チームの編集力でインターネット学習の水準を作るschoo(スクー)のコンテンツメイキング

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左から小禄氏、森氏、中西氏
左から小禄氏、森氏、中西氏

10月28日、筆者のTwitterやFacebookがにわかに賑いを見せた。その賑やかさの元は「schoo(スクー)」。「世の中から卒業をなくす」というミッションのもとに、インターネット生放送を通じて講義を日々配信し、人々の知的好奇心を満たすコンテンツを提供するオンライン上の学校サービスだ。

10月28日の夜に放送された講義は、

の2つ。

この2つの講義は、ベンチャーユナイテッドの丸山聡氏が10月17日行った「1億円調達するためのベンチャーファイナンス基礎知識」の続編とも呼ぶことができる講義となっている。これら3つの講義をまとめて見ると、ベンチャーファイナンスにおける歴史、環境、現場といったこと、投資やVCの仕組みや考え方がより理解できるようになるはずだ。

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放送されている間、放送後に、ソーシャルメディア上で「schoo(スクー)は楽しい!」「面白い!」といった投稿が多く見られた。当日のことは、丸山氏も自身のブログに投稿されている。schoo(スクー)では、ファイナンス以外にも、チームマネジメントや事業計画の作り方など、スタートアップが学ぶべきことをコンテンツにして発信している。

筆者は、スタートアップに向けたコンテンツを作り、大きな反響を呼び始めているschoo(スクー)のコンテンツ事情について話を伺うために、schoo(スクー)のオフィスへと足を運んだ。取材には、株式会社スクー代表取締役社長森健志郎氏、同社取締役コンテンツ部門責任者の中西孝之氏、そしてこの夏に新しくスクーへと参加したコンテンツディレクター、編集者の小禄卓也氏が答えてくれた。

ファイナンス特集を実施した経緯

schoo(スクー)で、ベンチャーファイナンス特集を組んだ理由について森氏は、

「ベンチャーファイナンスの特集を組んだ一番の理由は僕の実体験なんです。」

と語ってくれた。自身も、2013年7月に伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、インキュベイトファンド、ANRIから1億5200万円を調達した森氏。当時の体験について「わからないことばかりだった」 と振り返る。

資金が動きやすくなっており、最初から億を動かす起業家が出てきてくれたほうが、ダイナミックな動きが増える。だが、億を超えた調達には落とし穴もある。どんなことに気をつけなくてはいけないのかを知ることができ、これさえ見れば課題を解決できるというコンテンツを作ることができたら、というのがきっかけだったという。

受講後どうなるかを考えてコンテンツを設計

現在、スクーでは「スタートアップ科目」と「ウェブデザイナー科目」が存在している。

「科目を2つ設定することで、最初に実施したことは、ペルソナ像の設定でした。スクーのコンテンツを受講することで、受講した人はどうなるのかを考えてコンテンツを設計しています。スタートアップ科目については、「この科目を受講することで起業準備中から、シリーズAの調達まで完了することができる」というフレームを作りました。このフレームにそうかどうかを考えて、コンテンツのディレクションを行っています。」

受講した人が、その後どういった体験をすることになるのかを考え、そこに合うようにするために、講師との打ち合わせを行い、すり合わせを行っていく。ウェブデザイナーの科目についても同様で、未経験の人でもこの科目を受講し続けることでフリーランスでも仕事ができるようになる、というフレームでコンテンツを設計しているそうだ。

その他にも、”スタートアップマネジメントあるある”と呼ばれるような課題に関する講義もスクーには登場する。ユナイテッド株式会社 代表取締役社長(COO)金子 陽三氏が登壇予定の「スタートアップ組織づくりの具体策を学ぶ」などがそうだ。

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中西氏:億超えの調達を行うと、会社の仕組みを持ち込むことになり、大体そこでワークせずに破綻します。

森氏:しました(笑)

中西氏:みたいな話を、じゃあ「あなたならどうしますか」みたいな話をディスカッションで進めたりします。

と、調達の話に引き続き、マネジメントなどについても自らの経験から、こうしたことは知っておいたほうがいい、ということをコンテンツにしている。彼らの体験があったからこそ、講義がファジーな内容にならず、プラクティカルなものになっていると考えられる。

大事なことはサイト訪問時にユーザーが学んだ実感を得ること

「学習は、結果が得られるか、圧倒的におもしろいか、もしくはそのどちらもか。」

だと語るスクーチーム。そこをいかにインターネットを通じた生放送で、先生とのインタラクションを作っていくかが重要なポイントになっているという。

「コンテンツ内容はフレームである程度完了しており、どうやってインタラクションを作っていくかを先生とやりとりしながら決めていく感じですね。」

スクーの講義は一方的に先生が話をするだけではなく、クイズ的なものなど考えさせるものが多いという。

「授業をすることにフォーカスしているのではなく、ユーザーがサイトを訪れた際に学べたな、という体験をしてもらうことにフォーカスしています。」

オペレーションとインタラクションを含めてコンテンツ

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先述したような、先生とのインタラクションや参加者同士のコミュニケーションを促すUI。講義がスタートする前に、準備したことを知らせる「着席しました」のボタン。講義を聞いていて、勉強になったときに押すことができる「なるほど!」ボタンなど、単純にコメントしたり、質問したりする以外にも授業に参加する方法がいくつも用意されている。

「インタラクションがなかったらリピートしてくれることはありません。それでは結局ビジョンに掲げている「世の中から卒業をなくす」ことはできないので、いかに参加してもらい、チャットなどをしてくれるかを重視しています。」

と、インタラクションを重視していることを語ってくれた。

記事の冒頭に紹介したベンチャーユナイテッドの丸山氏は、他の参加者と一緒に講義を受けたり、知り合いとFacebookでチャットしながら講義を受ける参加感を「ワッショイ感」と表現している。誰かと一緒に参加することで、体験を共有でき、スクーのコンテンツをより楽しいものにしている。

何度も引用させていただくが、丸山氏はスクーの放送チームについて「オペレーションエクセレントを追及している」とコメントしている。今回インタビューさせていただいた3名は、もう放送の現場には行かず、放送は別のチームが担当することになっているが、それでも質の高いオペレーションを実施し、講師の満足度も高いという。

「放送チームは細かいところなど、現場で工夫してより放送のクオリティを高めてくれています。講師の満足度も高く、オペレーションも全部含めてコンテンツだと、私たちは考えています。」

普通、”コンテンツ”と聞くと、先生が教える情報だけだと考えてしまうのではないだろうか。スクーのチームでは、その講義を受ける際のインタラクションや、先生が講義を心地よく行うためのオペレーションなど、すべてを包括してコンテンツだと考えている。この考え方とユーザー体験への追求が、スクーの講義を受けた人に「楽しい!」「おもしろい!」という感覚を抱かせているのではないだろうか。

チームでの編集力

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現在、スクーでコンテンツを設計している中西氏と小禄氏は編集者出身だ。コンテンツを作るという点では編集者のスキルが活きる部分は大きい。だが、インタラクションのことなどを考えると、Webのデザイナーなど、別の職種の人にアドバンテージがあるように思う。先述したように、スクーのコンテンツは様々な要素が必要になる。今後、スクーのコンテンツを作る人々はどういった人が増えていくのだろうか。

「色々なナレッジを持った人たちが、互いにそのナレッジを共有するようにしていくようにできればと思っています。たとえば、TV番組を作っている人や、ソーシャルゲームを作っている人、広告のクリエイティブなど。チームとして様々なスキルやナレッジを持ち、スクーならではのコンテンツを作っていければと思っています。」

小禄氏はスクーのコンテンツディレクターになった理由として、「コンテンツに魂を込めている、ちゃんとモノづくりしている感じがした。」とコメントしてくれた。コンテンツディレクターだけではなく、デザイナーやエンジニアなど、スクーに関わるチームすべてが、コンテンツのことを考えていること、チームでの編集力が高いことがスクーの利点なのではないか、そんなことを感じた取材だった。

森氏は最後に、

「私たちが楽しい学習コンテンツや体験を示していくことで、インターネット学習コンテンツの水準を作りたい」

と語ってくれた。

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