【ゲスト寄稿】僕が資金調達をして知った事とスタートアップのこれから[前半]

kota_uemuraこの記事をゲスト寄稿してくれたのは、資金調達を発表したばかりの「ソーシャルランチ」を運営するシンクランチの上村康太さん。食をソーシャルにするというテーマに取り組んだ日本の先駆け的存在。上村さんは京都大学経済学部を卒業後、Google日本法人に新卒入社。2011年8月にGoogleの同期のエンジニアと2名でシンクランチ株式会社を創業し、新しい昼の文化を創る「ソーシャルランチ」を運営している。前半・後半に分けてお届けします。


 

はじめに

はじめまして、シンクランチ株式会社代表取締役副社長の上村康太と申します。この度、Facebookを活用したランチタイムの社外交流を促進する「ソーシャルランチ」を運営する弊社は、約3,200万円の資金調達を日本ベンチャーキャピタル株式会社(京大ベンチャーファンド)、KDDI株式会社、株式会社経営共創基盤の3社を引受先に行いました。昨年8月に起業し、10月にサービスイン、そしてこのタイミングでこれから攻めの姿勢で闘い続けるための資金を得られたことを嬉しく思います。

【リリース】「ソーシャルランチ」運営のシンクランチ、 京大ベンチャーファンド(NVCC)、KDDI株式会社などから約3,200万円の資金調達。 新サービス『ソーシャルランチ大学版』の事前登録開始。

このブログポストはこれから資金調達を行う起業家に向けたものです。実際投資の現場のプロの方にとっては「違うぞ小僧」という点は多々あるかと思いますが、投資を受けた側として感じたことをそのまま書くことに意味があると判断してこれを記します。

このブログポストを書く理由

今年に入って西田さんがTechCrunchに『起業家に告ぐ、TechCrunchにだまされるな』という記事をポストしました。この記事は「面白いサービスを作ればお金は後からついてくる」「どこかが買収してくれるはず」という安易な考えに対する警告であり、起業家へのエールであると僕は認識しています。記事の最後の方に

2012年は昨年シードアクセラレーターが生み出したスタートアップたちが正念場を迎える。それが後続の人たちに繋がるようになってほしいと思っている。そして、このまま起業ブーム(いやブームにすらまだなってないのかもしれないけれど)がもっともっと盛り上がってほしいと思っている。

とあるように、これまで長年スタートアップを追い続け、それを愛している西田さんだからこそ、スタートアップが多く生まれたことを歓迎しながらも、これが一過性のブームに終わることを危惧し、しっかり収益を意識した計画やビジネスの重要性を発信したのではないかと僕は一読者として感じました。

ただ、一方でこの起業家へのエールに対して、「初めからお金を生み出すサービスでないと価値がない」「最近の起業家は皆お遊びだ」という論調がこの記事を発端に今年に入って目立ち始め、スタートアップ達の “攻めの姿勢” を萎縮させ、逆に「安易なマネタイズ」への誤った方向転換をきらせる世の中の流れになることは、新しいビジネスモデルの創出を妨げ、そこそこ受けるサービスの量産になるため好ましくないと思っています。

僕は先日Facebookにこんなポストをしました。

お金は後からついてくる。それは、ターゲットが絞れていて、ターゲットの生活に寄り沿い、持続可能な仕組みが構築されていることが前提です。そう僕らは考えています。戦略的な無料と、希望的観測の無料は全く別のものであるという認識と、どれだけマネタイズの可能性を模索できるか。なんとなくではなく、こうなったらこう出来て、こうなったらこう出来る、とプランを用意し、それぞれの場合において試算を打つ。良く考えたら当たり前のことですよね。だって僕らはビジネスをしているんですから。語弊を恐れず言います。2012年、僕らは儲けます。

ここで書いたように、全てのサービスが初めから収益を上げることが出来る訳ではありません。収益の上げ方に頭を捻り、然るべきタイミングで投下する。そして正しいタイミングで投下するためにそれまでの成長のエンジンとなる資金を第三者から調達する、というスタイルの成功事例は日本でももっと増えて良いと考えています。

僕らは「そのサービスどうマネタイズするの?」と良く聞かれますが、そんなあまりに重要なことは言えるはずがありません。でも「言えません」なんていうと「こいつオレを信頼していないのか」となるので、「色々考えてます」と答えています。お察しの通り、その後に僕らに向けられる眼は、完全に見下されたものです。

スタートアップは、世の中にまだない新しいプロダクトを投入し、そこから収益を上げることを目的とするため、極めて斬新なアイディアとスピードを持って一気に攻めなければなりません。先ほどの “戦略的な無料” が意味するところとは、簡単に「これは儲かる」と分かるとすぐに資金力のある大企業が参入してきて、情勢を一瞬でひっくり返されることになるため、闘うための資金を得て、サービス改良に注力し、収益化のモデルをテストしながら、勝機を狙う、というスタートアップのスタイルはあって然るべきなのではないでしょうか。ただ、もちろんこのスタイルは相当なリスクを伴うということの理解と覚悟が必要なのは確かです。

このブログポストを書くことに正直僕自身にメリットはありませんが、昨年爆発的に生まれたスタートアップの多くが、近いうちに直面する問題であり、それに対して国内で実際に行われた資金調達の生の情報が著しく欠如しているため、実体験によって自分が得た経験値を “シェア” することで、多くのスタートアップが次のステージに進み、共に新しいWEBの世界を創り出してゆければと考えています。

資金調達をして知った7つの事

さて、前置きが長くなりましたが、本題に入ります。

これまで僕らは、創業者2名のサラリーマン時代に貯めた給料から捻出した資本金でサービス運営を行なってきました。そのため、数百万程度の少額投資を受ける必要はなく、今回が初ラウンドでした。

最近では投資意欲が高い、シードアクセラレーターや個人投資家が増え、少額投資には比較的資金調達しやすい、恵まれた環境であると言われていますが、必要な知識や、サポーターを得られないと、せっかく得たピッチのチャンスを無駄にしたり、いざ投資を受けられるように話が進んだ際に投資契約の中身を十分に理解せず、「まあこんなものか」と結んでしまうことで、後々「話が違う」「条件が悪すぎた」となる可能性があります。

資金調達は「おカネちょうだい」「おう、いいよ!」というものではありません。そこで、あくまで1つのサンプルではありますが、今回の自分の体験記と感想を記しておきたいと思います。

【資金調達をして知った事】

1.国内の大手VCは「日本企業」である。

2.個人投資家からの調達には時に慎重でなければならない。

3.投資家プレゼンは徹底的に磨き上げる。

4.事業計画書(財務計画)は5年先まで。

5.バリエーションの判断材料は「過去事例」。

6.投資契約書は佶屈聱牙。

7.プロのサポートは不可欠。

1.国内の大手VCは「日本企業」である。

まず、個人投資家や少人数でファンドを運用しているシードアクセラレーターの投資とは異なり、大企業のVCや事業会社には、日本の大企業的な社内の稟議というものがあるため、決裁権者が最終的に縦に首を振らない限り投資を勝ち取ることは出来ません。そのため、社内で決裁権者である上司に自分たちに投資すべき理由を説明し、説得を行なってくれるVCや事業会社の担当者の方にきちんと思いを伝え「この起業家に投資しよう」と強く思って頂かなければなりません。

後の項目でも書いていることですが、投資家プレゼン極限まで分かりやすくしなければなりません。その理由は、初めにプレゼンを聞く担当者に共感して貰うため、だけでなく、その担当者がその上司である決裁権者に説明を行う時にも共感を生み出すようでなければなりません。

担当者から決裁権者への階層が多ければ多いほどそのスピードは遅くなり、大企業であるほど、プロセスを進める上でのルールや提供を求められる情報が多いことを改めて知りました。

大企業からの投資を受けようとする場合は、その覚悟が必要です。

また、「日本企業」であると書いた意味はもう一つあります。

海外から入ってくる投資にまつわる話は「VCを信じてはいけない」といったようなVCを敵対する内容が目立つように思います。ただ、それは相当な数と量の投資がなされており、スタートアップの競争も熾烈で、VCもシビアな交渉を求めてくるため、それに対応するためのHOW TOが溢れ、その一部が海を渡って日本にやってきているのではないかと思います。日本のVCが朗らかで優しいという意味ではありませんが、常識を逸れたアンフェアな交渉をふっかけてくる可能性は低く、一定の知識と専門家のサポートがあれば海外の投資事例を読み漁る必要はないのではないかと思います。

2.個人投資家からの調達には時に慎重でなければならない。

個人投資家(エンジェル)から投資を受けることのメリットは多大にあります。

それは、個人投資家の多くは事業の成功者であり、その方がアドバイザーとしてついて頂くことで、様々なアドバイスを得られたり、広い人的ネットワークを利用することも可能です。また、一般的に個人投資家からの投資は「彼を気に入った」で行われることが多いため、投資検討から実行が極めて簡単なプロセスで行われることが多いです。そんな魅力がありながら、僕達が今回個人投資家からの投資を受けなかった理由は、リスクマネジメントの観点からです。

参照:反社会的勢力との係わりと株式公開

企業はいかなる場合であっても反社会的勢力と関わりを持つことを許されないということを弁護士の方から改めて説明を受けました。

芸能界に王者の如く君臨していた紳助さんが一瞬で追放されたように、もしも株主のどなたかが過去現在未来で反社会的勢力と関わりを持った瞬間、如何なる形式のExitの夢も消えて無くなります。

ただし、今回僕達は「見極める力」が自分たちにはまだ不足していると考えたためこのような判断を行いましたが、近年のスタートアップ界の盛り上がりは間違いなく個人投資家の方々の存在によって支えられており、これからもPay it Forwardのエコシステムが日本においても熟成されてゆくことを大変期待しています。

3.投資家プレゼンは徹底的に磨き上げる。

資金調達の準備に行うことは、事業計画書の作成です。

事業計画書には、2種類のタイプが必要で、

・事業計画書(プレゼンテーション)

・事業計画書(財務計画)

「投資家プレゼン」とはその名の通り、投資家に行う事業計画のプレゼン資料です。プレゼンテーションによって投資家の賛同を得ない限り、何も始まりません。

プレゼンの構成は、もちろん何を伝えたいか、伝えなければならないかによりますが、僕は下記のように構成しました。

  1. 創立者紹介
  2. 事業ビジョン
  3. 解決したい問題
  4. 事業コンセプト
  5. 想定するユーザーの利用シーン
  6. サービス内容①
  7. サービス内容②
  8. テスト版の過去実績
  9. 市場浸透の可能性①(内部要因)
  10. 市場浸透の可能性②(外部要因)
  11. 競争優位性
  12. リスクへの対処
  13. ビジネスモデル
  14. マイルストーンと売上予測
  15. 資本政策
  16. メッセージ
  17. エグゼクティブサマリー

まず最初に、大事なことは、

どんな人間がどんな思いでサービスを作っているのかを伝え、

投資家にサービスの利用シーンを想像できるようにする。

だと知りました。VCのキャピタリストは非常に多くの玉石混交のベンチャーのプレゼンを聞かなければなりません。そのため、判断は冒頭の数分間で行われます。冒頭の数分間で「なるほど、面白い」と共感を得られなければその先の話が聞かれることはありません。

ただ、これはプレゼンのテクニックを説明したいのではなく、ビジョン、解決したい問題、コンセプトがないサービスなんてあり得ませんが(存在はしますが)、どれだけそれを完結に、短く、分かりやすく説明出来るかは、どんな場面でもサービスを説明する上で重要だと強く感じた為です。

例えば、僕らソーシャルランチのビジョンは

『新しい昼の文化を創る』

ですが、もともとは「毎日のランチを価値ある時間に変える」でした。長い、価値ある時間とは何なのか、などとボヤケていたため極限まで削り、今のものに辿り着きました。そして、プレゼンの最後には毎回こんなメッセージをつけました。

人生を豊かにするのは、

人と人の繋がりであるという信念を持ち、

新しい昼の文化を創ります。

もちろん投資は複合的要素で判断されますが、「思い」は根底にあり、人の判断は往々にしてその「思い」に動かされます。これは僕らの思いの強さをきちんと伝える為にきちんとスライドにして説明しました。

(後半に続く)

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