ソーシャルゲームが売るものは何かー3つのキーワードでみる「次のビジネス」

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10/3:国光さんからメッセージ頂きましたので追記いたしました。

起業家の視点シリーズは不定期連載です。起業家にスポットをあて、インタビューを通してサービスに役立つヒントをいくつかの視点にまとめます。初回の起業家は現在ソーシャルゲームプロバイダーとして活躍中の株式会社gumi代表取締役の国光宏尚氏です。

Kunimitsu 1

国光宏尚(株式会社gumi 代表取締役社長)

1974年生まれ。1995年から中国やチベットなどアジア諸国、北米、中南米などおよそ30カ国を遊学。帰国後、映像制作会社に入り、数々の映像コンテンツを手がける。2007年に独立し、モバイルを中心としたインターネットコンテンツ提供会社を創業。現在はソーシャルゲームの提供をメイン事業として展開中。

国光宏尚という起業家は面白い。同じ関西圏の出身ということもあって、取材をする度に話は脱線、なにを話していたのかも忘れてしまうぐらい話題が多岐にわたる。時に事業、時に起業家論、時に国家論。野球の話は阪神中心。

20代にアジアから北米まで30カ国放浪した彼が今、起業家として取り組んでいるのはソーシャルゲームだ。昨年発表されたGREEからの資金調達を皮切りに福岡オフィスの開設など拡大を続けるgumi。彼の話す次のビジネスに必要な3つのキーワードとは。

スピード感のあるマネタイズを可能にした「今の情報革命」

彗星のごとく出現し、あっというまに推定企業価値$20B(日本円で約1.6兆円程度)に成長したZynga。国光氏の話題はここから始まった。「どうしてたかだか数年で任天堂を抜きさる企業ができるのか?」彼はそこにある理由をシンプルに「情報革命がさらに爆発している、それだけのこと」と語る。売上が倍になってもコストがそこまで上がらない、そういうビジネスが彼らの異常なまでの成長を支えたという。

特に人件費については「ソーシャルゲームに携わる開発メンバーはディレクターやデザイナー、プログラマーのチームで構成されていて、5名から大規模なものでも10名まで。例えば売上げがゼロでも数億稼いでも人数はそんなにかわらない」のが現実だそうだ。

産業革命で製造業が大きく市場を作った時代、売上を倍にしようとすれば当然それにかかるコストも相応に増え、整備に時間も必要だった。情報革命が大きく取り上げられた2000年頃では構造が徐々に変化しつつも、インフラコストが大きくそのメリットを実感しにくかった。しかしそのハードルがさらに引き下がり「凄まじいスピードでマネタイズしながら成長している」企業が出始めたのが今なのだと彼は話す。

人材のグローバル化が本当に起こっている

日本のIT業界をもっと活性化させるためには、エンジニアの流動化が必要だと語る。従来日本の情報系産業は開発受託中心の大手Sirがその中心を担ってきた。しかし状況が安定化してくると当然コスト競争が始まる。相手はー中国やインドを中心とする新興国だ。

国光氏は「IT業界でエンジニアの賃金が二極化しつつある」と話す。「ソーシャルゲームでのヒットタイトルを開発するような人材は国内だけでなくシリコンバレーからもオファーが来る。もちろん賃金は高騰する。一方受託しかやっていない人材はいつしかコスト競争に巻き込まれる」。プロデューサーなどの人材とは違い、開発者は言語による制約を受けにくい。これが彼のいう人材のグローバル化だ。

「特にエンジニアは今の状況をもっと真剣に考えるべき」ー彼はソーシャルゲーム業界のビジネスが回っているから、という理由ではなく、これからのキャリアを考えてエンジニアは行動すべきだと語る。「優秀な人材、特にエンジニアが世界で活躍できる状況が今。だからこそ自分の人生を時間売りではなくクリエイティブな方向に持っていって時代を作ってほしい」。

ソーシャルゲームが売るものは何かー物から感情へと変化する需要を掴め

産業革命期の消費の中心は当然「便利な物」だった。しかし社会が成熟し、物が溢れるといかに需要を作り出すかという視点が必要になってくる。何が個人にとって必要なのか?そしてマスから個へと情報の流通網が整備され「マスで物を大量配布する時代から個人一人一人が欲しいものを提供する時代」(国光氏)へと移っている。

「物だけではない何か」を「個人一人一人の満足する形」で提供する。これが今求められていると彼は語る。そしてソーシャルゲームはその一つの形としてビジネスを回した、というのが彼の考えだ。

「これからは個人の達成感や満足感。みんなに認められたいという自己実現がキーになる。ソーシャルゲームが売ってるものは必要や便利なものじゃなくて自己実現を獲得するためのストーリー」と話す。

物が満ちあふれている成熟した社会ではストーリーやわくわく感が欲しくなる。単に便利な物ではなく、その時、その人にあった感情に訴えかけるストーリーが要求される。それが形ある物であることも、仮想的な物であることも両方ありえる。ソーシャルという新しい情報網を活用し、本当に欲しいというリクエストに応えたプレーヤーが勝者になるという。

最後に

インタビュー中、私は「ソーシャルゲームのもやもや」について何度か彼に投げかけた。物から感情の販売に移った、というのが自分としては答えに近かったが、当然明確な答えはまだ出ていない。過渡期なのだろう。

ただ、彼はそれを直視しながら、やはり大切なのは次を作ることだと話してくれたことには大いに同意している。新しいものが出来るとき、時代が動くとき、必ず軋轢は生まれる。世界を変えるという現実はそういうものなのかもしれない。新しい世界をみたい人は彼と会って話をしてみるといいと思う。

追記:国光氏からさらにメッセージを頂きました

ベルリンの壁崩壊後に急速に進んだグローバル化が、それまで欧米+日本で7億人くらいしかいなかった世界市場を70億人まで広げました。今まさに起こりつつある情報革命は物理コストや時間コストの制約なく一気に、この70億人の市場を舞台にビジネスを広げていっています。これがGoogleやFacebook、Zyngaのような、今までの歴史ではあり得ない程の、急成長を遂げている企業を生んでいる原因なのです。

作り手であるエンジニアも、この70億人の労働者との競争に巻き込まれ、人月ベースでの時間売の仕事をやり続けるのか、70億人をカスタマーとしてみて価値を提供する仕事にまわるのか問われています。産業革命の時代でも、田舎の農地に残り続けた人と、勇気を持って都会でチャレンジした人で大きく未来が変わりました。勇気をもってフロンティアに挑戦するのは今だと思います。

いうまでもなく、我々の社会は経済で回っています。必要なモノを作るだけで売れた時代。マスコミで宣伝すれば売れた時代。そういった時代は過去のモノになりました。ただ、そういった時代でもモノを売ることが出来ないと経済は回りません。「みんなが持っているものを提供する」時代から「あなたが欲しいモノを提供する」時代へ。これは今後ソーシャルゲームに留まることなく、全ての産業で重要なことになってくると思います。「モノが溢れかえり需要が無くなった時代に、モノを売る」そういった挑戦も続けていきたいと思います。

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