米国で本格ラーメンEC「Ramen Hero」ーー売上は昨年比3倍、新体験「Zoomen」とは(後編)

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画像提供:Ramen Hero

Zoom + Ramen = Zoomen !?

(前回からの続き)長谷川氏曰く、ラーメンを楽しく層は大きく分けて2種類いるのだそうだ。一人で楽しむ層と、誰かと一緒に食べるグループ顧客層である。

長谷川氏:米国では日本のように一人でふらっとラーメン屋に立ち寄ることはハードルが高い印象です。たとえば、会社帰りにラーメンを食べるという習慣が文化的に合いません。誰かと一緒に楽しむことがラーメンを外食として楽しむ前提にあります。ボッチメシということに対しての抵抗が高いのです。

そこにコロナが直撃し、在宅で食事をする生活習慣が一般化したんです。Ramen Heroが一人でラーメンを楽しみたい層に刺さり、これまで在宅でラーメン体験をしたことがなかった人との接点が生まれ、顧客数が伸びています。

なにより、家族やカップル、友達との共有体験での共有体験としてのラーメンを楽しむ提供価値が、過去半年ほどの売上分析から認識されたという。一人で食べるのではなく、誰かと一緒に食べることで体験が強化される。誰かと一緒に食べた結果、「予想以上に美味しかった」といった体験が実現される。こうした体験ニーズが如実に数値で出てきたとのこと。

一例として「Zoomen」を挙げてくれた。Instagramのハッシュタグに投稿されたらしいが、遠隔に住む恋人同士が、Zoom越しにRamen Heroを楽しむ共有体験が発信されたとのこと。

美味しいと感じる要素の2〜3割は食品そのものの味であるという。残りは視覚や聴覚が占める。これまでRamen Heroはハイクオリティを重視して、2〜3割の味を極めてきた。残りを強化するフェーズで鍵となるのが「共有体験」なのだ。長谷川氏は次のように総括する。

長谷川氏:UberやAirbnbが登場した際、誰もそんなモノは使わないだろうと言われました。しかし、今となっては誰もそれらがなかった頃には戻れないほどに生活に定着しています。同じくグルメフードも、以前は外で食べるものという認識が大半だったと思いますが、今後は自宅でも食べるものという認識に変わってくるはずです。

コロナの影響で外食産業がひどく落ち込んでいますが、レストランでの食事体験は確実に人々が求めるもので、いずれは戻ってくるでしょう。同時に、コロナ禍で浸透した自宅でグルメを楽しむという体験も、今後当たり前の消費行動として定着していくと踏んでいます。Specialty Foodの自宅体験は不可逆的なものとして市場に浸透し、成長市場になるはずです。

米国No.1の「日本食EC」を目指して

画像提供:Ramen Hero

最後にRamen Heroが目指すビジョンについて尋ねたところ、その答えとして「日本食のプラットフォーム」という回答を得た。真意はなんなのだろうか。

長谷川氏:基本的に食に関する事業は、多額の初期投資が必要となります。受注から配送までの一連の業務プロセス、フルフィルメントを0から立ち上げるのは至難です。特に食となれば、特別な知識や倉庫管理能力が問われます。専門家と協業する目利きをする必要も出てきます。

この点、Ramen Heroはハワイとアラスカ州を除いた全米48州への販路を開拓済みです。その上で、私たちが持つ食の販路に相乗りしたい事業者が多くいることを確認しました。すでに何社かのラーメンブランド商品を卸したいというお話があり、計画を動かそうと思っています。

高品質な日本食を届けたい事業者と一緒に市場を盛り上げるため、私たちの持つ販路を共有し、インフラとして使ってもらう「日本食のプラットフォーム」を戦略ビジョンとして掲げています。まさに日本食版のAmazonマーケットプレイスのように、Ramen Heroの販路に相乗りして食品展開できる考えです。

確かに多くの日系食品企業が北米に参入しているが、彼らはクローズドに販路を開拓していて他社が乗り込む余地はない。そこでRamen Heroは日本企業が独自に開拓してきた食販路をあえてオープンにし、掲げる「ハイクオリティな日本食」を提供する事業者が参加できるようにしようというのだ。

この考えに至ったきっかけはRamen Heroが運営するFacebook Groupであったという。新作ラーメンの写真を載せてフィードバックを求めた際、ラーメンではなく赤い有田焼の日本製丼に対して、「その丼かっこいいね、欲しい!」というコメントがあったそうだ。ただ、教えたECサイトは日本語仕様であり、米国まで国際輸送で購入するのは難しい。

そこで彼は自社ラーメンでなく、関連グッズ、広くは美味しい他店のラーメンに対しても同じく高いニーズがあると仮説を立てた。もちろんRamen Heroのコアファンであるため、自社ラーメンへの要望が著しく高いのは言うまでもないが、元々日本食全般を好む人が多くいるため、顧客のニーズ全般を取り込めば面白いのではないかとアイデアに至ったのだ。今後は食器や調味料などの周辺商材も売る予定という話だった。

画像提供:Ramen Hero

社名に「Ramen」とあることから、ラーメンECの専門業社に思えるがそこだけで終わらない。ラーメンからはじめて、高品質な日本食ブランドのプラットフォームにまでサービス昇華を狙っていく戦略を描いている。

一時、シリコンバレーでは「Distruption – 破壊」の言葉が踊り、大手企業等が寡占する市場構造を変えることが正義であるとされていた。しかし、昨今では「Empowerment – 自信・力を与えること」がトレンドワードとして意識されている。

あらゆる業界でSaaS化が進み、サービスがありふれてきた既存市場では競合優位性を磨き上げるのではなく、業者同士を束ねて協力して盛り上げていく志向が求められるようになった。Ramen Heroもこの流れに乗り、米国市場に興味のある食ブランドを誘致し、自らのフルフィルメントを自社だけで抱えるだけでなく、共有することで一緒に市場開拓する路線を採ろうとしている。

それもこれも、長谷川氏が掲げるミッション「顧客にとってのDestination(行き先)になる」に帰結する。全米への販路を拓き、オーダーも十分にさばけるようになった。全ては顧客のために、ラーメンだけでは終わらない一大戦略が動き出す算段だ。

最後に余談を話そう。サンフランシスコの一緒のシェアハウスに筆者が長谷川氏と住んでいた時(Anyplaceの内藤氏もいた)、同氏が日本の香川県へ急に飛んだのがたしか5年ほど前だった。お客として住み込んでいた筆者が、主人不在のハウスを付きっきりで面倒を見ており、帰ってきてから突然ラーメン学校へ行っていた真相を聞いて驚いたのを昨日のことのように憶えている。

その時は何をしたいのかわからなった。

当時はハウスメンバー誰もが起業を志していたが、ラーメンというドオフライン事業はリスクが大きすぎる印象で、まず嫌厭するテーマだった。シリコンバレー界隈にいた周りの人たちも同じ感想だっただろう。

月日は経ち、厳しい海外市場で生き残り、そして成長しているRamen Heroの記事を書いているのは感慨深い。大きな課題が明確にあるのが米国のラーメン市場であるが、なにより自分が心底熱心に、そして好きが続くモノであれば結果が形となることを学んだ。たとえ起業の教科書に反するようなテーマでも、愚直に続ければ形となる好例がRamen Heroだ。これこそが起業の本質なのかもしれない、と。

5年・10年後には日本食ブランドはどうなっているのか。想像するだけで心が躍る。

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