日本の福袋から生まれたアイディア、シンガポールの美容定期購入サービス「Vanity Trove」の創業者にインタビュー

この記事をゲスト寄稿してくれたのは、平野奈津子さん。ストラテジストとして、国内PRから企業の海外進出、海外スタートアップの日本参入サポート、その他幅広い業務を行っています。Twitterは@natsuko3


サービスには勢いとスピードが大切。スタートアップにおいては特に重要なポイントだと、よく語られる。私が台湾のシェアオフィスで仕事をしている最中、たまたま2日間だけシンガポールから遊びに来ていた起業家、Douglas Ganに出会った。とても気さくな彼は、そのやわらかい雰囲気からは想像できない程、まさに勢いとスピードを体現していた。

Beautiful Surprises

Douglasの運営するVanity Troveは、会員制美容製品サンプル宅配サービス。「購読者」と呼ばれる会員には、毎月あらゆるビューティーグッズがつまったボックスが届けられる。ビューティーグッズといっても内容は幅広く、ヘアケア、スキンケア、ボディケア製品はもちろん、ネイル関連製品やコラーゲンドリンクから脱毛ワックス、バストアップジェル、そして生理用品までも含まれるという。購読は月々25シンガポールドル(約1,700円)で、購読し続ける限りサンプルが送られてくる。もちろん、1回(1ヶ月)で購読を停止することも可能だ。

アイディアは日本の福袋から

自分で買っているのに、何を買っているのかわからない。この感じ、何かに似ていないだろうか。Vanity Troveのそもそものアイディアは、日本の「福袋」から生まれたという。サイトもアイディアも女の子らしさが満載。そんな女の子の大好きが詰まったVanity Troveの創設者は男性2人。ビジネス担当のDouglasと、開発担当のPeng Kong Choyだ。ShowNearbyという位置情報アプリを開発し、2010年7月にGlobal Yellow Pagesに350万シンガポールドル(約2.4億円)で売却した2人。それから2年間の契約期間中、ずっと新しいことがしたくて仕方がなかったという。

2010年の夏頃、日本を訪れた際に日本独自のおもしろい習慣やアイディアを聞いた。その中に福袋があったそうだ。Eコマースに注目していた彼らは、購入率の高い女性が理想的なターゲットだと考えていたものの、自分たちが男性であることにハードルを感じていた。そこで、福袋のように顧客は自分が購入するものの中身を知らない設定にすることで、製品に関する細かな知識や女性目線に立った考え方をある程度クリアすることができると考えた。こうして「楽しく美しいサプライズ」を提供するというコンセプトができあがった。

失敗するなら素早くしたい

女性なら誰もが目を輝かせてしまうような、楽しく美しいサプライズ。ただ、ものすごく斬新なサービスかというと正直そうでもない。私が感じる彼らの魅力は、そのスピードと行動力にある。

新しい業界での挑戦であること、もともと美容業界とのコネクションがあるわけでもなかったこと、何より彼らが男性であるということ・・・。このサービス成功へのハードルは高く、最初は「失敗するなら素早く失敗しよう」と考えていたという。2011年12月にシンガポールで立ち上がったこのサービスは、なんと構想から2週間でサービスローンチに至った。サービス開始時は、まだサンプルを提供してくれるパートナーブランドもいなかったというのだから驚きだ。

「あのShowNearbyの創設者」ということもあり、シンガポールでは彼らの予想を上回る数のメディアに取り上げられた。そのおかげで、まだパートナーブランドがいないにも関わらず、10日間で200人もの購読者を獲得したのだ。そしてその話題性と購読者数の伸びから、サンプルを提供してくれるパートナーブランドも集まってきたという。開始から11ヶ月で購読者は5000人を突破。サンプルをわざわざ購入しているVanity Troveの購読者は、ビューティーグッズに対する潜在意識がとても強い。そのため、サンプルを提供してくれるパートナーブランドも増えやすいという。直帰率は15%で、特に5月に追加したユーザーコメント機能はとても有効なコンテンツになっている。

(パッケージには、Vanity Troveオリジナルのミニ雑誌の他、各ブランドのクーポンなどが入っている。)

アジアの女性に美しいサプライズを

「アジアの女性をターゲットする」という当初の予定通り、Vanity Troveは2011年12月のサービス開始以降、2012年3月にはマレーシアに、8月にはタイに、そして9月にはインドネシアにサービスを拡大しており、その勢いは衰えることを知らない。2013年2月には台湾でもサービスが開始されるという。

現在は月間40,000人がサイトを訪れ、メーリングリストには20万人の登録者がいる。ドバイ、カナダ、オーストラリアなどの国々からも登録があるが、「直接お届け」にこだわるVanity Troveはこれらの国に届けることはできない。Douglasは「この前も、フランス人の女の子がVanity Troveの大ファンだと言って、わざわざシンガポールに来てビューティーボックスを20箱買って行ったよ」と話すが、今のところアジア以外への進出は考えていないという。

今後は東南アジアに拡大を続けながら、コンテンツは広告の幅も広げ、ビジネスとしてより良いものにしていく。「美容製品の90%が日本、韓国、台湾の製品」というDouglasは、日本もマーケットとして意識しているといい、日本における事業展開のパートナー会社も探している。

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