ソフトウェアが店舗を飲み込むーーMicrosoftの小売市場参入報道の衝撃、無人店舗の外販トレンドを紐解く(前編)

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Image by Mike Mozart

<ピックアップ : Exclusive: Microsoft takes aim at Amazon with push for checkout-free retail>

2018年6月14日、イギリスの通信社Reutersが、Microsoftが無人店舗向けの技術開発をおこなっていると報じました。本報道が事実であれば、同じシアトルに本社を構えるAmazonの無人スーパーAmazon Goと直接対峙する構図になります。

2011年に著名投資家マーク・アンドリーセン氏が、“ソフトウェアが世界を飲み込む”と高らかに宣言してから7年。今回の件はまさに「ソフトウェアが実店舗運営を飲み込み始めた」と言える出来事でしょう。

無人店舗分野は中国のBingo Boxやアリババが展開するタオカフェを含めると、すでに大手数社が参入する領域。しかし、こうしたプレイヤーはすでに自社でEコマース・プラットフォーム事業を展開しています。この点、Eコマース事業に参入していないMicrosoftの参入は、ソフトウェア企業が店舗を飲み込むという意味合いにおいて非常に象徴的な出来事といえるでしょう。

今回は、こうした無人店舗のトレンドと、Microsoftの戦略を簡単に考察していきたいと思います。まずは先に米国で市場参入したAmazonの戦略から説明していきます。

Amazonの無人店舗拡大戦略

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Image Credit: Amazon Go

2016年12月、Amazonは自社従業員向け限定に無人店舗Amazon Goをβローンチをしました。足掛け約1年をかけた2018年1月、一般顧客向けにオープンを果たしています。

顧客側にとっての利用手順は次のようなものです。専用アプリをダウンロードしたのち、アプリ上に表示されるQRコードを、バーコードリーダーに読み取らせることで入店できます。入店した時点で、顧客の既存Amazonアカウントと、Amazon Go専用のアプリのデータベースが紐付けらています。決済情報と個人情報をリンクさせることが目的です。

店内には無数のカメラが設置されており、各顧客がどの商品をカゴに入れたのか、もしくは戻したのかをリアルタイムでトラッキング。出店時には商品を手にして店を後にするだけ。出店後、登録してある決済先に自動で購入代金が請求されます。レジを通す必要がありません

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Image Credit: Amazon Go

Amazonにとって、Amazon Goの展開を通じて得られる最も大きなメリットは、パーソナライズ化の精度を上げられる点です。

オフラインにおける顧客データの収集チャネルを開拓したことで、実店舗でしか得られない購買趣向データをAmazon Marketplaceのレコメンド機能へ活かすことができます。

Amazon Goで、どの商品を好んで買うのか、もしくは一度商品カゴに入れておきながら戻した商品情報など、ほぼ全てが店舗内カメラでトラッキングされていると考えてよいでしょう。こうしたオフラインで得られる顧客の行動データを活かし、オンラインにおける商品提案の精度を高められます。

将来的には、Amazon Marketplaceだけでなく、Amazon Goの購買体験にオいてもレコメンド機能が活用されるようになると考えられます。たとえば、各顧客の位置情報を常にトラッキンし、ある顧客が好きそうな商品が置かれている棚に近づいたらアラートやクーポン情報を飛ばす仕組みが考えられます。実際、著名VC。Sequioa Capitalが投資した、ユーザーの位置情報を活用してクーポン情報を飛ばすサービスShopularなどがこの分野に登場しています。

現段階で、どの程度Amazon Marketplaceのレコメンド機能へ顧客データが反映されているのか不明ですが、販売チャネルを問わず徹底したパーソナライズ化を追求できる仕組みを構築した小売戦略は高く評価されるでしょう。

Recodeの記事によると、2018年内にはサンフランシスコやシカゴを含め、新たに全米6カ所にAmazon Goを開店する予定であるといいます。オフラインで得られる顧客データの収集拠点が増えれば、より多くのAmazon Marketplaceの利用客に対してパーソナライズ提案できるようになるでしょう。

Microsoftが狙う、クラウドサービスAzureの拡大

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緻密に練られた小売戦略や、画像認識技術などのテクノロジーに基づき、圧倒的なスピード感でAmazon Goの出店速度を早めるAmazon。

Recodeの記事では、いずれは無人店舗の仕組みをそのまま外販してさらに出店規模を早めると指摘しています。筆者もこの予測に関しては賛同します。

Amazon Go拡大の目的に顧客データの収集があると考えれば、たとえ外販によって得られる利益と無人店舗を設置するコストが釣り合わずとも積極的に出店数を増やすでしょう。損失を考えずに、あらゆる分野に積極投資をする企業文化を持つAmazonにとっては当然の戦略ともいえるかもしれません。

それでは、Microsoftの勝ち筋はどこにあるのでしょうか?少し長くなったので後半で考察を続けます。(後半に続く)

via Reuters

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