[Echelon 2012] ピッチ出場のスタートアップ10社の紹介と、東南アジアの起業シーンの雑感

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去る6月11日〜12日、シンガポール国立大学(NUS)で、アジア最大のテックカンファレンス Echelon 2012 が開催された。このカンファレンスのメインイベントとなる、スタートアップ・ピッチでは、アジア各国で開催されたサテライトイベント(予選)を勝ち抜いたスタートアップ10社が雄姿を披露した。

アジアで、次代のスタートアップ・シーンを担う彼らを紹介しておきたい。

なお、これらの一連のピッチのビデオについては、YouTube にアップロードしておいた。また、関連記事はこちら(筆者もパネル・ディスカッションに登壇させていただいた)。会場の雰囲気を味わう上で参考にしてもらえると幸いである。


Ragic!(台湾)

一般的にデスクワークをする人たちは、Excel は操作できてもデータベースを操作できないことは多い。例えば顧客が増えたりしたら、Excel で管理するよりもCRMソフトウェアを入れた方が管理しやすいが、CRMソフトウェアは機能が多すぎる。必要最低限のしくみをスクラッチで開発するとなると、仕様の策定から開発まで時間がかかり過ぎる。Ragic! はデータベースの知識がなくても、簡単にデータベースを構築できるしくみ。

Klik-eat.com(インドネシア)

ジャカルタ市内限定、6つのレストランと提携して食事のデリバリを提供。ジャカルタ市内は、オフィスの昼休みにちょっと気軽に食事を出かけ、再びオフィスに戻ってくる…ということが容易ではない。手軽で落ち着いて話ができるレストランがあるのは市中心部のショッピング・モールに限られるし、そこまで出かけるとなると、地下鉄の無いジャカルタ市内では渋滞にはまることが日常茶飯事。オフィスでの食事需要に、渋滞にはまらないレストランからの食事のデリバリで応える。

Builk(タイ)

タイの建設業界向けのソーシャル・ネットワーク。建設プロジェクトの管理、自社宣伝、顧客管理などが行える機能が備わっている。サイト上で利用するアプリケーション、参加しているサプライヤーなどがスポンサーになっているため、サービスは建設業者に無料で提供される。これまでオフラインで提供されていたものを、オンラインにすることが目標。銀行からの借り入れ、建設資材のサプライヤーからの仕入れまでも、一連的にオンラインで完結することを目指す。

 

Perx(シンガポール)

消費者がポイントを得られる、店舗向けの顧客優待サービス。消費者は Android / iPhone のアプリをダウンロードしておく。店舗で買い物した時、レジで紙に印字されたQRコード(これはお客毎に印刷されるわけではなく、お店単位で同じQRコードが提示される)をスキャン。ポイントが溜まってゆくしくみ。現在、チェーンの飲食店を中心に、シンガポール国内二百数十店舗で利用できる。

Snapdish(日本)

料理を撮影して投稿するソーシャルアプリ。これまでに、ヤマサ醤油とのタイアップ・キャンペーンなどを展開、ビジネスモデルは飲食業界とのタイアップやスポンサーシップによる。Echelon でピッチを披露したこの日、韓国へのサービス展開(Android 版について、SKプラネットのアプリマーケット「T Store」への公開を発表)、人人網(RenRen)との連携が発表された。

 

Gimme(シンガポール)

現在ベータ開発中のゲーミフィケーションAPI(またはSDK)。アプリ開発者はこのSDKを組み込むことで収入が得られる。プロモーションをしたいブランド企業は(有償で)モバイルユーザにリーチできる環境が与えられる。

 

Dropmysite.com(シンガポール)

Gmail を初めとするクラウド型電子メール・バックアップ・サービス「Dropmyemail.com」が作った、ウェブサイトのバックアップ・サービス。メインのウェブサイト環境からクラウドに自動バックアップされ、Google Apps がダウンしても、データが残るというのがキャッチコピー。ウェブサイトのファイル・バックアップ、データベース・バックアップ、電子メールのバックアップが手軽に行える。

Beatrobo(日本)

いろいろな楽曲をダビング・ミックスして一本のカセットテープ上を作り、それを友人と聴き合った体験をインターネットの世界で蘇らせようというもの。YouTube の画像・音声を使い、それらを自由に構成して自分の楽曲セットを他のユーザと共有して楽しむことができる。(関連記事

 

Payroll Hero(フィリピン)

Payroll Hero は、Startup Asia Jakarta でも登場した。2人の共同創業者がステージの両端に分かれ、2人で掛け合いをしながらピッチするフォーマットは面白い。従業員の給与精算ソリューションであるが、詳細については、こちらの記事を参照されたい。

Between(韓国)

恋人2人のための、クローズなSNSサービス。詳細はこちらの記事を参照。なお、ピッチの〝オチ〟として、恋人が破局した場合と、相手が複数居る場合の使い方も説明されているので、こちらのピッチのビデオは必見。7月にも日本でリリースされることが予定されている。(関連記事

 


最優秀賞は、タイから出場した Builk が受賞した。建設業界にデジタルを持ち込むという比較的地味なサービスではあるが、一件ITからは縁遠い世界に敢えて挑戦した、創業者達の野心に対する賞賛と言ってよいだろう。筆者の知る限り、タイでは一定のネット検閲に加え、

タイ政府の国内企業保護策のため、
タイでは外資が過半数を超えて現地企業に出資することはできない。(詳細資料。出典:KPMG)

タイ国外のベンチャーキャピタルが、タイのスタートアップに投資することはできない。

タイのスタートアップ・エコシステムが繁栄していない。

…という構図があると思っていたのだが、この見方もそろそろ改めるべきなのかもしれない。ミャンマーへの経済制裁解除に伴って、隣国タイへの国外からの投資もかなり増加するとするといわれていて、好影響を受けるのはタイのスタートアップにとっても例外では無いだろう。

インドネシアのスタートアップは、ジャカルタ、バンドン、ジョグジャカルタ、スラバヤなどの都市限定型のサービスと、初めから海外を目指すサービスに二極化しているのが興味深い。ジャカルタ周辺の人口は、日本の首都圏の4分の3、人口密度は東京の2倍以上だ。日本以上の島国で、そもそもユニバーサルなサービスを提供するのは不可能だし、地域密着でやるかグローバルにやるかで、間がないというのはお国事情を反映している。

フィリピンのスタートアップは、会社の国籍こそフィリピンだが、実際には欧米人や他地域の起業家がフィリピンで起業しているケースも多い。理由は、英語が通用する上にシンガポールなどより開発コストが安いからだ。以前紹介した Guyi Shen と久しぶりに Echelon で再会したのだが、彼も会社の拠点をフィリピン(マニラ)に移転させたと話していた。

イベントである Echelon のみならず、以前紹介したシンガポールのアクセラレータ JFDI も、アジア各国からスタートアップを募っている。Startup Dating が時々、日本のスタートアップとの橋渡しを手伝っている Infocomm Investments や IDA なども、積極的に海外からスタートアップを集めている。つまり、日本のスタートアップは日本人によるスタートアップなのだが、シンガポールのスタートアップはシンガポール人によるスタートアップとは限らなくなってきている。もはや会社の創業時の国籍は関係なく、この傾向は昨年あたりから顕著になっているように思える。(関連記事

6月の上旬からジャカルタ・シンガポールと2つのテック・カンファレンスに参加できる幸運に恵まれたので、今回は敢えて現地のテック・コミュニティに飛び込んで親交を深めることに注力した。今回の機会を通じて得られた知見については、今後の日本のスタートアップの支援や、Startup Dating の活動に役立てたい。