【ゲスト寄稿】地方でサービスを開発・運用する利点と苦労する点

この記事をゲスト寄稿してくれたのは、株式会社ヌーラボの代表取締役橋本正徳さん。コミュニケーションとコラボレーションを促進するプロダクトを生み出すことをミッションとしている。美しい図形の作成とリアルタイムコラボレーションを実現した“Cacoo”は世界のユーザに利用されている。プロジェクト管理ツールの“Backlog”も運営する。


僕が代表取締役を勤めている株式会社ヌーラボは、福岡に本社、東京と京都に支店を持ち、プロジェクト管理ツールのBacklogや、リアルタイムドローツールのCacooなどを提供しています。どちらかというと、BtoBに寄ったサービス展開(受託開発も行っています)をする会社です。また現在、サービスの開発・運用は福岡を中心に京都(部分的に東京)で行っています。

あくまでもWebメディアで読む限りですが、東京以外では福岡と京都の2地域がサービス開発に非常に情熱的な地域だと想像されます。少なくともサービスの数では東京が一番。それを大きく下回って京都、追うようにしているのが福岡かな…と肌で感じています。

さて、福岡という地方に本社を置くものとしては、ぜひ地方発のサービスが多くでてきて欲しいと考えています。だって、自分の働きたい地域で働くことができるのがインターネットであり、インターネットサービス提供者なんだもん。そこで、僕が体験している地方でサービス開発・運用しているときの苦労や利点を、極めて僕視点で紹介し共有させていただきます。

地方でサービス開発・運用する利点

家賃が激安
まず、地方でサービスを開発・運用する利点として家賃が安いことを挙げずにはいられない。渋谷の小型ビルにオフィスを構えるとしたら、1坪あたり1万7千円くらいになります。しかし、例えば福岡のちょっとオシャレなIT関連企業が多い天神・赤坂辺りでは1坪あたり9千円くらいから、場合によっては7千円くらいになります。もちろん、オフィスだけでなく、社員が住むための住居も安くおさえることができます。最大の利点といえるかもしれません。

通勤が楽、環境がいい
まず人が少ないので、東京のように満員電車で押しつぶされて…といったようなことはあまりありません。福岡でももちろん通勤ラッシュはあるのですが、東京に比べれば楽な方です。街を歩いていても人は少なく、都会の喧噪とは比べものにならないくらい和やかに過ごすことが出来ます。過去に、満員電車に乗ってその状況が嫌すぎて過呼吸になったことがありました。それ以来、満員電車は本当に苦手なのです。

夕方以降の懇親を充実させることが出来るのも(福岡の)いいところ。遅くまで将来の夢を話しながら飲んで終電を逃してしまっても、繁華街から自宅まで2,000円台で帰れる人がほとんど。また同じ方角に住む人も多く、相乗りできる率も高いので、終電を気にして良い話を中断するなんてことはありません。一人暮らしの場合は、そのまま繁華街のそばに住んでも家賃は安いですし。

地域が仲間になってくれる
ランチェスター戦略のような話ですが、特定の狭い地域で名前を知ってもらえると、熱狂的なファンや協力者を獲得することが出来ると思っています。僕らの会社も「3年後には福岡で一番になる!」と決めて始めたのですが、それくらいの勢いで地域の中で名前を知ってもらうと、多くの人から協力を得ることが出来ます。

且つ、こちらからも地域に貢献していくと『相互に貢献しあう』という良循環が生まれ、地域とともに成長していく環境が出来上がります。「身近に支持してくれる人が居る」ことは勇気につながり、長期的に見てとても良いことです。僕らの場合、何を持って福岡で一番になるかを決めていなかったので、今もこれからも達成できているかどうかを計測しようがありません。残念。

他にもいくつか利点がありますが、親しくさせていただいているYoshi Noguchiさんが「Vancouver戦略」というエントリーを書いているのでぜひ参照してみてください。

地方でサービス運用・開発する苦労する点

さて、次は苦労している点、過去に苦労した点を紹介します。とはいえ、地域を理由に「苦労してるわー」なんていうのは「地域を理由に甘えてるんじゃないか?」と思ってしまうタイプなので、控えめにとっていただけると助かります。

パワフルなメディア、ライターがいない
今回寄稿しているStartup-Datingのような、サービスを広めたり評価したりするようなパワフルなWebメディアが地方にはありません。また、自分の考えを通してサービスを評価し、都市部の人が運営しているWebメディアに所属したり、寄稿するようなライターもいない。サービスをマーケティングしていく上で、メディアは強力な敵でもあり、仲間でもあると考えています。

Webメディアに掲載されれば、善くも悪くも多くの人の目に触れてファン獲得(場合によってはファン喪失)に近づくことが出来ます。で、メディアに載るためには、そこで活躍するライターと出会い、話すことが一番の近道。その機会が地方だとないのです。あったとしても、地方新聞のような「Webで展開していくようなサービス」にとってはコンバージョン率の低い媒体。

メディア戦略がなかなか取りづらいところが、地方のサービス展開の一番不利な点だと思います。この問題は、都市部のライターが来てくれるようなイベントなどを地方でやることによって解決しますし、僕はそういうメディアを地方発でやってみるのも手ではないか?と考えています。

受託案件の発注元がいない

うちの会社の場合、サービスを軌道に乗せるまでは受託開発をして、その資金をサービスの開発などに投資していくというモデルでやっていました。このモデルで資金を調達するとなると、地方はめっぽう弱いと思います。なにせ、地元発の受託仕事があまりないし、あったとしても売り上げは都市部より低いです。

逆に「サービスが当たらなくても受託があるからいいや」という考えに陥ることはないと見れば利点なのですが、それにしても受託による資金調達がしにくいのは事実だと思います。ヌーラボは東京に支店を据え、受託の営業、開発を東京で行っています。さらに、サービスの名前を知ってくれている方が増えてきたため、東京の企業様が直接地方の本社に受託相談をしてくださることも増えています。ありがたいことです。

…いかがでしたでしょうか?都市部に出て行くことを考える方たちへの参考や励みになれば幸いです。質問は、僕のザ・インタビューズ、もしくはコメント欄にお願いいたします。また、これからStartupDatingに寄稿する際にどんな記事を読みたいかの提案もお待ちしています。

地方に眠る良いサービスを育てていくために、まずは地方の情報も取り扱うWebメディアですね。StartupDatingに期待!

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