シンガポールにおける「フィンテック+AI」市場カオスマップ

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東南アジアにおいてシンガポールはフィンテックハブとなっている。また、近年ビックデータを駆使して金融業界で大きな変革が起きている。

Vertex Ventures はシンガポールの「フィンテック + AI」領域が東南アジア地域のスタートアップ業界の成長エンジンとして働き、シンガポールのスタートアップをさらに成長させると信じている。

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Photo credit: Lenny K Photography

フィンテック + AIの定義

フィンテック + AI スタートアップの境界を定義することは容易ではない。分布図として見た場合、両端にはスタートアップの2つのタイプがある。一方にはAI特化型スタートアップがあり、金融機関(FI)がAI企業へと変わることを手助けすべく、技術やサービスを提供することに注力している。反対の非AI特化型スタートアップはAIの力とビジネスモデルのイノベーションを組み合わせ、伝統的なFIと正面から競合している。

私たちはAIはどのようにFIの手助けができるのか、どのようにFIと競合しているスタートアップの力になれるのかを理解するために分布図全体を見てきた。一般的にスタートアップはいくつかのカテゴリに分類することができる。

  1. 「アルファ(群のリーダー)」の地位を達成しようと注力する者(市場平均以上の利益を求める企業)
  2. レンディングサービス企業(アルファ達成と似ているが、レンディング分野におけるもの)
  3. 「ベータ(群の2番手)」の地位を達成しようとする者(少なくとも市場の平均的な利益を獲得し、パーソナライゼーションを手助けする一般的な企業)
  4. リスク管理を行う企業(規制やコンプライアンス関連のスタートアップ)
  5. 上記企業を手助けすることができる一般的なテックスタートアップ
  6. 顧客管理やマーケティング支援を行う分野(これら企業の定義は抽象的であるため最後にまとめた)

シンガポールにおけるフィンテック + AI の概観

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Photo credit: Vertex Ventures

これまでの私たちのリサーチに基づくと、AI特化型企業からそうでない企業まで、およそ40社のフィンテック+AIスタートアップが存在する。分かりやすくするために、これらの企業は以下の分野にカテゴリ分けすることができる。

  • パーソナルファイナンス:特にロボアドバイザーのカテゴリは、最も成長性のある分野として最初に挙げられる。これは東南アジア地域のフィンテックハブであり世界でトップクラスの金融センターでもあるというシンガポールのポジションに関連している。これは発展したシンガポール市場にとってチャンスであるが、多くの新興市場では人々が資産管理という概念を理解するのには時間がかかるため、サービス受け入れは未だ初期段階にとどまっている。適切な市場啓蒙の方法を見出し、新興市場の大衆を巻き込めれば、非常に大きなチャンスが訪れるだろう。
  • 規制、コンプライアンス、詐欺検知:これは2番目に活発なカテゴリとして挙げられる。規制へのコンプライアンス、特にマネーロンダリングに関するものは、シンガポールにおいて常にトップの懸念事項であるためだ。AIを活用して正確性を向上させると同時にコンプライアンスのコストを下げるということは、当然ながら優先順位が高くなる。今後は金融機関によって異なるニーズに合わせたカスタマイズに対処することが主要課題となる。
  • 予測分析:一般的なカテゴリとして、この分野が3番目に挙げられる。シンガポールは強力なテック人材の宝庫であり、金融機関やその他の産業分野の役に立つ潜在的に大きなチャンスがあるということを反映している。
  • クレジットスコアリング・貸付:中小企業への貸付けは2016年からシンガポールで大きな注目を集めているが、消費者金融は未だ急成長を見せていない。この分野は他のASEAN諸国では狂騒的な様相を呈しており、特にインドネシアでは2018年のレンディングのプレイヤー数が数百社を超えている。しかしシンガポールでは銀行業や貸付業のシステムが確立されていることや、強力な規制があることを考えれば、これが小さなカテゴリに留まっていることも不思議ではない。多くの人はシンガポールで消費者金融を規制しているのが財務省ではなく法務省であることにも気づいていないだろう。この分野の規制が緩和されたのはつい最近のことであり、これからの成長が期待される。
  • アセットマネジメント:直接的なリターンを生み出すという点で、おそらく多くの人にとって最も興味深い分野だと思われるが、(ウォールストリートの企業が数十億ドルを投資していることからも見て取れるように)最も理解が難しい分野でもある。現地のデータへアクセスするという点でこの地域のスタートアップには分があるため、民間の資産分野は興味深い領域だと私は考えている。

以上はシンガポールにおけるフィンテック + AI の概観に当たるものである。市場を完璧に表したものではなく、欠けているスタートアップについての提言やコメントは歓迎したい。

東南アジア地域のフィンテック+AIのリーダーとしてのシンガポール

シンガポールにはフィンテック + AI の発展において有利なものとなる点が多数ある。金融分野の重要性、ディープフィンテック人材の数、そして AI クオリティ向上とクラスタを作り上げようとする重大な取り組みである。

さらに、シンガポールの監督官庁であるシンガポール金融管理局(MAS)は、業界の発展を進めるという点で非常にオープンな意識を持ち、積極的なアプローチをとっている。同局はイノベーションを進んで受け入れ、金融機関が様々なテクノロジーのパイロット版を試すことができるようファンドを立ち上げ、リスクを取るという意識を奨励している。

MASはリスクが高すぎると見なした場合にのみ介入する。同局は特定の重要な AI 研究を進める取り組みも行っており、金融業界が自身のインフラを開放するよう奨励しているが、この点はまだ重要課題として残っている。

Vertex Ventures はこの分野におけるスタートアップの質と多様性に非常に感銘を受けている。オープンバンキングの発展と来るべき新たなデジタルバンクのライセンス発行が合わさり、シンガポールはフィンテック + AI のイノベーションの世界的なリーダーの一角となる途上にあると考えている。

本稿は当初Mediumで発表された記事を編集したものである。

【via Tech in Asia】 @techinasia

【原文】

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