【ゲスト寄稿】ずっと使われるサービスを作るうえで、大切にしている3つのこと

この記事をゲスト寄稿してくれたのは閑歳孝子さん。現在ユーザーローカルにてWebサービスの開発に携わる。日経BP社で専門誌の記者・編集を3年経験した後、知人が立ち上げた Web系ベンチャーに転職。ブログやSNSの自社パッケージ開発を手がけた後、2008年より現職でWebアクセス解析ツールの開発・企画・UI ・デザインなどを担当。


こんにちは、はじめまして、閑歳孝子(かんさいたかこ)と申します。株式会社ユーザーローカルにてアクセス解析ツールを開発する傍ら、個人制作としていくつかサービスを運営しています。最近リリースしたものとしては、クラウド家計簿サービス「Zaim」があります。

2011年7月にiPhone版、2011年11月にiPad版、そして2012年3月にAndroid版を発表。幸運なことに多くのユーザーに継続してご利用いただいており、合計して約11万ダウンロード、入力されたお金の情報は300万に達しました。特にApp Storeでは3月下旬頃からファイナンスの無料カテゴリにて1位をキープしており、とても励みになっています。

Zaimの開発で最も注力したこと

私がZaimを開発するにあたり、最も注力したのは「インターネット初心者でも楽みながら継続して使ってもらえるようにするには、どうしたらいいのか?」という点です。これはいわゆるユーザー・エクスペリエンス(UX)と呼ばれている分野でしょう。

私はインターネットがとても好きで、24時間中16時間はインターネットに接続しているような生活を続けています。このため、世界の大多数である「インターネットがそこまで好きではないけれど日常的に使っている人」の気持ちを忘れがちでした。そんな自分を律するためにも、提供するサービスは初心者に理解しやすく使い続けられるものを、と考えています。

そこで、作り手側の立場からZaimを設計するうえで何を大切にしていたのかを、この場で共有したいと思います。

大切なこと(1)初回の人をゴールまで必ず届ける

初めて目にしたアプリやWebサービスに触れてみて「あ、これは面白くないな」と感じたら再び使うことはあるでしょうか?私は、その可能性は限りなく低いと予想しています。それほどオンラインサービスにおいて、第一印象はミスできない大事なものです。ダウンロードしたけれど、使い方が分からずにアプリを閉じてしまうという事態は回避しなくてはいけません。そのためには、何としても初回でユーザーをサービスの「ゴール」まで連れて行く必要があります。

Zaimにとってのゴールは「家計簿を入力して、ご褒美のスタンプをもらう」です。そこで、スタンプをゲットするまでを一本道にすることにしました。具体的には下記のように、初回ユーザーにはダイアログを出して、入力フォームまで丁寧に誘導しています。

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初回ログイン時のダイアログ

通貨単位の設定画面へ強制的に遷移させるためのダイアログ

通貨単位を設定する画面


月に使える予算の設定画面へ強制的に遷移させるためのダイアログ

月の予算を設定する画面

入力を促すダイアログ (ios06.jpg)

 「ここをクリック!」のバルーンを表示してタップを促す (ios07.jpg)

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入力画面

完了画面にご褒美のスタンプを表示
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「入力する」への遷移(ios06.jpg, ios07.jpg)は、ダイアログを出た上に「ここをクリック!」というバルーンを表示するようにしました。インターネット中上級者のユーザーであれば、画面上にある「入力する」というタブは瞬時に発見できます。しかし、初級者はそうもいきません。実際リリース前にユーザーテストをしたところ、この場面で一瞬タップする場所を探す人が数名いました。しつこい程に「ここをタップしてください!」と促すことで、ユーザーの迷いを減らそうという意図があります。

初回の遷移にあえて通貨単位や予算の設定項目を入れたのは、こうした機能があるということをユーザーに告知するためでもあります。特に予算は、グラフの描画で基準となる値なので、「このアプリには予算という概念がある」ということをうっすらとでも理解してもらうためには必要なステップと考えました。

もしこのスタンプをもらうところまでいって辞めてしまうのであれば、そのユーザーとZaimは残念ながら相性が悪いのでしょう。もしくは、Zaimのサービスとしての力不足です。しかし、入力にすら到達せずに諦めてしまうユーザーがいるとすれば、本当にもったいないことです。その可能性を少しでも減らすために、初回ユーザーを掴む工夫は妥協すべきではありません。

大切なこと(2)キラリと光れば機能は少ない方がいい

次に大事にしているのは「初めから機能を多く作りすぎない」ということです。新しいサービスを設計していると「こんな機能もあった方がいいんじゃないか」「競合サービスにあるこの機能がないのは弱点ではないか」と不安になる場合が多々あります。しかし、こうした動機から考えつく機能にほとんど意味はありません。アイデアに自信がないことの裏返しです。それよりも「これがあるからこのサービスを使おう」と思ってもらえる、「キラリと光るポイント」を探すことが重要と考えています。

この件で非常に参考になったのは、シリコンバレーでフードスポッティングというサービスを立ち上げたアレクサ・アンジェイエフスキ氏のプレゼンテーションでした。彼女は著名なデザインコンサルタント会社のIDEO、デジタル系デザインコンサルティング会社Adaptive PathにてUXデザイナーとして活躍した後、起業しました。フードスポッティングが日本語化した2010年に来日しており、私は運良くそのプレゼンの場に立会えました。当時のスライドが SlideShare にアップロードされていますので、ぜひご覧下さい。

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このプレゼンで特にヒントになったのは「初回リリースのときに味気ないスポンジケーキを出してはいけない。カップケーキ、つまり小さくてもいいから完成していて、楽しくて、使えるものを作ろう」というスピーチでした。機能は少なくてもいいので光るものがあり、デコレーションされている状態でサービスを出すべきだ、ということです。

実際、本当に必要な機能であればユーザーから声があがるはずなので、その後に追加しても間に合います。Zaimの場合、初回リリース時には入力項目を編集する機能すらありませんでした。しかしユーザーインタフェースを気に入ってもらえたり、オンラインで他のユーザーと共有できる点などを評価していただき、編集機能を追加するまで待ってくれていたユーザーも数多くいたようでした。

大切なこと(3)一人ひとりを大事に。しかしユーザーの声がすべてではない

Zaimでは1日平均30通、アプリをアップデートすると50通を越えるフィードバックをいただいています。こうしたご意見・ご要望に一つひとつの返信していくのは、非常にサービス運用の助けとなります。多少時間はかかりますし、負担もそれなりにあるので、誰にでも勧められる方法ではありません。しかし、運営者がユーザーとともに成長していける点、一生懸命に使ってくれている人がいるという実感が持てる点は、何にも代えがたい経験です。またユーザー側も運営者を身近に感じてもらえれば、サービスに対して愛着を持ってくれるのではないか、という意図もあります。

しかし注意すべきなのは、ユーザーの要望に耳を傾けることと、実際に対応することはまた別である、ということです。ユーザーが望む方向性が、必ずしもサービスとして正しいとは限りません。Zaimの場合は上記で見てきたように、あくまでも初心者に近いユーザーでも満足し、使い続けられるものを作るというミッションに沿ったものを実装していく必要があると考えています。

「もっと、お金に、楽しさを!」というのが、Zaimのキャッチコピーです。暗い気持ちで節約するのではなく、もっとポジティブにお金と付き合う媒介になる、そんなサービスに成長していければと考えています。これからも改善していきますので、ぜひ試しに使ってみて下さい!


zaimのスケッチ

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