6月17日から約1週間にわたって、筆者はルクセンブルクを訪れていた。ルクセンブルクはフランス、ドイツ、ベルギーに囲まれた小国で、面積は神奈川県とほぼ同じだ。ヨーロッパのスタートアップ業界のハブの一つになりつつあるこの地で、毎年6月に政府主導で ICT Spring というカンファレンスが開催されている。(詳細はこの記事でカバーしている) 現在のルクセンブルクは、活動的なシード・スタートアップのコミ…
6月17日から約1週間にわたって、筆者はルクセンブルクを訪れていた。ルクセンブルクはフランス、ドイツ、ベルギーに囲まれた小国で、面積は神奈川県とほぼ同じだ。ヨーロッパのスタートアップ業界のハブの一つになりつつあるこの地で、毎年6月に政府主導で ICT Spring というカンファレンスが開催されている。(詳細はこの記事でカバーしている)
現在のルクセンブルクは、活動的なシード・スタートアップのコミュニティが存在するというよりは、一定のステップを経たスタートアップが、次なる活路を見出しにやってくる場となっている。バルト三国のエストニアで産声を上げた Skype が、資金調達を目指して本社をルクセンブルクに移転し、その後、eBay や Microsoft に買収されるに至ったのは有名な話だ。
ルクセンブルクの空の玄関、フィデル空港から程遠くないエリアに Kirchberg という新市街が広がっている。その名も John F Kennedy と名付けられた広幅道路が街を縦貫しており、景観を守るため車両の進入が制限されている旧市街とは対照的に、EUの支部や政府機関、ビジネスセンターなどが密集していてアクセスしやすい。訪問したルクセンブルク商工会議所はガラス張りの近代的な建物だったが、もはや手狭になりつつあるようで、隣に新館を建設中だった。
いろんな国のスタートアップと会って来た立場から、ルクセンブルクのスタートアップやテック企業で働く人々を見て思うのは、見るからに心に余裕がある点だ。アメリカのスタートアップは一見ロジカルでストイック、アジアのスタートアップはラバータイム(または,インドネシア語で jam karet)・ベース、それに対して、ルクセンブルクをはじめとするヨーロッパのスタートアップはあくせくしていない。彼らは別に悠々自適に時間を過ごしているわけではないが、要するに「人生を楽しむのを犠牲にしてまで、スタートアップしてどうするの?」ということだろう。結果として、スタートアップすることが楽しみにつながっている。うらやましいのは、職場と息抜きの場、住居が近いことだ。
例えば、イベントの合間を縫って、ルクセンブルク中央駅(Gare Centrale du Luxembourg)近くにある Nexon Europe のオフィスを表敬訪問してみたのだが、そこからルクセンブルク随一の繁華街・ダルム広場(Place d’Armes)にあるバー密集地まで徒歩で10分だ。街一帯に HotCity という公衆WiFiサービスが提供されており、スマートフォンは国際ローミングしなくても、飲食をしながら高速なネットサーフィンが楽しめる。ダルム広場からさらに10分も歩けば、風景はまるで奥多摩の山の中のようになり、ホテルにたどりつくことができた(下写真参照)。他のヨーロッパの都市と違って治安がいいので、深夜に酔っぱらいながら無防備に歩いても、強盗やひったくりに合う可能性は低い。雑多なことに気をとられないで済むので、一日の体力の多くをビジネスに注いでも、疲れ果てて家路につくことはまずないだろう。
近隣のヨーロッパ諸国に比べ、日本人にとって馴染みが薄い国ではあるが、ヨーロッパ展開を模索するスタートアップにとって、ルクセンブルクへの拠点開設は一考の価値がありそうだ。実際、今回の ICT Spring 2013 を機に、ChatWork や Conyac は、ルクセンブルクにヨーロッパ拠点を開設すると発表した。今後、さらに多くの日本のスタートアップが彼らに続くことを期待したい。