ルクセンブルクで開催された #ICTSpring 2013 から、今年のヨーロッパを賑わすスタートアップを一挙紹介

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ict_spring_2013_logo世界には起業家を率先して海外から集めている国がある。シンガポール、チリ、カナダ、オーストラリア、そして、ルクセンブルクだ。これらの国々の共通点は、20世紀にタックス・ヘイブン(租税回避地)や天然資源の採掘で世界の富を集めたのに代えて、今後は世界から前途有望なスタートアップを集約し、国の運命を託そうとしていることだ。

ヨーロッパのほぼ中央に位置する小国ルクセンブルクには、多くのインターネット企業(その昔はスタートアップ)がヨーロッパ進出拠点を置いている。楽天、Nexon、Amazon、NetFlix、Skype(後に Microsoft に買収)など、彼らのヨーロッパ展開はここから始まっているのだ。今月中旬、世界中から投資家や起業家が一堂に会するイベント ICT Spring がルクセンブルクで開催された。年に一度開催される2日間に渡って開催されるこのイベントは、今年で4度目を数える。

イベントは、スタートアップやブース出展、投資家やスタートアップ・コミュニティの人々によるスピーチ、パネル・ディスカッション、ピッチで構成されている。世界で催される他のイベントと少し違うのは、ブース出展しているスタートアップのすべてがピッチできる点だ。この種のイベントにありがちな、ファイナリスト10社の中から優勝者を決める、というようなプロセスが存在しないため、すべてのスタートアップが公平に機会を得て、投資家や他の起業家に対してピッチすることが可能だ。

アジアやヨーロッパを中心に60〜70社程度のスタートアップが集まっていたと思うが、その中でも特に印象に残ったスタートアップを紹介してみたい。(順不同)

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Chatwork(日本)

chatwork_logo

http://www.chatwork.com

2011年3月にスタートした、グループチャット、タスク管理、ファイル管理、ビデオ通話などが可能な法人向けのクラウド型ビジネスチャットツール。2013年6月時点でのユーザー数は200,000ユーザを超える。フリーミアム・モデルを採用しているが、有料ユーザ率は 4〜4.5% と高く、毎日5万ユーザー以上がログインする。Sunnyvale の Plug & Play Tech Center にオフィスを開設し、今年初めにはアメリカで営業展開を開始した。今回の ICT Spring 参加を機に、ルクセンブルクにヨーロッパ・オフィスを開設する予定だ。

chatwork_at_booth

Ubook(アメリカ)

http://www.najmstore.com

najmtek_logoタブレット、ラップトップ、Windows 7 の要素を1台の実現したラップトップPC。キーボード部にはマルチタッチ・スクリーンを採用、指やスタイラスで操作が可能だ。筆者の場合、原稿は普段 MacBook Air で書いているが、大きめのシステムやアプリを組んだりするときは Windows のラップトップを使っている。タブレットは携帯に便利だが「さすがにコーディングには辛いよね」という開発者も多いだろう。Ubook はそれらのニーズを1台に集約してくれる。

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SwingMail(日本)

swingmail_logohttp://swingmail.co

日本のスタートアップ BHI から7月にリリースされる予定の、スマートフォンで連絡を効率化してくれるアプリ。Gmail、Twitter、Facebook、かかってきた電話をこのアプリ上に集約、cc やスパム、連絡先に未登録の相手からのメッセージを取り除いて表示し、ユーザはそれらのメッセージに返信することができる。新規のメッセージ送信はできず返信機能に徹することで、優先順位の高い連絡を効率的に処理する機会を提供する。SwingMail で処理できない連絡需要、つまり、優先順位の高くない連絡については、ユーザがオフィスや自宅に戻った後、デスクトップやラップトップに処理するとの考えに基づいている。

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SalesClic(フランス)

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http://www.salesclic.com/

Google Apps、37signals の CRMツール Highrise、SalesForce.com などと連携して、売上見込を見える化し、売上分析、売上予測を可能にする SaaS アプリケーション。昨年末の SalesForce AppExchange Customer Choice Award では Analytics 部門賞を受賞。営業プロセスの管理をシンプルにし、最適化しやすくする。ベネルクス市場(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)では、現地ITベンダーの Eurosys との提携により提供されている。1ユーザ当たりの月額使用料は15ユーロだ。

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Kidoria(ルクセンブルク)

kidoria_logo

http://www.kidoria.com

子供が居る両親向けに、子供の成長を記録し、家族で共有するためのサービス。写真、ビデオ、ポッドキャスト、医療記録、卒業証明書などを集約することができ、子供のそれまでの生い立ちを何度でも再生することができる。従来の写真アルバムの概念をデジタル化することで、子供の頃の記録を無くすリスクが無くなる。将来の自分にメッセージを送信することもできる。

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Dialective(オランダ)

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http://www.dialective.com/

インターネット上で紹介するプレゼンテーションに図や表を簡単に組み込めるようにしたプラットフォーム。Slideshare の図・表版と考えればよい。複数のスタイルが予め用意されており、ユーザは簡単にインタラクティヴな図や表を作成することができ、Slideshare と同様にウェブサイトなどに貼り込むことができる。現在の売上は月間1.5万ユーロで、10万ユーロを資金調達中。さらに今年の年末には30万ユーロの資金調達を目標としている。

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Twelixir(ルクセンブルク)

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http://www.twelixir.com/

Guy Kawasaki はこう言っている

実のところ、Twitter のユーザには2種類しか居ない。より多くのフォロワーを欲しがるユーザと、ウソをつくユーザだ。

Twelixir は、Twitter 体験を改善し、ツイートの影響力を強化するためのソリューションだ。つぶやきのインタラクション、インパクトを、リアルタイムと履歴の両方で分析し、どのような対応をとればよいか、アドバイスや戦略を教えてくれる。プライベート・ベータ版は1ヶ月後、パブリック・ベータ版は9月のリリースを予定。現在は Android 版のみを開発中である。

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Sprawk(スウェーデン)

sprawk_logo

http://www.sprawk.com

機械翻訳はまともな翻訳結果が得られない。人による翻訳は信頼できる翻訳結果が得られるが、時間がかかり、費用が高価で、翻訳者によって表現の仕方が異なって来る。機械翻訳と人による翻訳の〝いいとこ取り〟をすることで、人による翻訳に要するコストの30%を削減する。あるウェブサイトを立ち上げたとき、同一の複数言語サイトを構築するのに利用されることを想定しており、ターゲットとなる顧客はEコマースサイトである。先日、SD Japan で紹介した World Jumper にコンセプトが似ている。

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MyScienceWork(ルクセンブルク)

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http://www.mysciencework.com

学術情報を誰もが自由にインターネット経由で閲覧できる状態にする「オープンアクセス」の精神に則り、科学者や学生が、データシート、プロフィール、履歴書、出版物、論文などを公開・共有できる科学者専門SNS。このSNS上では、科学者同士がイベント情報や求人情報を共有することができる。2013年6月現在、1万人を超えるユーザが登録している。

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AirBoxLab(イギリス)

airboxlab_logo

http://www.airboxlab.com/

室内の空気品質をモニターするデバイス。空気汚染からはさまざまな身体の不調が誘発される。一酸化炭素、二酸化炭素、温度、湿度、室外の空気汚染状況等をクラウドと連携してモニターし、空気の状態を改善するためのアドバイスをしてくれる。家具がアレルギーに対して安全かどうかについてチェックする機能を持っており、その結果はクラウド上に集積され、他のユーザと共有することができる。

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Monaca(日本)

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http://monaca.mobi

クラウド上で Android や iOS 用のアプリ開発が可能な環境を提供。作成された画面遷移や動作は、コンパイルする前に画面上で確認することが可能。代表の田中氏によれば、世界を見てみても同様な環境を提供するサービスは皆無であり、日本の内外で学校でのアプリ開発授業などに多用されているとのことだ。6月には、スピナー機能、ページ背景や方向指定に対応した。

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Conyac(日本)

conyac_logo.gifhttp://conyac.cc

先頃、サンフランシスコへの進出を果たした Conyac であるが、現在、シンガポールとルクセンブルクへの進出を準備中だ。シンガポールもルクセンブルクのいずれの国もマルチリンガルな国なので、Conyac の翻訳者の確保にはもってこいの環境なのだと言う(山田氏)。スロベニア出身で、普段はサンフランシスコ・オフィス駐在の Una Softic がピッチを担当した。

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Uplike(フランス)

uplike_logohttp://www.uplike.com

個人の関心事をリアルとネット上の両方でブックマークできる。例えば、気に入ったレストランをブックマークしようとすると、リアルでは GPS 上でチェックインと紐付け、写真をブックマークすることで、ありがちなショップカードの紛失等の問題も解消できる。友人がブックマークしたショップ、レストラン、ホテル等を参照することができ、キーワード検索できる。友人が Uplike を使っていなくても、Facebook、Twitter、LinkedIn 等から過去の投稿を検索し、キーワードに合致する情報を表示する。

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TeeBee(ルクセンブルク)

teebee_logo

http://www.teebee.me/

スマートフォンのカメラを投影することで、マーカーの上に購入しようとする商品の画像を合成。例えば、Eコマースで購入しようとしている家具を、実際に部屋に置いたときにどのような見栄え、配置になるかを事前に確認することができる。Eコマースの販売促進につなげるソリューション。

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ここに紹介したのは、ICT Spring で話を聞くことができたスタートアップのごく一部であることをお断りしておく。他にも面白いスタートアップがいくつかあったが、サービス内容がステルスであったり、彼らのマーケティング戦略の都合で紹介できないものがあったりするので、時期を見て改めて紹介したいと思う。

会場で印象的だったのは、多くのブース出展企業がオードブルやビール、シャンパン、ワイン等を振る舞っていたことだ。意外に費用もかかるので、出展者が無尽蔵に食べ物やアルコール類が無料提供されることはどんなカンファレンスでも皆無だが、ルクセンブルクのもてなしの精神の賜物というべきか。

japanese_coolingfans会場に居たスタートアップの多くは、近隣のイギリス、フランス、ベルギー等から来ていたが、参加者全体の10〜20%を日本のスタートアップが占めていたので、日本のプレゼンスは小さいものではなかった。イベント当日となった6月中旬は、ヨーロッパのこの時期に珍しく夏日で、起業家達の熱気も手伝って場内は非常に暑かったのだが、日本の Conyac やネコジャラシがプロモーション用に持ち込んだ、ウチワや扇子が参加者に配られ、非常に重宝していた。会場の随所では、参加者の多くがこのウチワや扇子で暑さをしのいでいて、ヨーロッパの真ん中の国で開催されているイベントに、和の雰囲気を演出しているのが面白かった。

ICT Spring の開催にあわせて、今回、ルクセンブルク国内の複数のスタートアップやインキュベータを巡ることができた。それらについては、近日中に改めてお伝えしたい。

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