「(ほぼ)なんでも自分たちでつくる時代」ーーデジタルファブリケーションとは一体何か

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先月開催されたInfinity Ventures Summit 2013で、「デジタルファブリケーション」をテーマにしたセッションがあり、SdでもRickがその模様をレポートしてくれた。

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だが、デジタルファブリケーションという言葉を耳にしたことがあった人は一体どれくらいいるのだろうか。今回は、このデジタルファブリケーションという言葉に焦点を当て、紹介していきたい。

「ものづくりのデジタル化」と「パーソナルファブリケーション」

まず、デジタルファブリケーションの潮流について理解する際に、最初に触れておくといいのは、MITビット・アンド・アトムズセンター所長のニール・ガーシェンフェルド氏の著書「ものづくり革命 パーソナル・ファブリケーションの夜明け(原題:Fab: The Coming Revolution on Your Desktop–from Personal Computers to Personal Fabrication)」だろう。

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この著書の中で、ニール氏はかつて大型計算機がデスクトップPCに変わってきたように、各種工作機械も小型化し安価なものとなり、ついにはPCのように各家庭に置かれるレベルになると指摘している。

これまではメーカーにしか配備されていなかったような3Dプリンターや、レーザーカッターなどの機械が、人々の手に渡るようになり、モノづくりがパーソナルなものになっていく。

これまで手作業で作成していたものも、デジタルデータを用いてアウトプットが可能になるというモノづくりのデジタル化も進んでいく。これらはかつてグラフィックのデザインなどが、一部スキルを持ったデザイナーにしかできなかったことが、Adobeソフトの登場により、その間口が広がったことに近いかもしれない。これらの2つの流れをあわせて、デジタルファブリケーションと呼べる。

日本におけるデジタルファブリケーション

日本においてデジタルファブリケーションの第一人者は、IVSにも登壇された田中浩也教授だろう。田中教授の著書、「FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」 」は、デジタルファブリケーションを理解するための良書だ。彼が代表を務める市民工房のネットワーク「FabLab Japan」と、ロフトワークが運営する渋谷にあるモノづくりカフェ「FabCafe」が、人々にFabにふれる機会を提供している。

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FabLabは、2002年にスタートした。その工房は世界20カ国以上50か所以上に存在しており、アメリカやヨーロッパの先進国ばかりでなく、ケニアやアフガニスタンなどの途上国にも広まっている。日本では2011年に「FabLab鎌倉」と「FabLabつくば」がオープンしている。FabLabはこれらの工房のネットワークを通じて様々なコラボレーションを行っている。

FabCafeは渋谷の道玄坂に位置するモノづくりカフェ。2012年にオープンし、先日一周年を迎えた。5月には台湾・台北のクリエイティブ開発特区 「Huashan 1914 Creative Park」に「FabCafe Taipei」をオープンすることを発表。FabLabとはまた別に、Fabの精神を世界に広めようとしている。

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話は少し逸れるが、台湾では、修理をお願いしたいときに修理工を探すことができるホームリペアのマーケットプレイス「5945(呼叫師傅)」が今勢いに乗っているという。2011年にローンチした、FabやEdsyのようなデザイナー品やハンドメイド商品を扱うオンラインマーケットプレイス「Pinkoi」も急成長していると聞く。

DIYやモノづくりといった点では無視できない場所だと筆者は考えている。さて、話をファブリケーションに戻そう。

“ソーシャル”なファブリケーション

ニール氏はパーソナルファブリケーションを提唱していたが、田中教授はソーシャルファブリケーションという言葉を用いている。FabLabは、世界中のあちこちに存在し、その地域に根ざしてコミュニティを形成している。先進国と新興国の双方を横断し、国境を越えて、必要とする場所に必要とする技術を送り届けることが目標としている。

パーソナルファブリケーションと、ネットワークがあれば、どこかの地域で生まれた素晴らしいデザインプロダクトが、一瞬にして世界中で共有されることが可能になる。同じ工作機械を備えていれば、データさえ送れば別の場所でも同じプロダクトがつくり出せるはずだ。あとは、各地域で使用可能な素材は異なるため、それはローカライズが必要になる。

ソーシャルファブリケーションについて詳しくは以下の記事を読んでもらいたい。

【参考記事】

デジタルファブリケーションのような流れが広まる中、どういった変化が起きていくのか予測していくことが非常に重要だ。IVSにおいて田中教授が述べたように、近い将来文房具店は、消費者自らが文具をデザインする立場となり、衣料品店も同様に、消費者自らが服をデザインできる場になる可能性もある。

デジタルデータで文房具や服などの日用品を購入し、家においてあるプリンターで形にする行為が普通になるかもしれない。今後もデジタルファブリケーションに関しては発信していく予定だし、これ以外にも人々の生活や社会に影響を与えそうなテクノロジーや動きを紹介していきたいと思う。

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