強い企業カルチャーを生み出すこと−−エニグモ須田氏が語る事業拡大時に意識すべき教訓と経営判断

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計画通りに事業が進むことはほとんどない。失敗や苦労といった紆余曲折を経験して、成功を収めることができる。

エニグモ代表取締役最高経営責任者の須田将啓氏は、2004年に株式会社エニグモを、同社共同代表の田中禎人氏とともに創業。ソーシャルファッション通販サイトBUYMAなどを運営し、2012年に東証マザーズ上場を果たした人物だ。

同氏がMOVIDA SCHOOLで語った事業拡大時に意識すべき教訓と経営判断についてまとめた。

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創業のきっかけと立ち上げの苦労

大学ではコンピュータサイエンスを専攻し、博報堂に入社。同僚だった田中禎人氏と一緒に創業したのがエニグモだ。エニグモは、BUYMAというCtoCのマーケットサービスを提供している。特徴は、海外でバイヤーが掘り出し商品を発見し、日本で売るというモデルだ。

CtoCサービスは立ち上がりが難しい。また、商品ジャンルも最初は定めていなかったため、プロダクトの強みが明確ではなかった。システム開発も経験がなかったため外注していたが、なかなかスムーズにいかず費用がかさんでいった。立ち上げ時に友人から集めたお金では足りず、JAFCO他4社から出資をしていただいた。その後SCN(現:So-net)からも出資をいただきながら、事業を進めていた。

開発と収益の二つを軸にした事業モデル

BUYMAはすぐに収益が見込めるサービスではなかったため、違うビジネスで稼ごうと考え、プレスブログという広告サービスを開始した。広告事業で収益化が図られるようになったため、調達した費用をBUYMAに長期的な投資に充てることができた。

その後、営業を増員し、収益拡大を目指して取り組んだ。同時に、filmoやシェアモといった新事業も展開した。それまでサービス開発中心の企業だったため、営業が加わったことで社内のカルチャーも一気に変わり、勢いのある社内の雰囲気となった。

急拡大は組織にひずみを作りやすい

ベンチャーは、成長を求められる存在だ。そのため、経営者は成長欲求が常に頭の中にある。営業に力を入れて売上を向上させるためには、メニューを増やすか人を増やすしかない。当時は、人を増やすことが企業の成長の形だと考えており、急激に人を増やしていった。

しかし、新入社員の教育が進まず、さらに売上重視で昇給を決めておりマネジメント視点の組織を構成できていなかった。急拡大は組織にひずみを作りやすい。リーマンショックなどの影響によって売上が減少したことをきっかけに、次第に社内の雰囲気も悪化した。社員の視点が内向きになり、チーム同士で疑心暗鬼になったり社内政治を意識して物事を考えるようになったりした。企業を急拡大させたことで会社のカルチャーが崩れ、良いものが生まれにくい環境となったという教訓だった。

経営不振からのV字回復

事業を刷新し売上を伸ばしていこうと対応したが難しく、結果的にリストラをせざるをえなかった。人数拡大期はみんなで楽しく山登りをしていたが、急に天候が悪くなり食料が尽きてきた中で、登頂という成功を収めるために仲間に山を降りてもらうための判断をリーダーはしなければいけないという、苦渋の決断だった。

そこから、BUYMA一本に事業を絞ろうと決断し、広告事業も少しづつ撤退させていった。BUYMA一本に絞ったことで組織が一丸となり、社員全員が同じ方向を向いて走りだした。おかげで、BUYMAの売上も急成長し、2012年7月はV字回復となりIPOをすることができた、

目先の利益よりも将来の利益を重視

BUYMAは、地道にユーザを伸ばし、プロダクトとしてのカルチャーができ売上も順調に伸びてきた。広告事業は、売上は上がるが売って終わりで次につながらない。企業としての持続可能性を考える上で、広告事業を撤退することが正解だった。

経営刷新の際、広告事業を譲渡する話もあったが、目先の利益よりも将来の利益に注力したいと考えた。事業譲渡は、譲渡するまでの移行期間にエンジニアや営業の工数がかかる。人的リソースがBUYMAに割けないこともあり、譲渡せずに撤退準備をしたほうが良いと考えた。

事業計画の中で、コントロール可能な数字はコストのみ

初めに立てた事業計画は、実際に事業を進めてみると思うようにいかないことは多々ある。BUYMAの時も、当初予定した事業計画通りに売上は上がらなかった。この経験から、計画を立てる時は売上をあてにせず、どれだけ費用がかかるかを見越すことが大切だ。事業計画で唯一コントロールできるのはコストだけだ。予算感も始めに設定したものの半分でやろうと考えることで、要らないものを削るようになる。

共同代表制でより良い経営判断を

エニグモは、共同代表制を取っていることでも注目された。株の比率は同じで、同じ立場で意見を言い合った。メリットは大きく、代表が二人いることで人脈も二倍に広がる。代表しかできない仕事も、分担して行うことができる。

経営判断についても、同じ課題を違った角度で議論することでよりよい方向を導き出すことができる。幸いにも、会社員時代から仕事をしていたこともあり、互いに仕事の仕方も知っていた。うまく役割分担を行うことで、信頼して任せることができたのは良かった。

強い企業カルチャーを生み出すこと

事業を拡大していた時、社内はルール化されて官僚的な空気感だった。そうではなく、みんなで一丸となって会社を盛り上げていこうとするカルチャーを、どう作っていくかが大切だと考え、組織作りに気をつけた。いかに相手へのおもいやりを大事にするか。人に対するリスペクトを持っているか。

事業拡大の失敗の経験から、エニグモでは経営理念としてのENIGMO 7がある。自分が一緒に働きたいと思う人が、チームとして優先すべきものだ。一緒に居て居心地のよい人のほうが、事業へのコミットも強く、成長意識を持って取り組んでくれる。こうした強い企業カルチャーを大切にすることで、より良いものが生まれ企業が成長していくことができる。

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