コミュニケーションをサポートするロボット「OriHime」が、入院患者の孤独を癒す

オリィさん2

病院内の薬剤運搬ロボット「ホスピー」や、手術のサポートロボット「ダヴィンチ」など医療現場へのロボット導入が進んでいる。

今回ロボット技術で入院患者の環境を変えるオリィ研究所の吉藤健太氏にお話を伺い、ご自身の実体験から誕生した人形ロボット「OriHime」への思いについて語っていただいた。

Orihime

OriHimeは入院中の患者と外部の人がコミュニケーションできるように開発された人形ロボット。患者はOriHimeを分身のように操作することができ、離れた場所にいる人に声や動作などを伝えてくれる。

自身の体験が出発点に

吉藤氏は幼少期に長期の入院生活や引きこもりを経験し、その時に人と人とのコミュニケーションの可能性を実感したと言う。その後、彼は工業高校へ進学、段差でも転倒しない安全な電動車イスを開発した。2005年にアメリカで開催されたインテル国際学生科学技術フェア(ISEF) にて、団体研究部門GrandAwardで3位を受賞するなど、医療や福祉×ものづくりの分野で注目を集めている。

彼は早稲田大学理工学部に進学後、ロボット技術で医療現場や患者の環境改善するためにオリィ研究所を立ち上げた。オリィ研究所は、早稲田大学インキュベーションセンターに入居しており、現在入院患者など外にでることができない人のためのコミュニケーションロボット「OriHime」を開発している。

OriHimeは離れたところにいる人同士のコミュニケーションをサポートするロボット。病気で入院中の子どもがOriHimeで授業を友達と一緒に受けられるようにするといった試みや、入院患者の家族がOriHimeを持って旅行することで、病室にいる患者が家族と一緒に旅行しているような体験ができるようにするといった試みが行われている。

OriHime1

ロボットで人と人とのコミュニケーションの場をつくる

現在世界各地でロボット技術を応用した癒しロボットの研究開発は行われているが、その大半が人工知能を利用したものである。人と人とのコミュニケーションではなく、人と人工知能を搭載したロボットとが会話するというものだ。

しかし吉藤氏は、あくまで人対人のコミュニケーションの可能性に注目し、あえて人工知能を搭載しないコミュニケーションツールとしてのロボット「OriHime」を開発した。

単なる電話やビデオ通話との違い

OriHimeは言葉だけでは表現できない人の感情や、視線などを伝えられるよう様々な機能や工夫が搭載されている。OriHimeは操作している人自身の視界を相手のiPadやPC画面、テレビなどに投影することができたり、首の動作や視線の方向なども動かすことができる。

そしてデザインも特徴的で、人間のような姿をしているが眉毛や口はない。吉藤氏は豊かな感情を表現しやすいようにあえて口のないシンプルなデザインにし、猫や鳥のような首をかしげる愛らしい動作を表現できるような動きにしたという。

ロボットが人の外見に近づくと人は好感を覚えるが、あまりに似すぎると嫌悪感を覚えると言われている、OriHimeはこの点も考慮に入れたデザインだと言える。(ロボット工学者の森政弘氏はこの現象を「不気味の谷現象」と呼んでいる。ちなみに嫌悪感を覚える外見の谷を超えると、また人はロボットに対して好感を覚えるものだと言われている。)

筆者自身も入院生活を経験したことがある。その際、SNSで外の友人たちとつながる楽しさが一番の癒しだった。そのため、吉藤氏が掲げている理念には非常に共感を覚える。吉藤氏とOriHimeが人のコミュニケーションをより充実したものにしてくれることを期待している。

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