【投資家・起業家対談】「オールイン」を三回繰り返したら世界に届くーーインキュベイトファンド本間氏×gumi國光氏

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投資家と起業家の関係は興味深い。特にシード期の投資家と起業家は共同で経営にあたり、資金だけでない特別な関係を結ぶことが多い。そこにはどのようなやり取りや葛藤があるのだろうか。このインタビュー・シリーズでは、投資家と起業家のお二人に対談形式で「二人だから語れる」内情に迫る。

初回のシリーズでは日本の独立系ベンチャーキャピタルでアーリーな企業を支援する、インキュベイトファンドのパートナーとその支援先にスポットを当てる。対談するのはインキュベイト・ファンド共同代表パートナーの本間真彦氏とgumi代表取締役の國光宏尚氏だ。※なお、國光氏は9月13日に開催されるイベントにも登壇予定だそうだ。

gumiの創業は2007年6月。モバイルソーシャルネットワークのgumiを皮切りに、モバイルゲームのアプリケーションプロバイダとして急成長。これまでに総額で約27億円を調達するなど積極的な展開でも注目度が高い。

また最近では子会社のエイリムが公開したブレイブフロンティアKabamとの提携で発表されたPuzzle Trooperなど「ネイティブアプリ」「グローバル展開」をキーワードにチャレンジを続けている。本間氏は同社の初期投資家であり設立に深く関与した人物だ。

二人はまず、世界展開の話題から話を始めた。

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ステージで変わる起業家の考えるべきこと

本間:國光さんって普段何を考えて事業に取り組んでます?

國光:今、この瞬間で言えばAppleのフィーチャーが気になるよね。(編集部注:取材当日はKabamとの提携発表を控え、國光氏はそわそわしていた)昨日から寝てないので微妙なテンションなんですけど。

本間:ステージによっても変わりますよね。

國光:確かに時期によってやることは変わる。例えばこの一年間はウェブからネイティブへのシフトが気になっていたし、それとグローバル展開も。「ネイティブとグローバル」をテーマに一年以上やってきた。

昨年4月に韓国オフィス開設して5月にシンガポールでしょ、6月には上海、その後台湾、インドネシア、ヨーロッパと展開したし、人員的にみても東京が250人で福岡が70人に対して海外勢が230人くらい。勢い的には海外の方が多くなりつつある。

本間:なるほど

國光:ただ、ゲームが出るまでに大分時間がかかったね。1年数カ月かかったのが今、ようやくPuzzle Trooper公開でしょ。来週の火曜日には韓国のKakaoからシューティングゲームが出るし、中国で開発しているRPGの日本リリースがもうすぐだし、来月あたりにはスロットゲーム、さらにブレイブフロンティアのAndroid版とグローバルローンチも控えてる。仕込んできたものが現実になるわけ。

本間:ステージ毎に時間の使い方って変わってる?

國光:会社のステージで考えると100人を境に変わるね。100人ってまだ全部自分でみれるのよ。売上から何から何まで会社の「今」を全部。でも、堀内さん(元gumiCTOの堀内康弘氏)とかそういう人が入ってくると「じゃあ自分はマーケットとコンテンツをみるか」ってなるし、今泉(gumiプロデューサーの今泉潤氏)とかがくると「コンテンツは彼に任せて海外をみようか」となる。

基本的に全部みつつ、リソースが足りない所を自分がみる。ただ、100人を超えるとしっかりとしたマネジメントチームが出来てくるから、社長の仕事って「今」じゃなくて「未来」のビジネス全部に変わってくる。

本間:結構思い切って任せますよね。

國光:去年の頭ぐらいはもう国内ゲームの現場は全部、今泉がみるようになって、自分は海外の立ち上げとかエイリムのようなスキームを作ったりすることに集中してた。Kabamとの提携もそうだし、Kakao、中国で進めてる事業も全部そう。社長としての自分の動きは全部そっちに変わっていった。

今年の頭とかは海外行きまくってたからね。でも、また海外の現場もある程度育ってきたら、例えば今はデイビッド(gumi Asia CEOのDavid Ng氏)に任せるようにしてる。

本間:今の今ってどんなこと考えてます?

國光:ステージがさらに変わってて、今の重点はやっぱり次のIPOに向けた資金戦略やグローバル展開を引き続きどう舵取りするか、ヨーロッパやアメリカをどう攻略するか、そういうことを考えてる。現在が600人規模の会社になったから、さらにひとつ大きな階段を登ろうとするにはやっぱりグローバルで強いチームでないといけない。そういう観点で人の採用をどうするか、とかね。

IPOした後のことも重要。海外の投資系アナリストや投資家とのリレーションも考えないといけない時期にきている。そんなことを考えつつ、でもやっぱり次のゲームがどういう方向性になるかを理解しなければいけないので、とにかくゲームをやりまくる。

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起業家は勉強家であるべき

本間:國光さんって他の起業家とやっぱりどこか違うんですよね。例えばコンテンツを細かくみたり、とにかく研究熱心。その上で人にバコッと任せることが出来る。どうしてそういうことができるの?

國光:多分ね、他の人と決定的に違う考え方かなと思っているのは、例えば他の人って今の積み上げの先に未来があると思いがちでしょ。売上が今これだけあるからKPIをここに設定して倍増させよう、年の売上を倍増させようとしたら毎月の成長率は8%で…とか。

本間:うん、ありがちだよね。

國光:利益がちょっと落ちたりすると、コスト削減だとか海外縮小だとかそういうことをやって「選択と集中です」って奇麗にまとめたがる。でも、もし自分がネイティブが勝つ、さらにグローバルが伸びるし三年後や五年後のゲーム業界の中心は確実にその方向に向かうと確信するじゃないですか。

じゃあ、と考えるんです。三年後にそうなってるんだったら、その時の売上や規模感、人数を想定するわけです。さらにそれを二年後、一年後、半年後、二カ月後とブレイクダウンして考えるのね。そうすれば今何をやればいいかがみえてくる。

本間:結構細かく考えてるんですよね。

國光:世界にいくって沢山の起業家がいってるけど口だけ。明確なイメージを持つことが重要で、三年後にトップ取ってる会社があるとして、そこはどんな規模なのか、グローバルマーケットの市場規模はどれぐらいで、そこのシェアの2割を取ろうと思ったらどんな人員構成で、というのは分かるはず。

個別の会社のミクロな情報ってみえにくいけど、グローバルのマクロな情報って想像つきやすい。例えば今年のネイティブゲームの日本のトータル売上とかはそこまでぶれない。

本間:意外と思われがちだけど、國光さん勉強好きだよね。

國光:本とかネットとか勉強には割と強い気がする。当然だけど今後のゲーム市場がどうなるかを理解しようと思ったら、Zyngaが世界戦でどうなってきたかを調べるべきだし、他のエンターテインメント、映画とかテレビがどうなっているかを調べまくるべき。

それと他の産業も調べて、例えば石油産業ってゲーム業界と似てたりするので、じゃあその業態がどうなっているかを参考に今後を予想してみたり。

「オールイン」を三回繰り返したら世界に届く

本間:でもそういう大勝負ってリスクも伴うわけですよね。先日もgumiの官報が話題になってて「ここまで攻めててすごい」って感想もあれば「えーマジか」って思う人もいただろうし。過去を振り返ると、まだ全然事業が当たってない時期に100人採用しようって提案したら國光さんも「よしそれやろう」って同意してくれたり。当時の月商800万円ですよ(笑。

10億円「掘れば」世界に行けるとして本当に突っ込んじゃう。でもなかなかそれを実行できないのが常じゃないですか。

國光:まずね、確かに細かい所のミスは沢山あった。けど、大きな方向性は間違ってなかった。会社設立の時もソーシャルとモバイルが来ると考えて最初はケータイ版のツイッターを作って、それがフェイスブックのようなものに変わって今がゲームでしょ。でも、人中心のソーシャルやモバイルという軸は変わってない。この二つが世界を変える、そこは当たってたのよ。

本間:確かに。

國光:もうひとつ、自信があるのは、この業界のことを一番勉強していると思ってるし、よく観察してる。だからマクロの三年後の方向性は当たってる自信があるの。だってさ、ちっちゃい7人のベンチャーが数年後に世界一のエンターテインメントの会社になろうとしてるわけですよ。相当のことはやらないと無理。

創業当時から「オールイン」を三回繰り返したら世界に届くんじゃないかって言ってるけど、割と本気でそれやってるしね(笑。

本間:でも普通だったらやっぱりそこでオールインはしづらいじゃないですか。

國光:ほとんどの人は天下取るって言ってるだけで取る気なんてないんですよ。諦めなかったヤツだけが残る。スポーツとか格闘技の方がピュア。起業家ってそこまでピュアに勝ち残ろうとする気持ちが少ないんじゃないのかな。

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本間:しかし本当に國光さんって全く成功してない時から一貫して同じこと言ってるよね(笑。ビッグマウスだし、不安なんてないの?

國光:インテルのアンドリュー・グローブ氏が「Only the Paranoid Survive」(偏執狂のみ生き残る)って言ってるど、やっぱりドキドキする神経症の人間だけが残ると思うのよね。天下取ったと思ったらその後に突然絶望感がやってくる。

丁度今日の午前2時位にリリースしたPuzzle TrooperがAppleのグローバルフィーチャーに掲載されて「やった!勝った!」って思ってその三十分後にサーバーダウンで「ぁああぁああ!」って叫んでるわけです。

そういうのの繰り返し。真剣に思えば思うほど誰よりも色んな可能性が思い浮かぶし、下の可能性も考えるようになる。毎日が強烈なアップダウンで、ダウンが続いた時にしんどいなとなってしまうか、トップを取りたいと思えるかの差ですよね。

本間:悩んでるとは思うんだけど、沈んで立上がれない起業家もいる中、不安や感情とかってコントロールできる?

國光:そういう点ではちょっと他の人と違うことが確かにあるね。自分たちって団塊ジュニアの世代だから大学行くのが当然という雰囲気ってあったじゃないですか。

だけど自分はドロップアウトしてバイトしてたり、さらにそこで地震(阪神大震災)が起こって中国へ行ってバックパックでアメリカまで渡り歩いたりしてたのね。肉体的、精神的に辛いことは腐る程経験してきたから、不安感とかで言えばそれこそ高校卒業してからの方が大きかった。実際「俺はビッグになる!」って最初に働いたのは居酒屋だったしね。

本間:もしかしたら居酒屋チェーン作ってたかもね(笑。

國光:「逆境ナイン」って漫画があるんです。順調に行ってるなと思ったらなにかしら逆境がやってくる内容で「また来やがったか逆境!」ってやるんですね。

人生って何度も逆境ってくるじゃないですか。でもそれにどれだけ立ち向かったかで自信って変わると思うんです。同じ39歳だったら誰よりも経験してるし、勉強してるし、全部全力でやってきたっていうのが根底にあるから、その積み重ねが自信に繋がってるのはありますね。

ーー國光氏がなりたかったものとは?山田進太郎氏との出会いも語った次回はこちらか

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