議論が起こっている。

反対運動として最も大きな出来事は発表直後に起こった。それは米国の住宅金融サービス委員会に在籍する共和党員Patrick McHenry氏による書簡をきっかけとして、同委員会の議長Maxine Waters氏がLibraプロジェクトの開発停止要請を行ったことだ。Waters氏は、過去Facebookが起こしてきたデータ・プライバシーの問題に対し言及している。

声明の中で、Waters氏は以下のように述べている。

規制当局は、プライバシーと国家の安全保障上の懸念、サイバーセキュリティのリスク、および暗号通貨によって引き起こされる取引のリスクについて、この機をきっかけにより真剣に取り組むべきです。

話題のポイント:前回、筆者はFacebookによるステーブルコイン・プロジェクトについて、公開情報やネット上の議論を元にできる限りの予測と論点の整理を行ないました。しかし今回のドキュメント公開のインパクトは、それらの予想をはるかに上回るものでした。理由は主に3つあります。

<参考記事>

一つ目に、Facebookが目指すものは、単なる”通貨の創造”に止まらず、イーサリアムのようなスマートコントラクトを実行可能なブロックチェーン・プラットホーム開発だと判明したこと。

二つ目に、Libraはまず一般的なコンソーシアム型のブロックチェーンとしてローンチされる予定であるものの、中長期的にオープンなパブリックブロックチェーンを目指すという点。そして最後に、今回の発表がプロジェクト構想の発表だけではなく、パートナーシップ企業の実名公表及び開発ドキュメントの公開とその充実(既にいくつかの処理を実行可能)などの魅力を持っていた点です。

もちろん批判的な意見も多くあり、記事冒頭で触れた規制当局との戦いが今後加熱することからも、実現可能性という点では懐疑的にならざるをえない部分が多々存在します。しかし上記の3点を踏まえると、Facebookが構想していたものは、これまでネット上に飛び交っていた一般的な憶測の域を大きく凌駕するスケールであり、より大きなインパクトを世界に与えるものであったのではないかと見受けられます。

まずLibraの概要を整理します。Libraは、Whitepaperにも記載してある通り、何十億人をエンパワーするシンプルでグローバルな通貨と、金融インフラを作ることを目的としています。そのために、独立した非営利組織Libraが牽引する企業連合「Libra Association」を設置し、その中でコミュニティの意思決定や開発へのコミット、スマートコントラクトプラットホームとなるLibra Blockchainのバリデート(検証作業)が行うことで、LibraエコシステムとステーブルコインLibraの健全な成長を促します。

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Whitepaperで発表された初期のLibra Associationのメンバーは以下の通りです。VISAやMastercard、PayPalなどの決済機関、UberやLyft、eBayなどのプラットフォーマー、KivaやWomen’s World Bankingなどの非営利組織、a16z、USVなどのVCなどが名乗りをあげています。

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Credit : The Block

ステーブルコイン”Libra”は、各国法定通貨のバスケット通貨です。既にバスケットの担保としてはUSD、CND、JPY、GBP、EURが候補として上がっており、この点はIMFのSDR(特別引出権)を参考にしていると言います。

上記メンバーが運営するサービス以外でも、スマートコントラクト・プラットホーム上のアプリであれば誰でもLibraを利用可能です。一般ユーザーは法定通貨を預託すると、その際の裏付け資産価格やバスケット比率から換算されたレートでローカルの法定通貨建Libraを受け取ることができます。

Associationメンバー企業からSTO(証券トークン販売での資金調達)で集めた法定通貨は、各国銀行の銀行預金または政府短期国債に投資され、Libraの裏付け資産となります。これらの利子はAssociationメンバー企業に利益として還元されるか、またはAssociationの運営資金となります。Libraがメンバー企業の運営するサービス内で利用できる通貨となり、利便性向上及びネットワークエフェクトを生み出すことができた場合、Libra発行のインセンティブはより高くなります。

そしてLibraブロックチェーンのコンセンサスアルゴリズムは、ビットコインやイーサリアムのようなPoWではなく、BFT(Byzantine Fault Tolerance)と呼ばれるバリデート方式だとされており、既存のブロックチェーンより高いトランザクション処理能力を有しているとされています。そして誰でもバリデートに参加できるパーミッションレスな仕組みへ移行するために、この仕組みは5年以内にPoSモデルに移行する予定です。

スマートコントラクトについては「Move」という、従来みることのなかった新しい記述言語が採用されていることが分かりました。メインネットローンチ後はMoveを使い、誰でもLibraブロックチェーン上にアプリケーションを構築できるようになります。なお、ブロックチェーン自体はRust言語で記述されています。

以前「Facebookがステーブルコインを発行するらしい」という情報だけが出回っていた頃は、人々は「せいぜいTetherUSDCのような法定通貨を担保にした普通のステーブルコインができて、それをFacebookや傘下のチャットアプリで利用可能にするのが狙いだろう」と思っていたに違いありません。筆者もそのうちの一人であり、前回書いた記事はそのような内容がメインでした。

しかしFacebookはその予想を裏切り、あれだけの規模の複数企業との連携・相互検証の元に成り立つステーブルコインを発行しようとしており、かつ最終的にはコンソーシアムではなく、パブリックブロックチェーンに移行することから、部分的にイーサリアムやEOSと競合するようなオープンソースのスマートコントラクト・プラットホームの構築を目指しているということが分かりました。

UberやLyft、eBayなど、既に大規模なネットワークを持つ企業がLibraを利用可能にする場合、その観点では、上述した2つのブロックチェーンに対し優位を持っていると言えるでしょう。さらに開発者向けドキュメントはとても充実しており、テストネットでのビルド、Libraの送金などの処理も容易に行うことができます(筆者も既に試し済みです)。

ですが、改めて述べておくと、経済・金融・法律分野の専門家からは、バスケット通貨の複雑性やLibra通貨の証券性などに対する批判が多く散見されますし、上述した開発停止要求などの事件からも、実現可能性という意味では不確定要素が多いため、現時点でポジティブな見方をするのは時期尚早かもしれません。そしてそもそもビットコインやイーサリアムなどの元祖となるブロックチェーンと比較すれば、非中央集権性・検閲耐性・オープンさなどに欠けるネットワークであることも一つ把握しておくべき要素です。

しかしそれらの点を留意したとしても、同プロジェクトが今後規制環境の変化・開発者の増加などの面でブロックチェーン業界全体に影響を与える影響は非常に大きいと推測することができます。Facebookは2020年での発行開始を目指しており、現在はメンバー企業の募集や呼びかけ、開発、規制当局とのコミュニケーションなどに帆走しており、今後の動向に一層注目が集まります。

 

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