台湾のインキュベータappWorks(之初創投)創業者・林之晨氏インタビュー前編「政府による起業支援は必要ない」

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政府は起業を支援するべきなのだろうか。もし、支援すべきなら、何をするべきなのだろうか。

政府による起業支援という点では、シンガポールの事例を無視できないだろう。

シンガポールは2010年から国家レベルでイノベーションと起業推進計画を開始しており、これがインターネットやソフトウェアのトレンドを創り出している。政府が直接投資をするシンガポールでは、政府がリスクを取り、スタートアップ、ベンチャーキャピタル、消費者、その他企業、それに政府自身も利益を得られるようになっている。この状況を見て、多くの台湾の起業家がシンガポールをうらやましがるが、しかし、私がこの都市国家を訪問してみると、シンガポールの市民は政府が深く関与していることに必ずしも好意的ではなく、彼らは台湾が民間による自発的な起業のエネルギーを持っていることをうらやましがっていた。

最近、Inc.誌にこの話に似たコラムが掲載された。そのタイトルは、「Government Shouldn’t be in the Accelerator Business(政府はアクセラレータ・ビジネスに関わるべきではない)」。このコラムの著者は、シリコンバレーで Y-Combinator の次に大きなアクセラレータ TechStars の共同創業者 Brad Feld で、彼は「(アクセラレータは)明らかに民間にできること。にもかかわらず、なぜ多くの人は政府が着手すべきだというのだろうか。」と語っている。

シンガポールと同様に、台湾は天然資源に乏しく、国内市場は非常に小さい。産業の進歩と革新が進む中、台湾はシンガポールよりも厳しい局面にさらされている。政府は何をすべきなのだろうか。何人かの台湾の起業家がうらやむように、シンガポール式のやり方を台湾に移植すべきだろうか。

同じくインキュベータという形でベンチャー投資をする、台湾の appWorks(之初創投)の共同創業者・林之晨(リン・ジーチェン、英文通称 Mr. Jamie)は Brad Feld と同じく、政府は何もしないでいるべきと考えるのだろうか。TechOrange は林氏を特別取材し、民間のインキュベータの立場から、台湾の環境や人々の考えをかんがみ、台湾政府がどのようにインキュベーションに関与し介入すべきかを聞いた。(appWorks は第7回インキュベーション・プログラムをまもなく開始する。)

  • 取材:張育寧(チャン・ユーニン)/鄒家彥(ゾウ・ジァヤン)
  • 構成:鄒家彥(ゾウ・ジァヤン)/楊文心(ヤン・ウェンシン)
  • 翻訳:池田将

TechOrange(科技報橘)編集長・張育寧(以下、張と略す):

シンガポール政府は、かなり積極的に国の財源を投入し、起業を促しています。シンガポールの起業家の話を聞いて、シンガポールのことをうらやましがる人は少なくありません。台湾の起業環境を見たとき、シンガポールのやり方を台湾にも移植すべきだと考えますか。

appWorks(之初創投)創業者・林之晨(以下、林と略す):

私たちは、王建民(ワン・チェンミン、台湾出身でNYヤンキース所属の野球選手)を複製しようとし、Facebook を複製しようとします。明日の王建民を作り出そうと、彼になり得る人のグループを選び出すことはできるでしょう。しかし、野球をする人すべてが王建民になれるわけではありません。起業家育成で3人を選ぶときに、「この人たちには可能性がある、しかし、それ以外の5人には可能性がない、だから、この3人に支援することにした」というようなことは、政府にはできない。

つまり、本質的には、明日の王建民を育てようなどということは、政府にはできないわけです。政府にできるのは、川辺の球場を整備し、みんなが野球の練習ができる環境を作ることです。起業支援はこれに似ていて、政府がすべきなのは障害物を取り除き、よい環境を作ることなのです。

障害物はたくさんあり、多くの人はすぐにボロボロになってしまいます。でも、私はこのことを話したいのではありません。例えば、技術株に対する制限。現在の規定では、技術に投資していいのは、自社株の最高15%までに制限されており、Mark Zuckerberg のように、起業家が 50〜80% の株式を保有するのは不可能です。その上、技術株には税金が課せられ、起業家が技術株を取得するとき、全く現金収入が無いにもかかわらず、株式の評価額に対する税金を支払わなくてはなりません。問題は、その起業家は現金を持っていないのに、課税をする必要があるか、ということです。

この制度の下では、私が1,000万ニュー台湾ドル(約3,360万円)相当の資本金の会社を持っていて、株式80%を創業者が取得したい場合、650万ニュー台湾ドル相当は手にできても、150万ニュー台湾ドルは税金として払わなくてはなりません。少し数字を上乗せをして、創業者は700万ニュー台湾ドル相当を取得できたとしましょう。ここで問題は、創業者が既に 700万 を手にしているのに、追加で投資家から200万を求められるか、ということです。そんなことはあり得ません。

人材に話を移せば、例えば、兵役の問題。台湾の大学生は卒業後、兵役に就かなくてはなりません。だから、学校に通いながら創業してしまった Mark Zuckerberg みたいにはなれないのです。

もちろん、政府は兵役に代えて、起業家が会社を興すことを許しており、この場合、自分で自分を雇うことになります。しかし、同時に兵役から逃れようとする人が出て来る弊害があります。それに、考えてみてください。ビジネスから700万ニュー台湾ドルを生み出せても、その後、兵役に就いている間、自分を雇うことはできません。兵役期間中、創業を手伝ってくれる他の誰かを雇わなければならないのです。

さらに資金法。現在の資金法が考慮に入れているのは、大銀行や金融グループの要求であって、小さなネット企業の要求は考慮されずに制定されています。大企業が資本を自由に利用したり売却したりできないようにするため、厳格なルールが定められているが、小さな企業には到底負担できないコストになっています。

張:

台湾政府を他の国と比べると、どうでしょうか。シンガポールで、あなたがご覧になった経験はどうでしたか。

林:

国によって置かれている環境や市況は異なり、機会や問題もさまざまです。シンガポールの優位は、東南アジア各国の起業家を魅了できることであり、彼らにシンガポールで創業することに魅力を感じてもらい、それによって、シンガポールはより国際性を増しています。しかし、それは大きなものではありません。なぜなら、東南アジアは全世界を代表してはいないからです。

しかし、東南アジア各国の法律や制度は、資金調達を比較的容易にしています。その多くは政府からの共同投資であり、起業家は平均60万米ドル程度を調達できています。営業コストは、これらの国々よりも台湾の方が高く、概ね3倍以上。台湾が50〜60万米ドルであるのに対し、東南アジアでは20万米ドルで済みます。

起業家にとって、資金調達のしやすさは重要なことです。この点に関してのみ言えば、シンガポールの環境は台湾よりも遥かに恵まれていると言えるでしょう。

政府による投資は、リターンを期待しない、社会教育の一環か

IMG_29771-e1368094600673張:

台湾は、シンガポールのやり方を見習うべきでしょうか。

林:

長期的には、いいやり方でしょう。社会を教育する一環ととらえるならば。

創業初期には、学ぶべきことがたくさんあります。政府が介入することで、人々が起業家精神を身につけるのに役立てば、仮に起業家がビジネスに失敗しても、他の企業に就職して起業家的な価値観で仕事することで、その企業にはプラスに働きます。

政府の起業支援への関与は、大学の授業料を補助するようなものです。台湾では、高等教育と社会で必要とされていることとの間の乖離が大きくなっています。政府によるスタートアップ投資は、教育のギャップを埋めることに大きく貢献するでしょう。

張:

お話を聞いていると、政府による投資を、林さんは在職教育の一環と見ておられるようですね。この種の教育は公の力を使って、民間企業の力を創造しているのだ、と。

事実、シンガポールの状況を見てみると、まさにそういう意味があって、首相官邸直属の組織 NRF(シンガポール国立研究財団) は、シードやアーリー向けの投資を主導しており、投資先がたとえ失敗してもよく、成功率を求めません。NRF は現在のシンガポール大統領 Tony Tan(陳慶炎)が2006年、彼が政界に転ずる前のメディア・金融業界に居た頃に設置しました。大統領は 2008年に行った演説の中で、「シンガポールは世界経済の構造変化に直面しており、この変化に対応すべくシンガポール国民を教育することを意図して、政府はイノベーション・プロジェクトに投資する基金(NRF)を設立する。」と語っていますね。

林:

おっしゃる通りです。政府の投資は、高いリターンを求めるベンチャーキャピタル投資ではありません。起業は失敗率が高いです。95%〜98% は失敗するでしょう。しかし、政府の視点からすれば短期的な経済価値の増加には何も期待していません。彼らは長期的な経済効果への波及を期待して、このような方法に注力しているのです。例えば、シンガポールは、このアプローチによって、力強い起業コミュニティを育成しています。

もし政府にその自覚がなければ、彼らは投資計画の1年後、何人がお金を手にしたのに成功できなかったかを調べるでしょう。そして、翌年の計画はさらに敷居が高くなり、当初設定した KPI から大きく乖離したことに気付き、計画をすべて中止してしまうはずです。

デタラメに聞こえるかもしれません。最近、私たちの所に、政府の支援プログラムに申し込んだチームがやってきました。プログラムに申し込んだら、それを審査した教授が言ったそうです。「100万で申請したんだね、ならば、社員2人にして申請した方がいい。」

教授はすでに補助金を申請済だと考えて、さらにいくつかの雇用ポストを追加させようとします。しかし、起業家は2人増員すべきだなんて知らず、100万ニュー台湾ドルは1年では使い切れず、当初の100万の申請は必要なくなるわけです。

これらの審査を実施する教授は投資と収益のバランスを理解しておらず、KPI が理想値に近いかどうかのみで判断してしまうのです。そして、審査会では、その気がないのに成功する一言を述べることが、チームの KPI になります。この判断をする審査会の記録には、必ず「もう2人増やす」という一文を含まなければなりません。

多くのチームは政府に補助金申請を出した後、教授へのプレゼンテーションをどのようにすればパスできるかだけを学びます。こんなプロダクトが実社会で成功できるでしょうか。彼らは実社会でのことなど構わず、お金をもらう方法、教授をうなずかせる方法のみを学ぶのです。

政府はこのような起業チームに資金を出し、そのチームがベンチャーキャピタル投資を得て、長期的な経済発展に寄与することを期待します。しかし、実際には全く反対の結果を招きます。ベンチャーキャピタル投資の如何が、そのビジネスの持つ可能性を表しているとは限りませんが、得られた評価をすべてベンチャー投資に置き換えたいのなら、条件審査の結果を開示し、市場が成功基調になかったとしても、資本市場からの投資を本当に望むなら、その審議結果を最大限に資金調達に活用すべきです。

再び、政府による投資に話を戻すと、さきほど話したように、政府は常にこの話を先延ばしにしていますが、もう免れることはできません。なぜなら、民間が、政府による〝起業教育〟を許すことはあり得ないからです。この政策に関しては、あと2〜3年のうちに、目立った成果が見られなければ、政府が追及を受けるのは免れないでしょう。そういう理由から、私は政府がスタートアップ投資で産業を育てることは適当ではないと考えています。

民間の起業振興と政府の起業振興は違います。国会議員も(起業振興を担当する)役人を質問に呼び出すことはできても、我々 appWorks を呼び出すことはできません。私は appWorksで働いていて、何に対しても厚かましくやれば行けると思った。詹宏志(ジャン・ホンツェ、台湾の作家、映画人であり出版人)さんもこう言ったでしょ?「俺の一生では、一番すごいのはこの厚かましさなんだ」と。

一言で言えば、政府によるスタートアップ投資は Practical Training です。起業家は教室の中では何も学べないし、現実の世界に飛び込まなければなりません。ベンチャーキャピタルは明らかにあなたが学ぶのを助けるわけでもありません。したがって、政府は起業家に授業料を与えるとともに、相応にダーティーな実際のビジネス社会を体験させるべきでしょう。でも、私は台湾政府がこのようなことをすべきとは思いません。目的を間違えれば、負の部分だけが残るからです。

【原文】

後編に続く。

【via TechOrange】 @TechOrange


著者紹介:鄒家彥(ゾウ・ジァヤン)

人々のため記事を書きたいと思っている。興味深い話、読んでほしい話、見逃せない話を執筆してきた。起きているときはリラックスし、寝ているときは夢を見るのが好き。最近見た印象的な夢は、俳優・余文楽(Shawn Yue Man-Lok)が TechOrange(科技報橘)で仕事していたシーン。