サービス立ち上げのためには、核となる思いや創業者の経験があるかどうかが重要だ。その思いを情熱を持って取り組み、形にしていくことが創業者には求められる。
トリッピース代表取締役CEOの石田言行氏は、みんなで旅を作るソーシャル旅行サービス「トリッピース」を運営し、現在ではユーザ数5万人を超えるサービスとしてユーザに旅行の新しい体験を提供している。
同氏がMOVIDA SCHOOLで語った、サービス立ち上げと成長の軌跡についてまとめた。
アイデアではなく、体験から作ったサービス
学生時代に、バングラデシュにあるグラミン銀行を見に行きたいと考え、その気持ちをTwitterで投稿したら共感した18人が集まって一緒に旅行することになった。そのバングラデシュスタディツアーが自分自身の大きな感動体験であると同時に、トリッピース立ち上げのきっかけとなった。その体験を仕組み化できないかと考え、起業することにした。
アイデアだけだと確たるものがなくぶれてしまうことがあるが、体験から導き出したものだからこそ自分の中に絶体的な軸がある。自分の中の軸を持っているからこそ、サービスの本質を常に意識することができる。
メンバー全員が同じ思いを共有すること
起業にあたり、ビジネスコンテストなどに出場しながらサービスをブラッシュアップしていった。2011年5月にα版をリリースしたが、デザインはクラウドソーシングで頼んだ海外のデザイナーだったため、サービスに完全にマッチするとは言えなかった。
その後、メンバーと一緒にシリコンバレー合宿に行った際、当時シリコンバレーにいた現楽天の本間毅氏から「トリッピースを一言で表すと何?メンバー全員が同じ説明ができる?」といった言葉に自信を持って返事できなかった。そこから、メンバー全員で改めてトリッピースについて議論し、自分自身が経験した体験をメンバー全員と思いを共有することに時間を費やし、トリッピースとは何かを深く考えた。
立ち上げのコアメンバー全員が、同じ哲学を持ってプロダクトに取り組まなければ、どこかで歪が出てしまう。みんなが同じ思いと方向を向くためには、サービスについての統一した考えができるまで議論することが大切だ。
自分の思いが形になったことへの自信
2012年の2月から3月にかけて、南米マチュピチュのウユニ塩湖ツアーに40名が参加した企画が1つのターニングポイントだった。それまでトリッピースでは様々な企画が立ち上がっていたが、その多くは自分が企画したものばかりだった。
しかし、このウユニ塩湖企画は始めて自分以外の人が立ち上げた企画だった。自分が企画していない旅行だったがツアーは大成功し、参加した人たちが投稿した様々な写真を見てとても感動した。
それまでは自分の経験をもとにサービスを作っていたが、本当にみんなも自分と同じ感動を経験してくれるのかが分からなかった。しかし、ウユニ塩湖企画を通じて自分の考えが間違っていなかったことを確信し、今に至るまで様々な場でも自信を持ってプレゼンすることができた。
メンバー間の相互理解を図ること
サービスを設計する際、自分はエンジニアではない経営者だからこそ、エンジニア自身のことをできるだけ深く知ろうと言い方や話し方、エンジニアの思考などを把握しようと取り組んだ。エンジニアを知り、意思疎通ができることでしっかりと形に落としこむことができる。
オフィス作業もいいが、合宿など場所を移すことで新しいアイデアが生まれたり建設的な議論をすることができる。メンバー間のコミュニケーションのためには、定期的にいつもと違う環境を作ることで、互いの理解を深めることができる。
メディア露出のタイミングときっかけを作る
様々なメディアに露出するためには、テレビなどのニーズを把握しておくことは大事だ。旅行の特番がどういった時期に放映されるのかなど、タイミングを考慮しながら日々コミュニケーションを取るべきだ。また、サービスがどのようにカテゴライズされているかなど、自身の立ち位置なども把握しておいたほうがいい。
イベント登壇も積極的に行ったほうが良い。コラボを期待している大手事業者との接点も作りやすく、事業者のファンをこちらのサービスに引きこむことで相乗効果も生まれやすくなる。費用対効果の高いマーケティングが可能だ。メディアや事業者とのきっかけのための露出施策を考えよう。
ユーザとしっかり向きあうこと
定期的にトリッピースのユーザ交流会を開き、親交を深めながらコミュニティを作っている。さらに、ユーザとの日々の情報交換などの手段として、イベントやコミュニティはうまく機能する。リアルな場はとても重要だ。
また、個人的にも週一程度で直接ユーザと会いながらヒアリングを行なっている。サービスを使ってもらっているユーザと向き合い、喜びや感動を共有するだけでなく、どのような改善策が有効かをユーザと一緒に考えていくことができる。経営者として、ユーザとしっかり向きあうことは大切だ。
良いアドバイスを聞き、自分の頭で考えること
サービスに対して多くのアドバイスを頂くことがあるが、すべてのアドバイスを受け入れようとするとサービスがぶれてしまう場合がある。参考となるメンターを数人作り、日々コミュニケーションとりながらアドバイスを聞き、そのアドバイスもとに自分自身でしっかり考えることだ。
もちろん、多くの人たちからいただいたアドバイスはすべてメモをしておくが、それらをすべて考慮しようとすると手足が止まってしまう。いいアドバイスのせいで手足が止まってはサービスにとって本末転倒だ。メモをしつつ、適宜参考にするような形でアドバイスを受け入れつつ、自分自身で納得する形で実行していく。
メンバー間で課題を共有し、進捗共有を図る
当初は出勤時間などもなく進めていたが、毎日朝会をやり、その日のタスクの確認などを共有化したことで作業効率が大幅に上がった。日々顔を合わせて課題を共有しながら自分たちの進捗を共有し、同じ目標に向かって突き進むための時間をとることは、チームにとって大きな意味を持つ。
朝会と同時に、スケジュール管理を徹底することは大切だ。後ろ倒しになる会社の文化を作ると、スタートアップとしての勢いがなくなってしまう。スケジュール管理は徹底したほうがよい。
選択と集中でKPIを設定する
始めは、トリッピースとしてのKPIを設定することができなかった。しかしある程度ユーザ数が増えてきたことで、何が大事でどこを重視するべきかが見えてきた。トリッピースとしてのKPIを設定し、PDCAを回しながら日々改善を実施したことでサービスのクオリティが良くなってきた。選択と集中といった言葉があるように、正しいKPIを設定し、ユーザの動きとニーズに答えながら徹底的にサービスの向上を図っていこう。
日々、経営者はリクルーティングの意識を持つこと
新しい人材、新しいメンバーが入ることでチームのチベーションが上がることは多い。リクルーティングのためには、候補となる人と定期的に会って話をすることは大切だ。会社員であれば企業をすぐに退職することは難しいため、時間をかけて口説きリクルーティングのための調整をしていく。
良い人材獲得のためには、目先のことだけでなく数年後を見越してメンバー構成を考えていかなければいけない。一人でも多くの人材を獲得できる環境を作り、リクルーティングの意識を日々持ちながら妥協をせずに取り組んでもらいたい。
理想を高く、情熱を持って取り組め
トリッピースは、自分の情熱そのもののサービスだ。創業者に似ているサービスは良いという話を聞くが、まさにサービスと自分とが一体化しているからこそ軸がぶれない。自分の思いを拡張し、大きな未来を作っていくために理想を高くしておく。トリッピースであれば1000万人を超えるユーザに向けて、非日常を届けるプラットフォームをコンセプトに日々開発を行なっている。スタートアップは、目標の桁を大きく、理想を高くしてサービスに取り組んでもらいたい。
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