【ゲスト寄稿】DEMO Asiaレポート:躍進する日本のスタートアップと、アジアとの市場ギャップ

編集部注:このレポートは現在東南アジアでマーケティング活動を実施しているワンオブゼムのメンバー(ちゃど:@chado10)によるものです。2011年1月にスタートアップしたワンオブゼムはAmebaにてフィーチャーフォン向けモバイルゲーム「海の上のカメ農園」を展開し、10月にはグロービス、インフィニティベンチャーズLLPから3億円の調達に成功するなど、そのスピード感ある成長に注目が集まるスタートアップです。


アジア初の DEMO に参加、日本スタートアップの躍進を垣間見る

2月29日〜3月2日の2日間、シンガポールの科学研究拠点の一つ「Biopolis」で、アジアで初めてとなるDEMOイベント「DEMO Asia 2012」が開催された。当初予定されていた昨秋から延期されること約半年、主催者の Singapore Press Holdings のみならず、シンガポールの起業家団体「SG Entrepreneurs」らが運営に協力し、世界14カ国から70社あまりのスタートアップが一同に会する機会となった。

シンガポールにスタートアップが集まるようになった背景には、シンガポール政府が積極的にスタートアップを誘致していることが挙げられるだろう。このことは、基調講演やセッションなどでも強調されていた。

左から、Jeff Clavier(SoftTech VC)、Marc van der Chijs(Tudou.com)、Vinnie Lauria(Lefora)、James Chan(Neoteny Labs)=モデレータ

 

誘致にあたって、シンガポール政府はスタートアップに具体的に何を支援してくれるのだろうか。スピーカーやパネリストらが述べていたことを整理すると、次の4つのポイントになるだろう。

  • 現地パートナーなどを積極的紹介している。
  • 積極的な投資環境を提供している。
  • インキュベーションオフィスなどが多数用意している。
  • Employment Visa(就労ビザ)を取得しやすくしている。

半年前に Tech Venture 2011 に参加したが、そのときと比べて、シンガポールのテックイベントへの日本人の参加率は格段に上がっている。日本からは、Alpha Pitch と Launch をあわせて9つのスタートアップが参加した。

デモブースでPhroniの紹介をする、Studio Ousia のCTO山田育矢氏(右)と平田彩恵氏
  • Alpha Pitch Startup:Coworkify (編注:関連記事)- Startup Weekend Kyoto 2011 Fall 優勝者
  • Launch StartupFilmity(Drempass) – Startup Weekend Tokyo 2011  Fall 優勝者

彼らに、今回シンガポールで開催されたDEMO Asia に参加した理由を尋ねてみたところ、概ね次のような回答が返ってきた。

  1. 【機会】パートナー、VC、エンジェルを探している。
  2. 【時間】サービスのローンチと、DEMO Asia のタイミングが偶然にも重なった。
  3. 【距離】シリコンバレーなど他の場所に比べ、来訪しやすかった。
  4. 【環境】アメリカなどに比べて、シンガポールは就労ビザが取得しやすい。拠点開拓に展望が開ける。
  5. 【調査】シンガポールを拠点に、アジア全域や国際市場のリサーチができると考えた。

日本のスタートアップが体感した、アジア市場との〝ギャップ〟

ところで、日本のスタートアップが日本に居て持つアジアのテック市場に対する印象と、今回のようにシンガポールにやって来て体感する実際の印象には、大きなギャップがあるようだ。そのギャップの多くは、アジアのテック市場が日本で期待感を持って見られているほど、盛り上がるには至っていない、ということだ。

もちろん市場としての可能性は絶大なものがあるが、特にBtoCのサービスに限って述べれば、現時点でマネタイズできるサービスがほとんど存在しない。今回の DEMO Asia で披露されたサービスでも、マネタイズまで熟慮されたものはほとんど存在しなかった。

また、アジア市場でサービスを展開するには、各国で宗教、思考、経済状況などが異なるため、どのようにアプローチするのがよいか市場調査が大変に重要になる。インドやインドネシアではモバイルによるアクセスが多数を占め、他方、ベトナムではPCによるアクセスが多いなどの例は、アジアのテック市場の説明でよく引用される。

日本でスタートアップをしている人ならば、程度はともかく、恒常的に日本の市場に対する分析が出来ているだろうが、同じことがアジアの市場には当てはまらない。テック市場は各国の経済状況と密接にリンクしており、アジアでは、マネタイズが出来ていない状態からBtoCのスタートアップを立ち上げることは非常に困難である。現に、日本のように若い学生が始めるスタートアップは、シンガポールでほとんど見られない。

海外からシンガポールでに来て展開しているBtoCサービスの多くは、

  • 大手企業が数年後の展開に備えて、市場調査のために始める
  • 大手企業が人件費のギャップを使って、開発拠点を作る
  • スタートアップがシリーズで投資を受け、数年後の展開に備える
  • スタートアップが東南アジア以外の市場(北米や中国)に向けてサービスをローンチする

・・・などが一般的である。

もちろん例外もあるが、シンガポールにやってくるスタートアップは、自分達がどのセグメントで勝負するのか考えてみるのもいいかもしれない。今回は惜しくも、DEMO Asia のファイナリストに日本のスタートアップは名を連ねることが出来なかったが、回数を重ねるに連れ、より多くのアントレプレナーがシンガポールに集うだろうし、日本の多くのスタートアップに力量を披露してもらいたい。

最後に今回のDEMO Asiaで最も盛り上がりを見せた、ファイナリストを動画で紹介したい。物体が衝突したときのショックを和らげるパッド「Sofshell」だ。ホームページ(工事中)Facebook ファンページはこちら。(編注:Tech in Asia(旧:Penn Olson)には、Sofshell について Vanessa Tan の寄稿がある。)

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