【インタビュー】プログラミングの楽しさを伝え、もっと気軽に学習する環境を−−ドットインストール田口さんが抱く思い

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スタートアップにとって、日本国内に限らずアジアなどの海外に対して新しいウェブサービスやアプリをつくり展開していこうと考えている人も少なくはないと思います。また、いまや生活の一部としても様々なウェブサービスが使われており、私たちの生活にウェブは欠かせないものとなっています。そうした、ウェブの仕組みを一から学習するプログラミング学習ツールがいま注目されています。

そうした中、プログラミングの基礎を簡単に動画で学習できる「ドットインストール」が3万5000ユーザ(2012年5月末現在)を突破し、掲載している動画を1000本を超えました。国内でもまだまだ少ないオンライン学習サービスという分野の中でも日々成長を続けているドットインストールについて、サービスを運営している田口さんにインタビューを筆者はおこない、田口さんが考えているドットインストールのこれまでとこれからについて話を伺ってみました。

ドットインストールの概要

ドットインストールは「3分動画でマスターする初心者向けプログラミング学習サイト」という、主に初心者など基礎的な学習をおこなう人向けに作られたサービスです。

様々なレッスンを自分で選択し受講すると、約3分程度の動画が視聴できる。1つ1つの動画は時間としても短く閲覧でき、そして、連続したトピックで1つのテーマを完結する仕組みとなっている。長くても全30回以内にテーマが完結するため、手軽にプログラミングについて学習することができる。テーマとして「HTMLの基礎」「CSSの基礎」「JavaScriptの基礎」などから、「PHPの基礎」「MySQLの基礎」など、ウェブサービスに必要な言語などの学習レッスンが用意してある。

サービスを運営しているのは、株式会社ドットインストールを運営している田口元(@taguchi)さんとウェブエンジニアのF.Ko-Ji(@fkoji)さんだ。おそらく、「百式」ブログや「IDEA*IDEA」などを知っている人は、ブロガーとしての田口さんを知っている人も多いと思います。

情報の図書館を作りたい、という思い

なぜ、ドットインストールを始めたのか。田口さんはいくつかの理由をあげてくれた。まず1つは自分がプログラミングが好きだということ。1人でも多くの人が、プログラミングを通じたものづくりの素晴らしさを知ってもらいたいという思いがそこにはあります。

もう一つは、これまでブログなどを中心に活動していた田口さんだが、ブログ以外にしっかりとした蓄積型の情報コンテンツを作りたいという思いがあった。ブログはいわば流れるコンテンツであり、ブログとは違う情報のアーカイブをつくり、いつでもそこにアクセスすれば情報が手に入るようなものをつくりたかったと語ります。

「図書館を目指している」取材中で語ったこの一言が、ドットインストールの本質を突いている。「みんながいますぐ必要だとは思わないが、そこにいけば必要な情報がそこにはあって、調べ物が一瞬でできる。そういうときにそこにすべてがあるコンテンツで安心を与えたい」。ドットインストール構想の第一歩はそこにあった。

F.Ko-Jiさんとの出会いで、アイディアから着想に

こうしたアイディアをもとに、自身が興味のあるプログラミングをベースに、プログラミング学習サイトをつくろうと考えました。そうした考えを抱いていたときに、ウェブエンジニアのF.Ko-Jiさんとの出会いが大きかったと田口さんは語ります。もともとお互いに顔見知りではあったものの、一緒になにか作ったことはなかった。しかし、これまでのF.Ko-Jiさんの活動を見ているなかで、お金だけじゃなく社会的な意義をもって活動をしようとしていると田口さんは感じ、あるときドットインストール構想についてF.Ko-Jiさんに話をしたところ、即決ですぐにやろう、ということとなった。

「僕はコンテンツは作れてもサービスや仕組みは作れない。それに1人で作る苦しさを知っているからこそ、誰かと一緒にやりたかった。そうした意味で、F.Ko-Jiさんはやる気も能力ももっている。素晴らしい人と組めたと思っている」。

こうして、2011年5月に考えた構想から数ヶ月たち、2011年11月27日にドットインストールはローンチするまでの準備をおこなってきた。

ドットインストール構想からいまに至るまで

ドットインストールの学習画面。自分用のメモなども残せる。

ドットインストールの構想から立ち上げに至るまで、紆余曲折があった。いわゆる教育的コンテンツとして考えたときに、最初は動画を使用するかどうかもわからなかった。色々なサイトや学習サイトを見ていく中で、チュートリアル系のサイトをベースに、テキストと動画による学習サイトがいいのではと考えた。

また、プログラミング学習サービスとして有名なCodecademyや、Khan Academymanaveeなどの様々な学習サイトなどもテキストと動画による学習スタイルをとっており、こうした他の学習サイトも研究し、テキストと動画によるスタイルがかたまった。

3分という動画の時間も、自身らの経験から5分だと動画は見ない、かといって1分程度だと学習にならないなど、色々と模索した結果3分というスタイルとなった。

レッスンの内容や機能なども、開発からリリースまでに二転三転したと語る田口さん。流行り言葉に流され、あまりユーザのことを見てなかったのではといままでを振り返る。

ドットインストールリリース前の開発バージョンにて、ポイント制の導入やコメントなどのアクティビティの導入やフォロー機能など、近年のウェブサービスに見られる機能を盛り込み開発をおこなってきた。開発がある程度落ち着いたときに、ユーザビリティテストをおこなうためにbeBit社にリリース前のアドバイスを伺ったところ、実際のユーザの利用とはかけ離れたサービス設計になっていたことに気づいた。

「アドバイスをもらってそこで気づいたのは、学習する人の心理を考えていなかったことでした。そうではなく、本来のサービスの意味を考え、どのように学習するユーザが心地よく使えるか、それを一からシナリオなどを再考し考えなおしました」。

大きな転換を決断したのち、サイトのコードも半分以上刷新するなど大きく軌道修正をおこなった(詳細はこちらのブログエントリーに記載)。その根底には、プログラミングを学習することの楽しさを少しでも多くの人に知ってもらいたい、という思いからでもある。流行りに流されることなく、ユーザのことを一番に考えることこそ、サービスの本質だと田口さんは語る。

その結果、2011年11月にリリースをおこない、ユーザ数は順調に伸びていった。2012年4月にはユーザ数が3万人を突破。現在もユーザ数は伸びていっている。

伝える側だからこそ、伝えるものの数倍の学習が必要

1つのレッスン(例えばjQueryの基礎など)も、少なくても約20程度のトピック、多いもので30程度のトピックを用意している。最初のころは自身でも経験や実践のある言語も多くレッスン作成の苦労は少なかったが、次第に自分自身の知識外のことについても取り組まなければいけなくなった。

「初心者向けとはいえども、曖昧な知識であっては曖昧なまま教えることになり、それはまわりまわってユーザにとって不利益となる。だからこそ、運営者側も日々勉強していかないといけない」。

初心者から上級者向けなど、色々なカテゴリーを用意している。

自身がもつ小さい知識をもとに広げることには限界がある。だからこそ、レッスン内容の5倍から6倍を自身で学習し、自分の身として吸収することでしっかりとしたものをユーザに伝えることができる。自身が学習していったものの中から何が大事か、なにを教えるべきかが次第に見えてくるという。誰かに何かを伝えるには、伝える内容の数倍の知識や経験がないと、きちんとしたものは伝えられないと田口さんは語る。

最近では、1つのレッスンに3日から4日かけて勉強をおこなうこともある。文献や書籍、サイトなどから学習し、自分自身で実践し、また F.Ko-Jiさんにも照らしあわせてもらい互いにチェックしていく。自分だけでなく、仲間と一緒にやるからこそ、漏れなく、互いに指摘しあいながらコンテンツをつくっていくことの大切さがある。

動画の収録自体は勉強-レッスンのアウトライン(目次や概要)-撮影という流れだ。各トピックごとにきちんとしたアウトラインをもとに漏れなく動画をつくる作業へとはいる。こうした、地道な努力を日々続けることで、1000本以上もの動画は完成した。

ドットインストールのように、1つのレッスンを20以上もの細かなトピックで分類して体系化しているものは少ない。だからこそ、ドットインストールが目指すものは、漏れなくしっかりとした基礎を網羅したものを作りたいと田口さんは語る。

社会的インパクトを与えたい

当初はドットインストールは個人のサービスとして運用していたが、そののち2012年2月24日に株式会社ドットインストールとして法人化をおこなった。

会社化した理由について「社会的にインパクトを与えたかったから」と田口さんは語る。個人ベースでやっていると、ある程度のところまでは伸びてもなかなかそこからスケールアウトしない。趣味でやるにしても時間とコストが大きくかかってしまう同サービスを、しっかりとした収益や、今後の展開としてより大きなサービスとしてひろげていき、より学習に対する機会や楽しさを提供していきたいと考えたからだ。だからこそ、法人化することで様々な企業と連携をはかることが社会に対してインパクトを与えるのに重要だと語る。

また、 F.Ko-Jiさんも含めたドットインストールに携わっている人らに対して、もっとサービスを成長させることが一緒にやっている人たちへの恩返しでもあると語る。一緒に成長させていくことで、自分自身や関わってもらっている人たちの将来に対してのステップになればと考えてる。会社化することによって、自身だけでなくまわりの仲間に応えることが、会社化の意義の1つだと語る。サービスをどう展開していくか、そして、それらを踏まえて一緒に行動している人たちに対してなにを返すか。個人や会社というもののあり方に対しても考えるべきポイントなのかもしれない。

もっと、若い人や非エンジニアの人に使ってもらいたい


ドットインストールの主な利用者は、学生など時間や口コミなど横のつながりやネットワークをもっている人たちの利用が多い。またそれ以外にも、必ずしも初心者ではない人の利用も少なくない。上級者などが会社の後輩に教える際にドットインストールをチェックし、なにを教えればいいかを調べたりしている傾向も多い。また、ウェブの業界も、少し分野が違うとまったく使っている言語やもっている知識が違ったりする。また、曖昧だったりうろ覚えだったりすることもよくある。そうしたことに対して、また一から学習するほどの時間はないが、再確認したいというニーズがそこにはある。ウェブ業界にいる人だからこそ、他の分野や違った言語を使っている人たちとの共有をおこなうのにもドットインストールは使われている。

「ぜひ、学生など若い人たちには頑張ってもらいたい。他にもIT業界に務める非エンジニアの人にも使ってもらいたい。色々な可能性がウェブにはある。すべてを知る必要性はないかもしれないが、”世界を知る”ということにおいては基礎的なものは知って損はない。一般常識として仕組みを知っているだけで、これまでとは違った世界が広がる」。

新しくものづくりをしていく学生たちだけでなく、非エンジニアの人たちがエンジニアと話をするために知っておくべきことは網羅されていると語る。言語の違う世界を知り、そこから新しい何かをはじめるきっかけにするためにも、ぜひプログラミングを知ってほしいと田口さんは語る。

ウェブに関わるすべての人に届けたい

1000本動画を達成したドットインストール。日々、サイトにあがる動画は日々増え続けている(6月20日現在でユーザ数は3万8000人、動画の本数は1124本にまでになっている)。次の目標は2000本だと田口さんは語る。ユーザ数も5万、10万と目指していき、日本一のプログラミング学習サイトにしていくことを目標に掲げている。

「プログラミングだったらドットインストールと思ってもらえるようになりたい。学生やITの人など、なにかしらウェブに関わる人にとって一番最初に手にとってもらえるようになれれば」。

また、田口さん自身がよく周りから質問されることだそうだが、ドットインストールは毎日やる必要性もないと言う。

「好きなときに必要なだけやってもらえればよくて、いつでもかまわない。自分が必要だと感じたタイミングや興味がでてきたときにやるのが一番大事。勉強は毎日やらないといけないという脅迫概念じゃなく、好きなときに好きなように楽しく学べるようになるのが一番。そのときに、一番最初にドットインストールを使ってくれると嬉しい」。

これからの時代、ウェブが生活の一部として身近になればなるほど、その仕組みを知っていくことはとても大事になってくる。それと同時に、仕組みをつくっていくエンジニアの需要も次第に高まってくる。時代とともにエンジニアの重要性は高まるが、エンジニアになる人や基礎的な知識をもっている人が少なければ意味がない。しかし、そうしたプログラミングの学習はいまの学校教育でもまだ始まったばかり、もしくはまだまだ手が届いていない分野でもある。そうしたところにも、個人や民間レベルで仕組みをつくっていくことはできる。ドットインストールによって、少しでもプログラミングに触れる人が増え、エンジニア志望は人が増えることを筆者も願っている。

なにかの興味のきっかけを与えること。そして、もっと深く知りたいと思った人は、その先は、 ネットや書籍に様々な情報があり、自分自身で深めていくことこそ、知的好奇心のあり方だと筆者は感じる。

だからこそ、まずは”知ること”のハードルを下げることはとても大事になってくる。そこから、エンジニアになりたい人、プログラミングのハマる人。そんなに興味なかったけど、やってみたら意外に面白いなと感じる人が少しでもでてくれることがドットインストールの思いであり、田口さんの思いでもある。

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