【投資家・起業家対談】「nanapiって今までやってきたサービスの中で一番難しい」ーーグロービス・キャピタル・パートナーズ高宮氏×nanapi古川氏(2/4)

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投資家と起業家の関係は興味深い。特にシード期の投資家と起業家は共同で経営にあたり、資金だけでない特別な関係を結ぶことが多い。そこにはどのようなやり取りや葛藤があるのだろうか。このインタビュー・シリーズでは、投資家と起業家のお二人に対談形式で「二人だから語れる」内情に迫る。これまでの掲載:1回目2回目3回目最終回

(文中敬称略、聞き手は筆者)

nanapiの道のり

2007/12 ロケットスタート設立
2009/06 代表取締役古川健介、取締役CTO和田修一の2名で本格始動
2009/09 ライフレシピ共有サイト「nanapi」をリリース
2010/11 グロービス・キャピタル・パートナーズから3.3億円の資金調達
2012/04 株式会社nanapiに商号変更
2013/07 KOIF、グロービス・キャピタル・パートナーズから2.7億円の資金調達
2013/12 東京都渋谷区道玄坂に移転

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nanapiにとって2011年は我慢の年

TB:2011年は我慢の年でした。お二人の雰囲気が悪くなったりとかってあったんですか?

古川: それはなかったですね。思い浮かばない。ただ、nanapiって僕が今までやってきたサービスの中で一番難しいですね。誤解を恐れずに言えば苦戦してます。

高宮: 記事を作れば伸びるんですけどね。累乗的な伸びがいつかはやってくるだろうと思ってたんですけど、その「ぐわん」って伸びるタイミングがいつかわからない。ドキドキしてましたよね。

古川: じわじわ伸びるんですよね。月10%成長とか。

高宮: 去年の5月頃でしたっけ。カテゴリ分けしてぐわんと伸びたの。

古川: そうですねー。今はまた止まってますけど(笑。小澤さんはずっとこういう(アクセスが一気に伸びて、踊り場に入ってまた伸びる)動きになるんじゃないかって言ってましたけど、その通りですね。

このnanapiって僕らにしては結構考えて、ここを増やせば伸びるっていうロジックで攻めてるのが珍しいやり方なんですよ。これまでって「これやれば絶対当たるよね!」っていうのをやって「わーい1億PVいったー」っていうのが今まででしたから新鮮と言えば新鮮ですね。

高宮: なので、ぐっと伸びるタイミングまではひたすらキャッシュ使ってたんですよね。

古川: そうですね。

高宮: 平坦な伸び率のまま、中期戦略の大きな絵についての議論の中で、最悪成長率はこのままじわじわで、1年後にキャッシュが尽きたらどうしましょうかって話が出た時、実は最悪の場合はウチでもう一回支えなきゃいけないって腹括ってたりしました。

古川: おお。

高宮: もちろん投資家としてはイヤな状況ですよ。大きなマイルストーンを達成して次のラウンドにいく方が当然スムーズだし、道半ばのラウンドって苦戦するのは必死なので。

古川: じゃあその腹括った直後ですね。

高宮: カテゴリ分けしたら一気に伸びましたね。

TB:そういう時ってハッパかけたりしないんですか?

高宮: nanapiにはCFO(最高財務責任者)がいなかったんですよ。だから敢えてハッパかけたり、こちらが腹括ったみたいなのは出しませんでした。CFOがいない会社にファイナンス的にヤバいっていうプレッシャーかけたところで仕方ないし、そこはリードの投資家が引っ張るしかないじゃないですか。

古川: そうですね。それにどちらかというと私たち、「お金なくなったら稼げばいいや」っていう感覚があるので、それはセーフティーネットになってましたね。

高宮: ラーメン代ならいつでも稼げるっていう。

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急成長期への期待

高宮:1000万ユーザーを越えたのはそこからもうちょっと先ですかね。

古川: 大体1年後ぐらいです。

高宮: 2011年って何やっても上手くいってなかったですよね。

古川: それでも1年でみると、170万ユーザーが400万ユーザーになってるので、今からみたらそんなに悪くはないんですけどね。

高宮: 順調に一次関数的に伸びてますね。クリティカル・マスに達するまでひたすら記事を作り続ける。オペレーション効率を高めてどうやって記事制作を効率化させるか。

古川: そうですね(遠い目。

高宮: 記事数のクリティカルマスって、最終的にはお金で解決する話なので、いつかは絶対到達できると思ってました。ただ、いつくるのかという不安はありましたよ。クリティカルマスに達するまでに3億円かかるのか、5億円なのか、10億なのか。20億円だと単独だと支えるのは無理だな、とか。でも掘り続ければなんか金脈は出るだろうって信じてました。

TB:大変だったんですか?

古川: いや、言い方はちょっとアレなんですが、nanapiってずっと大変なんですよ。だから変わってないんです。

高宮: ただ、みんなの期待値は高いんですよね。

古川: そうですね。未だにやってて全然ブレイクしてないなーって思ってますけど。2000万ユニークユーザーまでは、変な言い方かもしれませんが、小手先でもいけるんです。でもこれを4000万人とかにしようとすると、本当にユーザーに支持されないと無理。

昔やってたサービスで、1カ月で1億PV増えた、とかそういうのはあったんですけど、nanapiが明日突然成長するというのはやはりないですね。

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拡大期ーnanapiのビジネスについて

古川: だいぶ長い時期、広告貼ってなかったんですよね。

高宮: ユーザ数やPVの成長がもやもやしてる時に、中途半端に広告のチューニングとかにリソースかけるんだったら、オペレーションの改善をもっとやって記事をもっといっぱい書こうっていうことで広告を全撤廃してましたもんね。

古川: お金にならないイメージあったけど貼ってみたら意外と儲かったんですよね。初月で100万円ぐらいいって、これチューニングしたらもっといけるんじゃないのってやってみたら3カ月で1000万円ぐらいいっちゃって。

高宮: そう。もっと早く気付けばよかったですよね(笑。

古川: 事業的な視点でみると月次でイーブンになっちゃったりしてましたね。確か去年の8月で単月黒字になっちゃったんですよね。

高宮: そう。よくない(笑。

古川: 黒字になって「やべー怒られるなー」って思ってました(笑。

高宮: nanapiのコストは、ほぼ記事書くところだけですからね。極端な話、記事書くのをやめたら売上だけ残りますから、利益を出すのは難しくないと思います。まあ、逆に、売上がそれだけ立つってことは、もう後はどれだけ上を狙うかってことだけですよね。

古川: 当時で2500万人訪問ぐらいですね。

高宮: シリーズBの前ってKPIも明確だし、オペレーションも定型化してました。

古川: これまでって安定して記事制作することを重視してきましたからね。ただとにかく今はサービスがまだまだなので、組織を変えて、カオスでも熱量が産まれるように工夫しています。

ここ1,2カ月ぐらいやってうまくいきそうなんですが、トラブルが多すぎて寝れなくなってるのが悩みの種です。

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同世代の起業家、そして会社の今後

高宮: 世代に収束するかどうかは別として、イグジットの選択肢が増えたり、モチベーションが変わったりしつつありますよね。76世代って成り上がりとか、そういう雰囲気があったじゃないですか。

古川:大きな事業をやりたいから、大きな会社と一緒にやればいいやっていうのは確かにありますよね。ただ、私たちの世代ってヤフーが存在してて、今の時代にヤフーのようなものを作ることはやっぱり難しいと思うんです。

高宮: nanapiだってシリーズBのラウンドでバイアウトという選択肢がなかったわけじゃないですからね。

古川: むしろ話としては、「どこかに買われるんじゃねえの」ってみんな思ってたみたいです(笑。

高宮: 検討の遡上にも乗らなかったですよね。

古川: せっかくベンチャーやっているし、「グーグルを超える!」とか考えててもいいんじゃないかと思っていたりします。

高宮: 小澤さんも1000億円企業を目指せ!ってハッパかけて、気がついたら7000億円企業目指せ!に変わってましたから(笑。

古川: 小澤さんとやってたときは「よし、けんすう、30億円で売ることを目指そう。30億円稼いだらすごいぞ」って言ってました。なんなら10億円でもいいって。小澤さん含めてみんなの目線は著しく低かったです(笑。

高宮: 笑。でも当時は20億円でイグジットしたらすごいっていう状況でしたからね。小澤さんが言い続けた結果、視点が高くなったんですよね。

古川: それはそう思います。でも最近、「1兆円の企業を目指すとか言わないとダメだ!」と思った翌日にソフトバンクの人に「うちは200兆円を目指しています」と言われて、落ち込みましたよ。想像の世界ですら辿り着いてなかったって。

これまでの掲載:1回目2回目3回目最終回

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