鮮魚流通スタートアップの八面六臂が1.5億円を資金調達

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八面六臂 代表取締役 松田雅也氏

東京を拠点とする、鮮魚流通スタートアップの八面六臂(はちめんろっぴ)は今日、ピグマリオン2号投資事業有限責任組合(バリュークリエイト)、ベクトルウインローダーのそれぞれを割当先とする第三者割当増資を実施し、1.5億円を資金調達したと発表した。調達資金を使って、同社は新規エリアを含めた顧客基盤の拡大のため、人材強化、システム開発、設備投資を行う。また、PR業界のベクトル、物流業界のウインローダーとの協業により、事業拡大のスピードを加速する。

八面六臂の創業者で、代表取締役を務める松田雅也氏は興味深いキャリアを持つ人物だ。大学卒業後、大手都銀に入行、独立系ベンチャーキャピタルを経て、八面六臂の創業までに2つの事業を立ち上げている。これまでに総合物流業界のIT部門やMVNO(仮想通信事業者)の代表を務める中で、物流やデジタル通信分野の動きを体得し、今後、大きな可能性が見出せる分野として、鮮魚流通の革新にチャレンジを始めたのが2010年9月のことだ。

八面六臂は全国各地の魚市場などから魚を仕入れ、居酒屋やレストランなどに、現場のニーズに応じて鮮魚を届けている。日本の漁業水産は3兆円市場と言われ、同社は2020年までに、その1割にあたる3,000億円の売上達成を目指している。

魚を仕入れる上で、お店にはそれぞれの都合があり、時と場合によって、欲しい魚も量も違う。一方、漁は自然相手なので、手に入る魚の量や種類は実に気まぐれで、需要と供給をマッチさせるのは、まるでパズルを組み合わせるようなものだ。我々はそれを、デジタルの力を使って実現しようとしている。

素人目には、居酒屋チェーン等の隆盛で、一見、漁業流通の世界も競争が激化しているようにも思えるのだが、松田氏によれば、実際に熾烈な争いを繰り広げているのは、東京の山手線の内側くらいのもので、それ以外の地域では、基本的に供給者側の論理で魚が流通している。

お店から○○という魚を×本欲しい、と言われて、不漁で数が揃いません…では許してもらえない。そういう意味では、産地直送も、常に最良の手段とは限らない。お店のニーズを知って、それに合った代替案を提案するのも弊社の仕事。

…と、提案力にも自信を見せる。


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飲食店が操作する、八面六臂のiPadアプリ。

飲食店のニーズを常に把握すべく、営業担当者が契約先を定期的にまわり、厨房や料理人とのコミュニケーションを欠かさない。面白いのは、飲食店毎に営業担当者が固定化されているわけではなく、把握した情報が Evernote などで完全に社内共有されている点だ。営業担当者の誰が契約先を訪問してもよく、八面六臂のビジネスが急拡大したとしても、クライアントのケアが属人的でないため、スケーラビリティが確保できていることになる。

取り扱った魚を、飲食店を介して最良の状態で消費者の口に届けるまでが、八面六臂の提供すべきユーザエクスペリエンスだと考える松田氏は、調達した資金を使って、得意の提案アプローチを試みる模様だ。単に魚を届けるだけでなく、ある魚を使った料理法を料理人に提案するなど、言わば魚屋の御用聞きが、料理店の厨房の勝手口でしていた仕事を、スマートデバイスを使って実現しようとしている。

おそらく、マーケット・ディスラプティブ(市場破壊的)なビジネスとは、こういうことを言うのだろう。小売りディスカウンターにありがちな、商流からの単なる中間業者の排除ではなく、デジタルを使って業界全体の底上げを図ろうとしている。消費者は美味い魚が食べられ、漁師が仕事に見合った収入を得られれば、漁業水産業界は今までに増して潤うことになるからだ。

ラクスルLeNetなどもそうだが、最近、既存の産業をデジタルを使って革新させようとする新しいスタートアップを、いくつか見聞きするようになった。機会を見て、そのようなスタートアップを本サイトでも集中的に取り上げてみたい。

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