ユーザ指向とデータドリブンーーユーザのためになることを徹底的に実践する「nanapi」のグロースハック #on_lab

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5月25日にOpen Network Labの主催で「Onlab Growth Hackers Conference 2013」が開催された。DropboxやAirbnbなど、世界規模でのグロースハックを手がけたスペシャリスト達が、それぞれのユーザー獲得の経験・事例を共有した。

プロダクトを利用するユーザ動向データを解析し、プロダクトの改善・改良を迅速に行っていくシリコンバレーで今最も注目の役割である「Growth Hacker(グロースハッカー)」について語られたセッションの模様をレポートしていく。


続いてのセッションはnanapi代表の古川健介氏が登壇。古川氏は大学在学中から、中高生コミュニティ「ミルクカフェ」代表や2ちゃんねる型レンタル掲示板「したらば」を運営していた株式会社メディアクリップ代表取締役社長などを務めていた人物だ。現在、月2000万UUまで成長したというハウツーサイト「nanapi」のグロースハックについての話を伺った。

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古川氏が考えるグロースハックとは、A/Bテストを実践することだったり、単にユーザ数を増やすことではない。グロースハックとはユーザの気持ちになって考え、仮説を立てて試行錯誤していくこと。そのため、nanapiはユーザが何を求めているのかを徹底的に考え続けることを基本としている。

自分たちのサイトに人に来てもらうことを考えるとき、ユーザのサイトの中だけの行動を考えていてはいけないと古川氏は語る。普通、ユーザは圧倒的にサイトにアクセスしていない時間のほうが多い。サイトに来ていない時間は何をを考え、何をしているのか、サイトに来るときにはどういった気持ちでサイトに来るのかを考えるのが大事。

ユーザは一体、サイトに来るまでのプロセスをどうしているのか。これを考える準備ができたら、次のステップに移る。

グロースハックする上で大事なのはKPI設定

グロースハックする上で大事なのはKPI設定だと語る古川氏。nanapiでは、「PV = KPI」だという。PVをKPIに設定し、「ユニークユーザー」「月の訪問数」「一回あたりの閲覧PV」3つの数字の組み合わせてPVがでるので、3つの数字をそれぞれ伸ばしていく必要がある。それぞれの指標に対して、とるべき改善策は以下のとおりだ。

      ユニークユーザー = SEO / 記事増加
      月の訪問数 = リピート施策
      一回あたりの閲覧PV = 回遊施策

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今回のセッションでは、とくにSEOを中心に共有が行われた。

SEO

SEOの要点は、以下の2つに分けられる。

      ・検索順位を上げる
      ・CTRを上げる

・検索順位を上げる

まずは検索順位を上げるためにとった施策から。nanapiで実施したSEO施策はテーマページの新設だ。元々、7つのカテゴリに分かれていたものを、5000のテーマに分解することでサイトを構造化した。構造化されることで、ユーザはハウツー記事を探しやすくなった。

独自に作成したハウツーに特化した構造化がされているのが特徴だ。たとえば、7つのカテゴリで分かれていたことには「恋愛」のカテゴリがあった。だが実際に女性が異性にモテる方法を探したいと思ったとき、モテるための方法自体もいくつかあり、さらに「男心を理解する」といったようなものはモテる方法の1つだったりする。構造化を追求していった結果、パンくずは「恋愛 > 片思い > 脈ありの見極め方 > 女性のサイン」というようにかなり細分化された。

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5000もの数に分けた、テーマ分けの基準は一体どのようなものだったのか。古川氏曰く、検索キーワードと本の目次を調査して作成したそうだ。テーマ分けを行おうと考えた際、分け方は分類学に寄るか、編集観点で分けるか、検索流入の観点かに分かれてくる。nanapiのテーマ分けではそれをどれかに一元化するのではなく、すべての要素を合わせて考えたという。最も重要なのは、ユーザがどんな考えをもって、そのキーワードを探そうとしたのかを考えることだ、と古川氏は語る。

テーマ分けをすることで、テーマページが検索エンジンの上位へ。「結婚」はGoogleの検索結果で4位、「Facebook」は検索結果で5位になったという。たとえば、「Facebook 退会方法」など、人々の悩みが顕在化していることは少ない。各トピックの順位ではなく、テーマ全体のページのランキングをあげることで、人々のニーズに応えようとしている。

nanapiは現在、19000個以上のテーマに分かれている。テーマページも、単なる検索結果一覧にはしていない。検索結果を並べるだけのページではなく、ユーザが理解しやすい形に編集しているそうだ。

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効率化を意識してシステムで片付けてしまいたいところを、ユーザの見つけやすさ、クリックしたくなるようにすることを意識して、これだけ大量のデータにも人の手で編集を行なっていることは驚きだ。

・CTRを上げる

検索順位が上がったら続いては、CTRの改善だ。CTRの改善にはWebマスターツールのトラフィック部分を主に活用したという。検索クエリからわかることは多く、トラフィック・検索クエリは宝の山だと語る古川氏。

検索クエリを調べ、シートを作成してキーワードの管理を実施したそうだ。そうやって本当にユーザにとってわかりやすいHTMLタイトルになっているかをしっかりと検証する必要があるという。

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「ホワイトデー お返し 義理」で検索した際に、ユーザがなかなか求めている情報にアクセスできなかったとする。そうした際には、キーワードを管理シートに追加し、記事から内部リンクをヒットさせたいページに多く貼りつけ、同じキーワードを検索した際にヒットするページを変更する。Googleではリンクが多く集まっているページを重要だと認識し、これはサイト内部でも同じことが言えるため、自分たちでヒットさせたいページへのリンクを集めるようにしたという。

また、サイト内、パンくず、ソーシャルサイト、検索エンジンなどHTMLタイトルは様々な場所で表示される。これらはすべて分けるべきだと古川氏は語る。ユーザが自分のサイトに来る前にどういった気持ち、考えなのかを考え、タイトルが表示される箇所によって、ユーザの気持ち、考えは違うはずなので、それに合わせてタイトルを最適化するために変更する必要がある。冒頭でも語られたように、ユーザがサイトに来てからのことだけを考えていてもダメなのだ。

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ディスクリプションも、テンプレにしてしまわないで、すべてオリジナルで執筆しているという。ユーザがわかりやすいように、ちゃんとそのページの説明を丁寧に入れようにしているとのこと。テーマ分けや、テーマページの編集作業と同様に、ここも人的作業となっている。タイトル、パンくず、ディスクリプション、そのすべてがわかりやすく説明されているようにする。CTR改善のためには細かく対応していくことが重要だと古川氏は語る。

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スマートフォン用にも対応しており、ディスクリプションが最初の50文字程度で一度文末になるように調整している。これは検索結果で表示される文章が省略されない文字数に設定している。

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月の訪問回数を増やすには?

SEOが中心に語られたセッションだったが、訪問回数を増やすために行った施策についても触れられた。nanapiで月の訪問数を増やそうと考えたときに、「そもそもnanapiを知らないで見ているのではないか?」という仮説が立てられたという。

インターネットで調べたいことがあったときに検索して到達したサイト名前は知らないこともある。ハウツーの内容を検索する回数は、一般的に一人あたり月に1.5回〜2回と言われているという。つまり、ほとんどのユーザーはたまたまnanapiに来ているだけ。では見ているハウツーサイトが「nanapi」であることを訪問者に意識させると、訪問回数の数字が改善されるのでは?と考えたそうだ。

nanapiを意識させるために実施したことは、「nanapiとは?」のaboutページを見せること。aboutページを見たユーザは見ていないユーザに比べて、平均で2倍の回数訪問する傾向にあることがデータ解析でわかり、初回ユーザはなるべくガイドを踏ませるようになったという。どういう状態になったらユーザはリピートするのかを分析しなければならず、そのために色々な試行錯誤を行ったそうだ。

ユーザ観点で数字を改善し続ける

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最初の段階では、SEOやソーシャルメディアへの施策をうち、どうやってサイトに来てもらうかを考えました。今は次の段階に入っていて、月の訪問回数を改善しています。ひたすらユーザ視点に立ち、どうやったらもう1回サイト来てくれるのかをひたすら考えながら改善を重ねています。これがなかなか数字に出にくい部分なので、色々考えながら試行錯誤しています。

たとえば、nanapiに来たときに「Facebook 退会」の記事を読んで満足した人はどういった人なのか、データからではわからないと古川氏は語る。すぐに離脱した人なのか、ずっと読んでた人なのか。マウスカーソルを多く動かした人で、記事を3分の2以上スクロールした人なのか。こういった仮設を立て、実験しているという。

サイト内で何らかのアクションをした人は訪問回数が上がっているそうで、「1回デートした子は次から口説きやすい」のと同じように、どうユーザの心理的なハードルが下げ、仲良くなれるかが次の課題だと古川氏は語っていた。

この他にも、SEO施策でテーマの細分化を行い、階層を深くしたことにより、階層を深くすればするほど、構造化の観点とUI観点が一致しないことがあるというデメリットもあるという。こういった課題にも、nanapiは今後改善を重ねながら対応していくのだろう。

ユーザの立ち場になってみて、サイトに来る前の行動から考えて対応していき、データ・ドリブンに改善を重ねていく。こうしたnanapiの姿勢から学べることは多いのではないだろうか。


この記事は、5月25日に開催されたGrowth Hack(グロースハック)をテーマにしたカンファレンスのレポート。他のセッションについては「Onlab Growth Hackers Conference 2013」でまとめている。

今カンファレンスを主催したOpen Network Labはスタートアップを支援するSeed Accelerator Programの第7期を2013年5月31日(正午)まで受付を行なっている。

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