【投資家・起業家対談】「武闘派の経営陣なんです」ーー伊藤忠テクノロジーベンチャーズ河野氏×VASILY金山氏(前半)

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投資家と起業家の関係は興味深い。特にシード期の投資家と起業家は共同で経営にあたり、資金だけでない特別な関係を結ぶことが多い。そこにはどのようなやり取りや葛藤があるのだろうか。このインタビュー・シリーズでは、投資家と起業家のお二人に対談形式で「二人だから語れる」内情に迫る。

今回は伊藤忠グループのVCカンパニーである伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(以下、ITV)からパートナーの河野純一郎氏と、スマートフォン時代のファッションメディア「iQON」を運営するVASILY代表取締役の金山裕樹氏が対談する。VASILYの初回投資ラウンドでリードインベスターを務めたのがITVであり、両者はiQONの成長を二人三脚で見守ってきた関係だ。

私もまた彼らのデビュー当時から取材している関係もあり、ざっくばらんとした雰囲気で進めさせて頂いた。(文中敬称略、聞き手は筆者)

◎公開した後半はこちらから

VASILYの道のり

2008年11月:VASILY設立
2010年4月:iQONリリース
2010年10月:資本金を200万円に増資。渋谷区恵比寿1丁目に本社移転
2011年5月:伊藤忠テクノロジーベンチャーズとGMO VenturePartnersに第三者割当増資実施、1.4億円調達
2012年2月:iQONのiOS版リリース、1カ月後に100万人月間訪問達成
2013年2月:グロービス・キャピタル・パートナーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、GMO VenturePartnersに第三者割当増資実施、3億円調達

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ーーお話はお二人のトレーニング談義から始まる

河野:VASILYも2014年にIPOする会社の特集に出てたよね。

金山:そうそう。でも2014年はちょっと早いかもね、っていうかこんな感じでいいの?この対談(笑。これであの内容になるの?前回の(高宮氏/古川氏対談)見た?

河野:見ました。あの感じにしなくていいですよね(笑。

TB:高宮さんとけんすうさんの時は少し違います。今日は筋肉談義を期待してますので。

金山:やっぱ身体鍛えないとだめっしょ。キゴヤマさんは ゴールドジムだよね?ていうかあそこガチじゃない?俺怖くて無理だよ。あそこで裸になるなんて無理無理。

TB:はい、ロシアの方とか怖いです。ではなぜお二人は身体を鍛えるのかというお話からお願いします。

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起業家と投資家が体を鍛える理由

金山:真面目に話するよ(笑。やっぱり起業してからマジで鍛えるようになったのね。仕事だったり会社のステージが上がっていくと、労働集約的なものは段々少なくなってくるの。

逆に一発の重大な意志決定とかクリエイティブに関わるものが増えてくる。既存の枠を壊すような新しいビジネスモデル考えるとか。風邪をひいていたり、体調がよくないとベストな判断をすることはできない。身体が健康な状態でないといいものは出てこないよ。

TB:ある投資家が北米の投資家は全体的にムキムキで、起業家に威圧感を与えるから俺は鍛えてるんだと話した方がいらっしゃいますが河野さんもやはり?

河野:あまりそういうのはないですよ(笑。ただ、いくらエンジンが高性能でもそれを安っぽいボディに収めたらハイパワーは出ませんよね。ハードウェアとしての身体を鍛えるのは常に「フレッシュな状態」を保つためです。例えば私はファッションが好きなので、格好良く着続けたいというのはありますよね。

金山:あと筋トレすると出てくる快楽物質のためかな。それが出てきてストレス発散になる。

河野:それはあるよね。

金山:ジムは誰かと一緒にいくといいよ。声掛け合ったり補助してもらって自分では上げられない重さを上げられるから。会社のメンバーと一緒にいったことがあるけど、カッコ悪いところ見せれないからがんばっちゃたりしてね。。

河野:手が抜けないしね。

金山:スクワットも浅いのできない。

金山:実はね、スクワットあんまりやんなかったの。ジムのお兄さんにスクワットは「キングオブエクササイズですよ」って言われちゃってさ。さすがにキングを無視できないなと。ちなみにベンチ何キロ?

河野:私も元ボディビルの日本チャンプがやってるジムに通ってて、あそこ日本最古じゃないのかな(笑。そこでもスクワットやれと言われたよ。ベンチはどうだろう。80キロぐらいかな。

金山:男たるもの最低でも自重は上げなきゃね。

河野:本当は100キロいきたいんだけど(笑。

金山:ムキムキになりたい訳じゃないでしょ?

河野:服着れなくなっちゃう。この容積で研ぎ澄ましていきたいね。

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二人三脚で「iQON」を育てた起業家と投資家

TB:さて、筋肉の話ばっかりになるとアレなのでお二人の出会いあたりをぜひ…。

河野:2009年の始めあたりですかね。TechCrunch Japanのイベントで当時ITVだった小川さん(元ITVの小川剛氏)がiQONと出会って、ファッション系だから河野さんどう?って紹介してもらったのがきっかけです。メールで連絡して当時のオフィスだった恵比寿のマンションに行ったのが最初ですね。

金山:キゴヤマさんは知ってると思うけどあの当時って俺、ファイナンスってなんですか?自分で稼げてるのに外の資金入れるなんて馬鹿じゃないですか?っていうスタンスだったじゃない。

TB:確かに。株を売るのは自分の魂を売るのに等しい蛮行だって言ってました。

金山:投資家からの連絡あっても会わなかった。でもその時ってなぜか会おうって思っちゃったんだよね。

河野:当時は確かにアプリの受託開発で好調だったし、ファイナンスは別に考えてませんっていうスタンスでしたよね。だから私もファイナンスしましょうとは積極的にはいきませんでした。ただ、これはいつか勝負する時がくるだろうという予感があったんです。

だからつかず離れずの位置をキープして半年に1回ぐらい連絡をするような関係でしたね。

金山:確かに。

河野:そしたらiQONが事業としていけそうになって、受託と平行するにはリソースが分散するからとファイナンスに流れていった。

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金山:一気にいったね。

河野:当時の会員数は2000人程だったんですよね。ただ、ユーザーの1ヶ月の被服費が4万円ぐらいあってファッション好きな女性が使ってるという兆しを感じられたんです。絶対数は多くないけど、ファイナンスかけてグロースすればファッションメディアに成長すると感じてましたよ。

TB:あれだけファイナンスとか投資家とか嫌ってたのにどうしてITVをパートナーにしたのですか?

金山:いまは撤退しているけど、Googleがboutique.comというサービスを始めたからってのが大きかった。Googleが本気でこの分野に参入してきたらちんたら受託をやりながら戦ってもきっと勝てない。競合はいないと思っていたけど、外圧に晒されたのは確かにある。

けど、ビジネスとしての手応えもあって、ヒステリックグラマーとか最初のタイアップが決まったのもそれぐらいの時期だったし、全く儲からないと思ってたアフィリエイトもそれなりに入ってきて「ああ、これ売れるじゃない」って感じてたのもあった。

河野:海の向こうのPolyvoreぐらいでしたもんね。

TB:当時も受託開発で結構稼いでたし、結果的にファイナンスしたけどその経験は大切ってよく言ってましたよね。

金山:やっぱりそうだよ。モノ作って納めて、契約書まであるのにお金振り込まれないとかそういうヒリヒリする経験って大事だよ。仕事「捕ってくる」っていう感覚。そういう積み重ねがあって肝が据わってくる。

TB:ただ、受託やめてiQON一本にしてから結構苦労してましたよね。確かiOSアプリ出すまで結構キツかったのでは。

河野:暗黒時代ですね。その当時は「この分野はオマエでしか勝てないんだから逆にオマエで勝てないんだったらマーケットがないんだよ。マーケットがないんだったらあきらめる。けどマーケットがあるんだったら勝てるのはオマエでいかいない。だからあきらめずやり続けるんだよ」って言ってました。

最後まで付き合うと。世の中的に明らかに白なのにオマエが黒と言い続けるんだったら俺も黒と言い続ける。そういう覚悟があったんです。そう思わせてくれる何かがあった。

捧げてもいいと。色んなものを。

金山:いろんなもの…イラナイ(笑。

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武闘派の経営陣なんです

TB:お二人はどれぐらいの頻度で会ってるのですか?

金山:毎週会ってますよ。

河野:ふたりだけじゃなくて毎週金曜日は社外取締役を含めて経営陣で経営会議と題したアジェンダのない会議をやってるんですよね。

金山:本当にアジェンダないよね。

河野:アジェンダ決めると義務的になるんですよね。そうなるとちょっと今週忙しいからスキップしようとかそういう「会議のための会議」になっちゃう。でも企業経営者って自分の中に確信に近いものがあってもそこに踏み込めなかったり、悩んでたりというのがあると思っていて、ディスカッションの機会は多い方がいいと思ってるんです。最近入ったあの方はどうですか?とか。

金山:経営会議というか取締役達を相手にした壁打みたいな感覚。日頃気になってることを思うがままに雑談する感じ。でも雑談からいいのが生まれるのよ。俺は社外取締役に入ってもらっている投資家達の脳みそに超期待してるの。ファイナンスする時もどこから出資を受けるかというよりかは誰を経営陣に入れるかっていう視点でものすごく精査したし、だからこそその優秀な脳みそは使いたい。

実際社外取締役の人たちを人月換算して計算しているようなプロジェクトもあるし、使えるものは全部全部しゃぶり尽くすね。

河野:(笑。

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金山:VASILYのファインナスに関して言えばシリーズAの時はまだまだ事業が成り立つか成り立たないかの瀬戸際なところがあるので泥水すすりながらのゲリラ戦。だから河野さんのようなブルドーザー型の人間にミクロな部分をグイグイ推進しいってもらったり、GMOVPの塩田さん(GMO VenturePartnersマネージャーの塩田幸子氏)のようにファッションが好きな女性で実際のユーザーの近い人と一緒にやるのがいいっていうのがあった。

けど、事業確度が高まりより戦略的意思決定が重要な場面が多くなるシリーズBではグロービスの今野さん(グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナーの今野穣氏)のようなマクロな視点を持つ空爆型が必要になるんだよね。

河野:陸軍と空軍(笑。

女性的な視点では塩田さんがいて、直情型で攻撃タイプの僕がカネや人を引っ張ってくる。今野さんは全体を俯瞰しながら駒を動かす(笑。いろんな投資先に関与しているけど、チームとしてのバランスはいいよね。

金山:起業家にとっては投資家選びも社員採用と同じように選ぶ基準は人なのよ。さっきも言ってるけど、俺は社外取締役でもリソースとして人月換算してるから(笑。このチームは武闘派だと思うよ。女性向けサービスやってるのに経営チームはガチだからね。塩田さんも女性にしては武闘派だからね。

TB:それ書いていいの?

金山:否定はすると思う。うん(笑。

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