出資した地元VC2人に聞いた、カード型チャットツール「postalk」の可能性【ゲスト寄稿】

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本稿は、postalk のオウンドメディア「postalk park」に掲載予定のコンテンツを、BRIDGE が独自に編集したものです。写真はいずれも、越智達也氏による撮影。記事構成の都合上、編集部で一部トリミングしました。

工事中の「Fukuoka Growth Next(旧大名小学校)」前で。
左から:FGN ABBALab ファンド担当の室井信人氏、postalk 代表取締役 川野洋平氏、ドーガン・ベータ取締役パートナー渡辺麗斗氏

外部の方をお招きして、お話を伺う postalk park のインタビューシリーズ、今回は、ドーガン・ベータ取締役パートナー渡辺麗斗さんと、FGN ABBALab 室井信人さんです。

postalk は先ごろ、ドーガン・ベータ、FGN ABBALab から合計2,250万円のご出資をいただきました。この数カ月、postalk のリニューアルや新たな機能開発に取り組んできた弊社ですが、投資家視点で postalk はどのように見えているのでしょうか。

渡辺さんと室井さんは、年齢が近いということもあり、普段から親しい間柄です。いろいろなアドバイスをいただくのですが、親しい分、なかなか本音で語り合うという機会はありませんでした。

今回は、自然と本音でお互いのことについて話せた貴重な鼎談になりました。一緒に頑張っていく仲間として心強いです。ぜひ、よかったら読んでみてください。


postalk への投資に踏み切ろうと思った理由

川野:

後々いろんな方向に話を広げていきたいのですが、まずは、なぜ postalk に出資を決めてくれたのかというところからお聞きしましょう。

室井

postalk のアナログ版というか原形というか、模造紙に付箋を貼ってアイデアを昇華させていく手法って、ずっと昔からありますよね。postalk はそれをクラウド上でやるわけだから、当然今の時代の流れとは一致しているわけで、こういった知的生産の取り組みが消えることはないだろうと思いました。

つまり、postalk にはプロダクトとしての可能性があると思った。

あとは、川野くんが「THE 起業家」という感じで、イズムと安心感があったかな。建築やアート、テックまで幅広く研究していて、広い範囲の特定のものに対しての探究心がある人だなと思っていて、「この人は絶対ものづくりができる人だな」という確信めいたものもありました。

美学を持った起業家には安心して投資ができると思うんですよ。

川野

そんな風に見てもらっていたなんてとてもうれしい。

渡辺

うちの社内は、議論になりましたよ。「postalk、本当に大丈夫なの?」って(笑)。

僕自身は、川野さんから社会に対してどういう活動や貢献をしていきたいのかっていう展望についてずっと聞いていたし、その点は問題ないかなとは思っていました。ただやっぱり投資をするとなると良い会社に成長できそうかという点はシビアに見ていて。

ちゃんと利益を出して、自走できる会社になるか、売り上げを立てていけるのかと。

室井さんが言う経営者のマインドも魅力の1つだったけど、やっぱりプロダクトの魅力が大きいのが決め手でした。実際、社内でも postalk を使っていたのでサービスの良さは重々わかっていたんですよね。

だったらこれからの成長は自分たちも株主として関わりながら手伝っていけばいいじゃんと。

FGN ABBALab ファンド担当の室井信人氏

資金調達が必要だと感じたきっかけ

渡辺

逆に、これまで postalk は長年出資を受けない方向で来たような印象があるけど、どうして今回は資金調達に踏み切ったんですか?

川野

僕は以前に会社を1度売却した経験があって、それはそれで良い判断だったとは思っているけど、社会に与える影響についてずっと考えてきたんですよ。売却から5年経って、「本当に正しい経営って何だろう」「ユーザにとって何か良い功績を残せたのか」「社会に影響を与えられたのか」みたいなことを悶々と。

それで、以前は投資を受ける必要なんてないと思っていたけど、postalk のリニューアルをしたあたりから少しずつ変わってきたんだと思う。postalk で勝負すべきだって腹が決まったというか。

あるあるかもしれないけど、受託の仕事である程度まわっていれば、資金調達をしてまで大きな挑戦をする必要はないんですよね。日々の生活には困らず、サービスを運用できるなと。

だけど、アングラからメジャーに行きたいっていう感覚になってきたんだと思う。

渡辺

なるほど、アングラからメジャーに。

正直、以前は少し焦りがあるなと感じてました。良いツールなのは間違いないけど、ややもすると「好きな人が好きなだけ」という製品になる可能性もあったわけで。僕も最初の頃は投資対象としては見ていなかったし、実際、ドネーションウェアとしてやっていく選択肢もありましたよね。もちろん、そういうツールとなることが悪いわけではないし、良いプロダクトでもあまり多くの人に使われていないツールもありますから。

だけど、最近の postalk には、多くの人に使われるものだという思想が出てきたなと感じていた。

室井

なんでそんな風に心構えが変わったんだろうね。

川野

資金調達の話をしていく数カ月前ぐらいから「考えていることとやりたいことが違うのかも」みたいな自分の本心に気づきはじめたのかもしれない。

ユーザのフィードバックをもらって少しずつ意識が変わってきたり、何より平間さんが父親になったっていうのも大きかったかな。保険証の発行手続きとかしているうちに、事業も子どもも育てていかなくちゃみたいな自覚が芽生えて。

丸くなったのかな(笑)。より自分たちの仕事にきちんと責任を持ちたいって思えたんだと思う。

渡辺

それめちゃくちゃ良い話じゃん。

ドーガン・ベータ取締役パートナー渡辺麗斗氏

投資家は起業家のストーリーを見ている

川野

2人が投資家として、投資を決めるポイントって、どんなところ?

室井

最初の頃は、事業計画を見て決めようとしていたけど、途中から変わってきたかな。今は、会って話してみて言語化できないような人柄に触れて投資したいと思えるかどうか、感覚を大事にしているかも。数字の積み重ねで動くこともあるにはあるんだけど、シード投資の場面では、数値計画はあまり意味がないと思える例もあるから。

投資家って、コンサルみたいに話を聞いてあげることもあるし、同行営業もするし、「会計士さんを誰に任せる?」みたいな相談をされて紹介をすることもあるし、事務所の引っ越しを手伝ったりとか、いろんなことをするんだよね。

いわばパートナーになるのと同義。だから、数字だけでなく、経営者の考え方やストーリーに共感できるかどうかって大事だと思う。

渡辺

僕がこの世界に入った頃は、グループ会社の一部だったこともあって再生投資もベンチャー投資も同じテーブルで議論をしていたんですよね。

良い会社を見つけたと思って社内でプレゼンしても、満場一致じゃないとダメで、「投資先の社長が逃げたら、代わりに社長になる覚悟はあるのか」と問われたりとか。僕らは起業家を信じているから逃げるなんて想定していないけど、「やります」と答えたりしてました。

実際にそうなったケースはないんだけど、「自分がもし社長をするとしても投資できるか?」という思考実験はすごく大事だったなと振り返って感じてます。

最近、ナラティブなんて言葉もよく聞くようになったけど、起業家自身がどんな景色が見たいのか、今こういう課題を抱えている市場が今後こうなったら良いよねみたいな市場への眼差しがある起業家を応援したいなと思うかな。

そして、そういう経営者ってなかなか出会えないから、投資の実行は年に数件ぐらいになっちゃいますね。2021年上半期の新規投資は postalk を含めて3件だけど、全部旧知の人でした。やっぱり人となりを知って、その人がどう歩んできたか、目標がぶれていないかとかがわかるまでには時間がかかるなと。それと、個人的な思いとして、この人たちがいずれ福岡や九州のために投資してくれるようになるだろうかという視点でも見ていたり。

10年を振り返ると、常に社外と仲良くなって、社内で戦うという感じでしたね。

室井

社内の調整に時間がかかるのもすごくわかります。

与信や現時点のマーケットとかのファクトを見て判断する銀行と比べて、ベンチャーキャピタルは、そもそもマーケットがなかったり、同じようなことをやっている企業も見当たらないようなところにも投資をするから、ファクトの分析よりも先を見通す想像力が大切だったりしますよね。

簡単ではないけど、これから誕生する、あるいは伸びていくマーケットで一番手を取りに行けるポテンシャルがある会社に投資できるのがベンチャーキャピタル、特にシード投資の醍醐味だとは思う。

初期にリスクをとって投資することが許されるなら、3年後ぐらいに動き始めるようなところに投資をしてもいい。postalk も4〜5年後にはマーケットが追いついて来ているんじゃないかなという気がしています。

川野

ドーガン・ベータの考える金融の地産地消と、FGN の創業支援は近い考えなのかもしれないね。

室井

今の課題点でいうと、そこにあと少し足りていないのがエンジェル投資家の数かもしれないけど、FGN が地産地消の拠点になれたら良いですね。理想としては、起業経験と EXIT 経験の両方があって、EXIT で資金を得た人がまた若手に投資をするような創業支援の輪をつくっていきたいんですよね。

渡辺

新しい産業が生まれたり、生まれた富からまた新しい産業を生み出せるのが理想ですよね。

今はまだ思いがある人達によってスタートアップの世界がまわっている状況で、お金であったり人材であったりが自然と次の世代に循環していかないと自律的なエコシステムとしては厳しい。

室井

自然にまわっていくようなガソリンがないと本当キツいですよね。

特に地方では、まだスタートアップ投資が一定のリターンを見込めるアセットクラスとして認知されておらず、CSR(Corporate Social Responsibility)の一環とか、地域貢献という目的でスタートアップへの投資を始める企業が多い印象ですね。こういった「思いのあるお金」でまわっているのはありがたい話ではあるけど、「これをやれば回収できる」っていうトラックレコード(過去の実績)を僕らがつくっていかないと、今の感覚じゃリスクマネーがまわっていくのは難しいはず。

投資家視点で期待するこれからの postalk

渡辺

ずいぶん話が広がってしまったけど、postalk の今後には期待をしています。

まずはツールとしての可能性を突き詰めていってほしい。最近は、プライシングについてボードをバラ売りするプランを打ち出したよね。

川野

そうそう、あれは渡辺くんと話している時にアドバイスをもらって実践した(笑)。

渡辺

まさか、本当にやると思っていなかったから結構びっくりした(笑)。

いきなり売上が伸びるプロダクトにならない可能性もあるけど、それも postalk らしさかなって気も。急激には広がらないかもしれないけど、熱量が高まるような仕組みをつくっていきたいよね。愛されるツールになっていかないと。

川野

渡辺くんに言われて、1カ月ぐらい考えた。どのくらい売らないといけないなとか、ユーザはこれぐらい必要だなとか。

でも最後は、おもしろそうということで決めました。postalk は文房具のメタファーを度々用いるのですが、まさにモノに値段が付いている感じがしますから、コンセプトにもあっている。そして、プライシングとサービスの向上って影響し合うから、挑戦する価値ありだなと。

室井

今後、SaaS は定額サブスクから従量課金へって流れもあるから、2〜3年後に世の中がついてくるんじゃないかと思う。

渡辺

こういう意見、貴重だよね。SaaS の次のビジネスモデルなんかも、投資家の方がくわしかったりするからうまく助言をもらいながら良いビジネスモデルに育てていきたいね。

川野

定額にしちゃった方が月の売り上げが見通せるとか組織体系によってはメリットはあるけど、大学なんかだと1度に100人ぐらいの人が使ってくれていたりするから、使いづらそうだったんだよね。

室井

月額1,000円を学生100人に払わせるの?って話になるもんね。

川野

そうそう、本当に広がるプロダクトって、入り口が入りやすくないとみんなが豊かにならないと思う。もちろん、安売りしているつもりはなくて、ちゃんとペイするように考えているし、組織やシチューエーションに合わせた提案をしていけば良いなと考えています。

なかなか投資家の皆さんにここまで深くお話を聞ける機会もないから、とっても貴重な時間でした。お2人ともありがとう! これからもよろしくお願いします!

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