【ゲスト寄稿】東南アジアの起業家に見られる、スタートアップの盲点

今回、寄稿していただいたのは、蛯原健(えびはら・たけし)氏。十年以上にわたって、ベンチャー・キャピタル投資のほか、7社の起業に携わり、2008年にリブライトパートナーズを設立。現在はインドネシア、シンガポール、ベトナムなどで、スタートアップ向けの投資・育成に注力されている。蛯原氏のインドネシアでの活動については、この記事にも詳述している。

最近、東南アジアでスタートアップのメンタリング・プログラムに参加され、この機会を通じて、起業家が持つ可能性や改善すべき点について、蛯原氏が持った所見を寄稿していただいた。日本のスタートアップにとっても、今日から役に立つ指摘が見つけられるだろう。


先日、シンガポール、ベトナム、そしてインドネシアを回ってきた。アメリカに本部を置くシードアクセラレーター「Founder Institute」のメンターとして、各地でのセッションに参加するためだ。各地で、それぞれのセッションは2〜3時間かけて行われ、決められたテーマ(マネタイゼ―ション、チームビルディング、資金調達など)に沿って、メンターが参加スタートアップに対して、知識や体験をシェアするスピーチとそのQ&Aを行う。セッションに加えて、「Office hour」という、メンターと起業家との1対1の面談形式による指導機会も用意されている。

Courtesy of Tech in Asia, shot by Joshua Kevin

Founder Institute でメンターとして活動するだけでなく、私は本業のシード・ベンチャーキャピタルとしても、東南アジアの起業家を日々フォローアップしている。その数はここ2年ほどで、200社は下らないだろう。

今回は、これまで私が会ってきた、東南アジアの起業家が抱える傾向と課題をまとめてみた。もちろん、多分に筆者の私見が含まれていることは了承いただきたい。

1. 失敗なのか、失敗以前なのか

CC BY-NC-SA 2.0: via Flickr by jennaream

東南アジアの起業支援関係者やスタートアップと話をしていると、次のような声をよく耳にする。

「私が普段会う起業家たちは、事業を始める前の段階がほとんだ。その意味では、本来〝失敗〟とすら呼べるものではないだろう。〝陥りがちな危うい思考〟〝盲点〟などという表現の方が、よりしっくりくる。」

本稿で示すスタートアップの事例が一概にダメかというと、現実はそれほど単純ではない。「ダメなアイデアだ」と言われても、後に成功した例は幾らでもある。

 「いろいろ厳しい批評もした。ただしそれはあくまで私の意見に過ぎない。より重要なのは、他人に何と言われようと、ダメだと批判されようと、とことんやり抜くことだ。」

これは、私を含め、Founder Institute のメンター達が、セッションでよく口にするフレーズだ。

2. ニッチでスタートアップすることの意味

CC BY-ND 2.0: via Flickr by Fosforix

東南アジアの起業家のアイデアやピッチを聞くと、一番顕著に感じるのは「ニッチ過ぎる」ということだ。

  • 自国の原産品を売るEコマース
  • 中高生が歴史を学習するためのEラーニング
  • サッカー好きのためのポータルサイト…

総合的なECサイトすらようやく立ち上がり始めたかどうかという国で、なぜニッチカテゴリのECサイトをやろうとするのだろうか? なぜ総合ポータルではなく専門ポータルなのか?

よく「大手がやっているから自分はニッチで行く」という説明を聞くが、それは誤りである。売れる自国の原産品なら、それをAmazonやEbayで売らない道理はない。サッカーポータルが提供するサービスのほとんどは、Yahooスポーツで事足りる。

(ドットコムバブル期のPets.comやSports.comなどの専門ポータル、専門コマースの死屍累々について我々世代の口承が足りないのかもしれない。その後に登場して成功したZapposや日本の ZOZOTOWNなどは、そもそもニッチモデルで成功したのではない。独自のバリューをもって成功したのだ。)

ニッチは、それ自体は単に「小さい」という意味しか持たない。ニッチになることでしか、本当に成しえないサービスを提供しなければ、ニッチとは弱さを意味するだけである。

スタートアップの必須要件の一つは、十分に大きく、成長する市場である。ゲリラ的(スタートアップ的)なやり方で、しかし取り組むべき市場は、将来の王道を捉えてほしい。

3. あなたのアイデアは、誰かの問題を解決しようとしているか?

CC BY 2.0: via Flickr by fostersartofchilling
  • 「何か良いことをする」ことを、皆で促進しあうためのソーシャル・ネットワーク
  • 3Dグラフィックスデザインでリアル店舗を完全に再現したECサイト

フレーズを聞いただけでは、ほとんど意味不明というサービスも少なくない。詳しく説明を受けてみても、サービスの意図が分からない、ということはしばしばだ。

インターネットが萌芽期にある国で、ネット先進国で人々に多用されている「Proven(証明済)」なビジネスをすっ飛ばして、なぜいきなり特殊で〝凝った〟ビジネスにトライしようとするのだろうか? それはたいていの場合、「存在しない問題」を解決しようとしているからである。

「あなたのそのアイデアは、本当に誰かが困っている問題を解決しようとしているのか? 誰かが欲しているソリューションか?」

基本に立ち返ってその質問を自問し、またそれを利用するであろう潜在顧客に問うてみるべきだろう。

彼らは、そのサービスのアイデアの段階では、皆「悪くないね」としか言わないものだ。しかし実際プロダクトが出来てみると、いろいろな理由を並べて使わない。だからこそプロトタイプの準備することが重要、プロトタイプをいじってもらえれば、彼らからもっと具体的な意見を引き出せるからだ。

4. シンガポールの起業家でさえ、周辺諸国進出には及び腰

A Selamat Datang picture by Masaru Ikeda

例えば、シンガポールで女性ファッションEC事業をやろうとする場合、その市場規模を推測することは、さほど難しいことではないだろう。成功してある程度の市場シェアを獲得した場合、どの程度の利益が生じるか、またそのビジネスを、タイ、インドネシア、マレーシア等で展開した場合もしかり。

シンガポールのような小さな国では、未だほとんどの(インターネット)事業は国内単独で大きくなりづらいが、一方、周辺の国々には金脈市場がいくつかある。ところが、シンガポールに限らず、海外市場をはじめから狙おうとする起業家は、東南アジアにはそれほど多く存在しない。

シンガポールからなら、ほとんどの東南アジアの国に、飛行機で1〜2時間、数千円で飛べるのにもかかわらずだ。東京の会社が大阪や福岡へ出張に行くより安くて速い。もちろん言語や文化、会社法などエントリバリアはゼロでは無いが、そもそも成立しない市場のみでやるよりは、可能性は格段に高まる。

事実、シンガポール政府はこの問題を真剣にとらえ、政府系機関が海外市場への進出促進プログラム(参考資料)に注力している。そのようなプログラムを利用してもよいだろうし、東南アジア各地で星の数ほど行われているスタートアップイベントを足掛かりに、まずは現地に飛んでみるべきだろう。

5. 海外市場についての不勉強

Facebook Prospectus: Form S-1

例えば「価格比較サイトをやりたい」という起業志望者とのこんなやりとりがあった。

Q: 「価格比較ならPricelineや、例えば旅行チケットならKayakのようなメタサーチなどもあるが、それらと同じようなものかい? あるいは何か差別化された強みはあるの?」
A:「そのプライス ナントカって何ですか?」

こういうシーンで私が言えるのは「うちに帰って、もう少し勉強してから来てください」ということだけである。

ネットで起業しようとする者は、せめて英語圏の類似サービスにおける主要プレイヤーの名前は全ておさえておくべきだろう。上場企業ならディスクロージャー資料が豊富にある。起業を志すのなら、せめてS-1(上場時の目論見書)くらいはダウンロードして熟読しておくべきだろう。

サッカーに夢中な少年で、メッシやロナウドを知らない人がは何人いるだろうか? あることを四六時中考え、夢中で大好きなら(スタートアップとはすべからく事業にそのような姿勢であるものだ)、その道の第一人者は嫌がおうにも知っていて、憧れ、マネをして、そしてあわよくば追いつき追い越したいと思うものである。

6. 起業の前から、マネタイゼーションを考えるべき

CC BY-SA 2.0: via Flickr by 401(K)2012

東南アジアは相対的にコスト、特に人件費が安い。これはコストファクタの大半が人件費であるネット系スタートアップにとっては、圧倒的なアドバンテージだ。

一方、資金調達は米国などの先進リージョンに比べて簡単ではない。IPOは未だ市場環境が整備されておらず、したがってM&Aエグジットも多くない。それゆえ、シリーズAクラスの増資を獲得できる可能性も決して高くはないわけだ。

つまりフィナンシャル・キャッシュフロー(増資による資金調達)ではなく、オペレーション・キャッシュフロー(事業により生成されるキャッシュ)によりサバイブ出来ない会社が、投資家のお金で何年も生きながらえた末に花開く、ということは極めて稀である。

逆説的に考えれば、利益が出せる/出そうな会社には、VCからの資金が集まりやすいというのが現実だ。だからこそ、東南アジアのスタートアップは、どのようにビジネスをマネタイズしていくか、少なくともそのビジネスモデルについては、アイデアの着想段階から準備しておくべきだろう。

 

ここで述べたことは、必ずしも東南アジアのスタートアップに限ってのみ注意すべき話ではない。日本もアジア的な経営環境下にあるという点では、日本のスタートアップにとっても、少なからず通じる話があるのではないだろうか。

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