リーン・スタートアップが機能しないワケ

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【原文】

このゲスト記事は Lobangclub の共同創業者であるGuyi Shenによるもので、Guyi は insidestartup.sg に彼の経験を綴っている。(池田注:Guyi Shen は、昨秋、シンガポールで行った Asiajin の 読者ミートアップ にも足を運んでくれていた。)


訳注:文中に頻出する、network effects を「ネットワーク効果」と訳した。ネットワーク効果(またはネットワーク外部性)とは、同じサービスを使うユーザが多ければ多いほど、そのサービスから得られるメリットが高まることを言う。例えば、世界に電話が1台しか存在しなければ、その電話は機能しない。電話のユーザが多いほど、電話のユーザが得られるメリットは高まる。本稿では、ユーザが多いほど価値が高まるサービスを、「ネットワーク効果型スタートアップ(原文:network effects start-up)」と訳した。


Echelon 2011のサイトに載っている52の出展者に目を通すと、多くのスタートアップがプロダクトの成長をネットワーク効果に頼っていることに気付くだろう。

現在のスタートアップ・コミュニティ(少なくともシンガポールでは)のミームでは、「リーン(贅肉の無い、転じて、必要以上のコストをかけない)」のスタートアップというコンセプトだ。不幸にも現在の「リーン」アプローチはネットワーク効果に頼るスタートアップにはうまく機能していない。

リーンは、完成したプロダクト(サービス)を世に出す前にマーケットにフィットするかを検証するため、ビジネスアイデアの仮定と仮説を繰り返すテスト手法である。この手法が人気なのは、プロダクト開発とマーケティングのリスク回避を約束し、ビジネスがスケールするために十分な資金を集められるからだ。

リーンする

Eric Ries, Credit: Bootstrappedstartups

リーンの哲学は素晴らしい。しかしながら、実際にはネットワーク効果型スタートアップにおいては、それが大いに欠けている。

多くの場合、ユーザ獲得のフェーズ(例えば、スケーリング)は、プロダクトがマーケットにフィットした後に見られるからである。私の意見では、スケーリングはプロダクトをマーケットにフィットさせる前になされるべきだ。

Eric Ries(コンサルタント兼作家) がリーンという表現を作り出したが、リーンの生みの親は Steve Blank(シリコンバレーで、スタートアップ8社を手がけた起業家)であり、「リーン」のマニフェストは彼の著作「アントレプレナーの教科書(原題:Four Steps to Epiphany)」である。

リーンの哲学は、科学的手法である仮説生成(クリエイティブな手法)と、仮定を排除する実験(ロジカルな手法)を用いて説明される。プロダクトの開発のためのリーンの多くは、非ネットワーク効果型のソフトウェアに従事する起業家によって実践されてきた。

現在のリーンの方法論における思想的指導者は、Steve Blank、 Ash Maurya(テキサス州・オースティンで、ビデオ・写真共有スタートアップ WiredReach を経営する起業家)、37 Signals(シカゴのプロジェクト管理ASP)とEric Riesである。しかし、現在の多くのリーン・スタートアップに関する議論は、ネットワーク効果型のプロダクトに特有のチャレンジ手法を、明らかに無視したものとなっている。

ネットワーク効果型スタートアップ 対 非ネットワーク効果型スタートアップ

ネットワーク効果型のスタートアップと、そうでないスタートアップの間には根本的な違いがあるのに、わざわざ説明するまでもなく、企業向けのソフトウェアに役立つ知恵を、個人向けサービスを提供するネットワーク効果型スタートアップにあてはめようとする傾向が見受けられる。皮肉にも、この分野における革新的先駆者 Eric Ries 自身、ネットワーク効果型スタートアップIMVU(アバター・コミュニティ)のCTOだったのだ。

さらに具体的に、話をリーンの重要な部分である、ユーザ開拓にフォーカスしてみよう。まず、客が抱える問題について潜在する仮説を検証し、ソリューション、ビジネスモデル、あるいは、あなた自身は、人が使ってくれそうなプロダクトを作り上げることを前提とする。

これは素晴らしい前提だが、すべてのリーン・コミュニティで、流行となっている研究、方法、実践は、強いネットワーク効果を必要としない企業向け/個人向けプロダクトを対象にしたものだ。基本的に異なるのは、ネットワーク効果型スタートアップでは、ネットワーク効果が得られてから、ユーザがその価値の多くを享受できるということだ。だから、プロダクト価値の重要部分は、ユーザのクリティカル・マスを獲得した後でなければ、検証できない。

ネットワーク効果型プロダクトの価値

基本的には、ネットワーク効果型スタートアップのユーザ価値は、クリティカル・マスの獲得によって効果は何倍にもなる(Facebook 上にユーザがあなたしかいなければ、それはどれほど役に立つだろうか)。これらの指摘からもわかるように、ネットワーク効果型スタートアップにとって、リーンのあらゆる局面でクリティカル・マスのことを強く意識する必要がある。

何よりも、まずは「リーン・スケーリング(リーン・スタートアップにあたり、ユーザを獲得すること)」を解決する必要があるわけだ。

実用的なプロダクトを作る前に、ユーザを獲得するのが先決だ。このことに関して、Sean Ellis(みんなで、おすすめアプリやサービスの情報を共有するサイト CatchFree の創業者) はリーン・スタートアップ L.A.(ロサンゼルスのリーン・スタートアップ・イベント)で、初めて言及した人物だ。プロダクトをマーケットにフィットさせてからスケーリングするのではなく、スケーリングしてからプロダクトをマーケットにフィットさせるべきなのだ。

PayPal はこの手法を取った典型であり、初年度に何千万ドルもの予算を使って、プロダクトをマーケットにフィットさせる前にユーザを獲得した。Airbnb(宿泊先お薦めサイト)は巨大化をめざし、Craigslistからスパムを排除した。MySpace は、メール、広告、パーティーに巨額を投じ、YouTube では多数の賞を出して、ビデオアップローダーを増やした。Facebook だけは例外で、彼らがやってしまった些細な悪だくみ(データ収集やスパムメール)はともかくとして、多額の資金を使わずにユーザ獲得し、成長することができた。

では、あなたのスタートアップが Facebook でもなく、ユーザ獲得のためのお金も無い場合、プロダクトがマーケットにフィットするかどうかを検証する前に、何をすべきだろうか?

問題

シンガポール発のネットワーク効果型スタートアップを作る上での問題へようこそ。リーンを実践する前に、もっと基本的な問題を解決する必要がある。資金もなく、マーケットへのフィットも不十分な状態でのスケーリング、仮にこれを「リーン・スケーリング」と呼ぼう。自らの仮説を検証するために、どうやってビジネスをスケールさせればよいのだろうか。(無料、もしくは、コストをかけずに)

我々が現在実験している事例を、いくつか紹介する。

なるべく絞り込んだセグメンテーションを行う。顧客獲得のために資金を使うのは仕方ないことだが、セグメンテーションを絞り込むことで、かなりターゲットされたセグメントに対して顧客獲得に要する費用をコントロールすることができる。地理的セグメンテーションとは、シンガポールだけを対象とするようなことを言う。

統計的セグメンテーションとは、特定のユーザ層を対象とすることを言う。セグメンテーションを絞り込むことによるもう一つの効用は、仮説の検証によって特定のセグメントを排除できれば、次に新しいセグメントに対しての検証が始められること。これはもちろん、すべてをリーンの状態にして進められるだけのリソースがある場合の話だが。

2つの橋を同時につくり、願わくば、それを真ん中でうまくつなげる。我々のケースで言えば、マーケットの一方について仮定を検証するために、そのマーケットの他方でもシミュレーションをどのように行うかを書いたことがある。それについては、ここに詳細がある。

バズ効果を生む。顧客獲得にはお金がかかるが、バズ効果を生むことで安く済ませることができる。私はゲスト投稿して、その文中には iPhone アプリのベータ版への登録を促すように書いた。これまで、かなり絞り込んだセグメントに対して、小さなバズを生む実験をしてきた。

私はプロダクトを開発する上で、リーン的なアプローチを心底評価している。しかし、現在の議論の多くは、強いネットワーク効果を必要としないプロダクトのケーススタディに集中している。プロダクトを楽しんでもらう前に、多人数のユーザベースを必要とするスタートアップにとって、リーン・スタートアップのコンセプトは、うまく機能しないかもしれない。

【via PennOlson】(@pennolson)

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