「文章力」よりも大事な、ニュース記事を書くために必要な3つの能力

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はじめまして、カイと申します。Impress Watchというニュースサイトで7年ほどニュース記者・編集を務めたのち、今はアジャイルメディア・ネットワークでソーシャルマーケティング関連の仕事をしています。記者時代に「カイ士伝」という個人ブログを開設して今も継続中。記者をやる傍らで、業務と関係ないブログを並行して運営するというのは、記者としても相当変わった部類のようです。

前口上はさておき、先日このStartup Datingに掲載された、ヌーラボ橋本さんによる「【ゲスト寄稿】地方でサービスを開発・運用する利点と苦労する点」は、非常に興味深い内容でした。特に地方で苦労した点として「パワフルなメディア、ライターがいない」という指摘は、メディアという仕事に身を置いていた自分としてもハッとさせられる事実でした。

今回はStartup Datingの場を借りて、私がImpress Watch時代に学んだ記事執筆のノウハウを簡単ながらご紹介してみたいと思います。あくまで私が学んだ記事の書き方であって汎用性があるものではありませんが、ITニュースサイトで記事を書くという1つの記事手法から何かを伝えられれば幸いです。

「文章力」よりも大事な、記事を書くために大事な3つの要素

記事を書く仕事をしていると「文章が書けるなんてすごいね」なんて言われることがあるのですが、私自身も子供の頃は作文が大の苦手。ITの世界に魅かれて転職したはいいものの、記事を書くという仕事に就いたばかりの頃は「作文が苦手な自分で果たして務まるのか」と不安でたまりませんでした。というか今でもオンラインに文章を出すことは不安だらけなのですけれども。

1.読解力がなければ始まらない

しかし、実際にニュース記事を書く仕事を始めてみると、「文章力がなければ記事が書けない」ということはありませんでした。もちろん文章力も大事な技術ですし、文章力がなければ書けない記事もいっぱいあるのです。でも、ニュース記事を書くためにまず大事なのは、「文章を書く」とはむしろ逆、内容を読んで正しく理解する「読解力」でした。

というのも、基本的なニュース記事というのはある程度テンプレート化されていて、いくつかのパターンを覚えるだけで記事が完成するようになっているからです。たとえばハードウェアの記事であれば、ニュースリリースから「発売日」「価格」「本体の大きさ」というスペックを読み取り、それを記事の中に埋め込んでいくということで記事の骨組みは完成します。IT系の記事では芸術的な言い回しもさほど必要ありませんので、先輩や上司に教わりながら書き方のパターンを身につけていくことで記事の体裁は作り出せるようになりました。

2.書いた文章に「肉付け」する力

とはいえ、ニュースソースを読み解くだけでは形こそ記事っぽくはなるものの、中身は単なる要約で終わってしまいます。ニュースソースに足りない情報、もっと深掘りしたい情報を探し出し、それを丹念に埋めていくのが記事の大事な肉付け部分。このために実際にサービスや製品を使ってみたり、広報に問い合わせするという作業が必要になるのです。

一見難しそうですが、これも「オープンプライスで店頭価格が書いてない」「Webサービスだけど料金が無料かどうかわからない」といった基本的な部分はある程度テンプレート化できるものだったりします。とはいえ、毎回すべてがテンプレート通りにはいかないのが仕事の面白いところ。ニュースソースのどこが足りないか、どこを膨らませるかという着眼点こそがニュースを書く時の重要な要素になっていると思います。

3.最後に大事な「疑う力」

ソースを読み解く読解力、そこに足りないものを見つける能力で基本的にニュース記事はできあがるのですが、最後の仕上げに大事なのは、「ニュースソースを疑う」という、これまでの前提をひっくり返すような技術です。

インターネットが普及した昨今では、記事にするためのニュースソースは企業から発信されるニュースリリースだけではなくなりました。海外メディアが先に報じた記事だったり、ユーザーによる書き込みだったり、個人によるブログだったりと、そのソースは多岐に渡ります。

ただし、そうした情報が必ずしも正しいとは限りません。海外メディアの記事が日本語に翻訳する時点で誤訳があったり、そもそもの誤解があったりすることもしばしば。時にはニュースリリースでさえ事実と異なることが書かれていることもないわけではありません。

こうした情報源に対し、違和感を感じたらその信憑性を確認する、いわゆる「裏を取る」ということはとても重要なこと。海外の情報であれば直接英文で読んでみる、企業に直接連絡を取ってみるといったことが、正しい情報を発信するためにとても重要なことです。最近ではTwitterを初めとしたソーシャルメディアの普及により、デマや誤報がすぐに広まる時代になりました。こうした能力は、記事を書く人だけではなく一般の人々にも必要となる能力なのかもしれません。

文章力ももちろん大事

ここまで記事を書くために大事な3つの要素をお話してきましたが、もちろん文章力がまったく必要ないというわけではありません。文章力が高いほうが読みやすく伝わりやすい文章にもなりますし、インタビュー記事や自分の分析を含めたレビューのような記事では、単に事実をまとめるだけではなく、文章をうまく構成して読ませる技術も重要になります。

とはいえ、いきなり文章力を必要とされる記事を書くのはとても大変なこと。「千里の道も一歩から」の通り、まずは基本的な記事をきちんと書けるようになり、ノウハウや経験を蓄積することが重要です。そのためにはまず「文章を書く」という意識よりも、「大事なことをきちんと理解する」という、読者としての視点を持ちながら記事を書くことをオススメします。

なお、蛇足ではありますが、ニュースのジャンルによっても文章力の必要度は変わるもので、その端的な例は音楽ニュースだと感じています。音楽は値段や発売日といった情報だけでなく、その音楽を聴いた時の感情まで文章に織り込み、読者に伝えなければいけません。その点において、スペックが中心となるIT系ニュース以上に文章力が必要となるジャンル。自分もまだまだ修業中の身ながらも、いつかは音楽レビューをこなせるような文章力を身につけてみたいと思う日々です。

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