日本のIPO環境は大きく開かれているーー高宮慎一氏が語るスタートアップ事業戦略 11のヒント

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アイスタイル、カヤック、キューエンターテインメント、ナナピにワンオブゼムーー。そのポートフォリオにはこれからを期待される支援先企業が並ぶ。

高宮慎一氏。国内ベンチャーキャピタリストで着実に実績を積み重ねる同氏はいわゆる「76世代」。

MBA取得のためにハーバード大学へ留学し、自らもスタートアップを仕掛けるなど起業に関する造詣も深い。現在はグロービス・キャピタル・パートナーズのパートナーとして、11社ほどの投資先企業を担当している。

高宮氏が「MOVIDA SCHOOL」で語ったスタートアップに向けて語ったアドバイスを11のヒントにまとめた。

どれぐらい大きな絵を書くか

事業には三つの要素がある。まずビジョンや想い。5億円ぐらいでグリーやDeNAが買ってくれればいいや、か、グリーやDeNAを超えるぜ、で大きく違ってくる。生活やお金のため、自己実現のため、世の中をポジティブに変えたいからと、目標が上にいけばいくほど、どういう規模の会社にするかが決まってくる。すべての出発点はそれ。

次に市場。ベンチャーをやる時一番鉄板なのは伸びている領域でやること。市場全体が伸びていれば、現状維持でも伸びる。万が一二番手、三番手になっても伸びる可能性がある。最後に自社の能力。市場そのものが伸びていてもチームが持っている能力とズレていれば伸びない。この三つががっちりとあった「ど真ん中」で事業を展開するのが理想的だ。

ただ、全てが揃っている「ど真ん中」にはなかなかならない。その場合は、やはりビジョンや想いを優先させて欲しい。極論すれば、伸びていない市場でも一番手になれば良いし、持っている能力がズレているのであればチームを補完したり、育成したりすれば良い。でも、ビジョンや想いだけは代替が不可能だし、逆に確固たるビジョンや想いがあれば勝つまでやり続けることもできる。

本質的な「強み」とは

「持続可能な」強みこそが競争優位性。つまり、仕組や構造などで継続する強みを備えるというのが本質的だ。他社と比較できてしまったり、真似できてしまうのは本質的な強みではない。相対的なものじゃなくて絶対的なものが必要。例えば、「自社の強みは優秀なエンジニアです」では競争優位になっていない。

他の企業もお金をかければ優秀なエンジニアは採用できる。他の企業より優秀なエンジニアを継続して採用できる仕組みまでいって始めて競争優位となる。例えば、一流大学とエクスクルーシブで提携をしていて、優先的に優秀な学生を採用できる契約を結んでいるなど。

また、構造的に競争優位性を作り込むパターンもありえる。例えば、ベンチャーとなるとつい「大企業を打倒するぞ!」という掛け声になってしまいがちだが、持続的な強みを作り上げるために、あえて既得権益の大企業を巻き込み彼らにもメリットがある座組みにするというパターンもあり得る。

アドテクのベンチャーが自分たちだけで顧客やメディアを開拓するのではなく、既存の大手広告代理店が売りやすいプロダクトにテクノロジをパッケージングし、代理店にもお金を落とし、代理店にもそのプロダクトを売り続けるインセンティブを与えるなどがそれにあたる。

キーチームを集める

キーチーム、マネジメントチームとなる人材を早めに見つけることは重要。周りにいる友達とかではなく、冷静にその事業をやるにあたってベストのメンバーを集める。ウマが合うのは大切だけど「10億ドル企業」になるにはどういう要件を持っている人が必要かということを考える。

やはりここでも大切になるのがビジョン。これを共有できる人を採用すべき。突発事故や苦しいタイミングで逃げない、想いの部分で握れる人。またよくやりがちなミスは「自分よりもいけてる人」を口説けないこと。これでは自分が会社の上限になってしまう。いかにして自分よりいけてる人を雇うかが鍵。そうして集めた貴重かつ限られているリソースをどこに配分するかがまさにベンチャー経営には大切なことだ。

ビジネスモデル:事業からのキャッシュフローと調達

単品の事業モデルなのか、複数事業モデルのポートフォリオを組むのか。大きくスケールさせるという確信をもてる事業が育ってきて始めてVCから大きく調達するのが良い。それが見えてくるまで、受託など複数のビジネスを組み合わせて足元のキャッシュを稼ぎながら大きく跳ねる種となる事業に色々張っていく。

そして、各個別の事業がどのようなビジネスモデル(≒キャッシュフロー、収益モデル)になっているかという点に留意する必要がある。

例えば、月額課金や運営・アフターサービス型のモデルは座布団方式で継続的にキャッシュが得られる。一方で完全受託は、納品した際にワンタイムでキャッシュが発生する。完全自社サービスは開発期間中はキャッシュが出ていく所謂「Jカーブ」を掘り、サービスから売上が立ち始めるとキャッシュインし、サービスがクリティカルマスに達成した瞬間ポンっと跳ねるハイリスク・ハイリターン型のモデルだ。

それに対して、レベニューシェアやプロジェクトファイナンスのモデルは、完全自社サービスに近いが、跳ねた時のリターンをシェアする代わり「J」を掘るキャッシュ・アウトもシェアするリスクを回避するモデルだ。

自社として何が種まきで、何が短期のキャッシュを稼ぐのか、またキャッシュを突っ込むのは内部資金からなのか、それとも外部調達からなのかを全社レベルでバランスを取りながら考えることが必要。

将来絶対にスケールする、と思ったら外部から調達する。自分たちで何個かトライしてみたい、という場合は受託などで当面しのいだ方がいいだろう。本命事業がないままいくつか張ってる段階では、調達の条件も厳しくなりがちだし、最終的に跳ねるまで期間もかかってしまう。

外部投資家から出資を受けることは最後には絶対に彼らのエグジット作らなければいけない。ある意味、悪魔との契約。絶対の確信をもってから契約して欲しい。一方、我々投資家側も投資したからには、投資先に誰よりも価値を出せるように支援する「最強の悪魔」になれるように精進している。

PDCAを早く回す

事業の中でも特にリアルタイムでユーザのKPIが見られるネット系サービスはPDCAを高速に回し、サービスを改善してゆくことが重要だ。通常億を超えるような資金調達は「Proof of Concept(サービスとしてユーザに支持され、マネタイズこそ始まっていないがユーザがつき始めている)」がある段階から可能になる。最初にβでサービスをローンチしていかにProof of Conceptまで早くもっていけるか。

そして、いかに継続率、コンバージョン、ARPUなどのKPIを改善していきながら、スケールする軌道に乗せるか。いずれにせよ高速でPDCAを回し改善をしていく組織力が重要になってくる。また、事業上のマイルストーンと資金調達のマイルストーンを合わせるのが大切。

調達のしやすさはもちろん時価総額も事業で意味のあるマイルストーンを達成していることで大きく変わってくる。そう言った意味でも、大きく目標を設定し、日々改善のPDCAサイクルを回しながら事業のマイルストーンを達成していくことが重要だ。

場合によっては経営者もバトンタッチを考える

トップマネジメントチームとしてどう事業の成功に必要な能力を全てカバーするかがカギ。それは、ステージや外部環境の変化で変わってくることもある。既存のマネジメントチームに新メンバーを加え、補完できるにこしたことはない。

しかし、人材の適・不適によっては、バトンタッチすることも厭わない腹をきめるべき。この事業で世界を変えるというビジョンがあるならば、自分のエゴと事業のビジョンを分離できたほうがいい。但し、そのフェーズを持っていったチームメンバーには正当に報いるべきだ。

また、日々のサービスKPIをどうやって改善すべきかが回り始め、社長が自らサービスに手を入れなくても回るという段階では、ミドルクラスの人材の調達が大切になってくる。

日本のIPO環境は大きく開かれている

米国のIPO市場はいわゆる「ウィンドウが閉まっている」状態で、300億円くらいの時価総額がないと意味のある上場にならないといわれている。ナスダックは日本のマザーズに相当する成長企業向けの市場であったはずだったが、それでも新規上場の時価総額の中央値は$425M(約340億円規模)の時価総額になっている(※図参照)。それに対して日本は$59M(約47億円)だ。

他国のベンチャーやVCから本当に羨ましがられるのだが、日本はIPOウィンドウが大きく開いている市場となっている。また、日本を時系列で見ても2009年の底の時のIPO数は19だったが、2012年は50程度が見込まれ回復傾向にある。

私は投資先に、マザーズを「セミ上場」的な位置づけにして、そこで小規模の調達をし、短期間で東証一部への市場替えをして大規模の調達をするように助言している。マザーズは殆どが個人投資家。つまり株価の変動が大きい。機関投資家がつきやすい東証一部に市場替えすれば株価の安定が図れる。

ツールを理解する1:CB、株、借入

外部から資金を調達するにしても色々なツールがある。代表的な所でもCB(コンバーチブルノート=転換社債)、株、借入などがある。例えば、CBはプロトタイプもできていないようなリスクが高いシード期のスタートアップに使われることが多い。

CBは借入と同等に扱われ万が一のことがあれば優先的に返済される。一方で、順調に事業が進めば株に転換されアップサイドを取れる。こんな構造になっているので、米国などではアーリーの段階での資金調達などで多く使われ、エンジェルやアーリーのVCなどがよく活用している。

もう少し事業が進捗した段階で使われるのが株。株は返済義務がないので倒産するとゼロ可能性がある所謂「リスクマネー」である。一方でアップサイドは大きく、いざ時価総額が1000億円になったら10%で100億円が入る。その裏返しが資本コストの高さ。

例えば、1億円投資したのが、5年で100億になったとすると利率としては膨大な大きさになる。株は主にVCが投資するときに使うツールなのだが、資本コストが高いもののメリットはCBでは調達できないような大きな金額を調達できる。今ドカーンと調達することで、競合を大きく突き放したり、大きくスケールできる場合に使うべき。

さらにレイターのステージになり、月次、年次で利益が出始めると主に銀行からの借入を使うことができる。そうなってくると資本コストは利息になるので、大分安くつく。フェーズによってどういうツールを使うかも一考すべきだろう。

ツールを理解する2:優先株

また、優先株は正しい使い方をすれば普通株に比べて起業家と投資家のインセンティブの整合性を取り、ともに「跳ねる方」を目指すモチベーションをつくれる。起業家は自分のやっている事業を信じているから当然跳ねると思っていて、調達時の時価総額を上げたいと思っている。一方で、投資家はもう少し冷静な見方をしていて、失敗した時のことを考え、リスクを最小化したいと思っている。

この可能性の認識のギャップを上手く使い、失敗したら投資家が優先的にリターンを得て損失を極小化する代わりに、調達時点での時価総額を上げて成功した時の起業家の取り分を多くする、または調達時点でより多額の資金を調達できるようにするというのが優先株の正しい使い方だ。という意味ではシリコンバレー40年近い歴史の中で脈々と磨かれてきた良くできたツールといえる。

資本政策は不可逆

各資金調達ラウンドでの資本政策はスナップショットに過ぎない。上場する時にどうありたいかから逆引きして、それぞれのラウンドを設計すべき。例えば上場時にマネジメントチームは33.4%を持っていたい、だから今回のラウンドではこれだけあれば良い、というモデルケースが必要。資本政策は不可逆。一度外部がシェアを持つとそれを創業者が取り戻すのは至難の技。現実的には不可能に近い。

だから、各ラウンドではこの先何回、いくらくらい調達するから、これくらいのシェアは出せるという形で設計する必要がある。シード期に300万円を調達、30%の株式を持っていかれるなどの無計画な資本政策は避けた方がいい。

また、調達は最短でも3カ月、通常半年近くマネジメントチームの時間を取る。事業に集中するためにも頻繁に調達しない方が良い。お勧めは事業に必要な1年半分以上の資金を一回で調達することだ。

投資家はお金以外に何をしてくれるか

投資家にも色々なタイプがいる。例えば、アクセラレーターやエンジェルは主にSeed StageからGrowth Stage(※図参照)に持っていくのが仕事。VCはここから100億、1000億円の企業にもっていくのが仕事。アクセレレーターが途中で抜けるのはけしからんという論調もあるが、個人的には一定のステージまで持ってきたくれたらそこまでに実現した価値については報いても良いと思っている。なので、グロービスが投資するラウンドでアクセレレーターやエンジェルの持分の一部譲渡を受けるケースもある。

常々投資家と起業家は男女関係に似ていると思っている。投資家(アクセレーターにせよVCにせよ)は一度入れるとなかなか離婚できないという話は前述の通り。その点、その投資家はお金以外何を提供してくれるのかを見極めるのが大事。戦略・組織を一緒につくってくれるのか、ネットワークなのか、勉強会なのか、売り上げを付けてくれるのか。

出会って直ぐにいきなり結婚=投資とはいかないし、それではうまくいかない。まずは、起業家と投資家が個人と個人での信頼関係がなければ、投資後数年に及ぶ結婚生活を一緒に過ごすことはできない。なので、お勧めなのは、資金調達を実際に実行する大分前から「この人なら!」と思える投資家を見つけ、飲みにいって仲良くなること。

一年、二年越しで人間関係ができていれば、どのような方向に事業を持っていくのか、どこまできたらどんな資金調達ができるのかを事前にすり合わせもできる。以前に投資家は悪魔ともいってしまいましたが、ぜひ皆さん人生の伴侶となるベストな投資家を探してみてください(笑)。

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